“インクルーシブ(inclusive)”という言葉をご存じでしょうか? これは英語で“包み込む”という意味の形容動詞で、国籍、年齢、性別、障がいの有無などに関係なく、どんな違いがある人も排除されないという考え方を表す言葉。そんな”インクルーシブ”なイベント「IncluFES 2025(インクルフェス ニーゼロニーゴー)」が2月1日に東京・多摩市立総合体育館にて開催されました。本記事では、どんな人でも楽しめるコンテンツが盛りだくさんとなったイベントの模様をレポートします。

インクルフェスとは?

インクルフェスは「気付き、深め、楽しむ」をテーマにした、みんなのためのフェスティバル。パラスポーツにとどまらない“インクルーシブなイベント”を世に広めるべく誕生しました。フェス会場にはゲーム対戦大会やパラスポーツのVR体験などさまざまなコンテンツを用意。フェスティバルを通して、誰にとってもいい未来をつくるきっかけのひとつとなれるよう、開催されています。

本イベントの実行委員長を務めている三浦浩文さんは、インクルフェスの開催について、このように思いを語ります。

「東京オリンピックを機にハンドサッカーを盛り上げようということで、2023年に誕生したのがインクルフェスです。フェスを通じて、子どもたちにパラスポーツを体験してもらい、さまざまなことに気付いてほしい。その気付きをさらに深めて、年齢、性別、障がいのあるなしに関わらず、さまざまな人たちと楽しめるようなイベントにしたいと、いろいろな企画を準備しました。コロナ禍には、子どもたちが大会に出場する機会が失われてしまいましたが、それを乗り越えて3年目を迎えられ、嬉しい限りです」

イベントに参加した子どもたちからは、たくさんの喜びの声が届いているといいます。

「パラスポーツ選手と触れ合える機会はそうそうありませんし、年代を超えた幅広い交流ができる機会にもなっていますので、すごく喜んでくださっているとお聞きしています。子どもたちも先輩方の姿を見て、自分たちのいろんな未来の姿を想像できるんじゃないでしょうか」

セレモニーにはパラアスリートらが登壇!

午前の部の競技を終えたところで、フェスティバルを盛り上げるセレモニーが行われました。まず、「パープルダンサーズ321」に所属する吉田葵さんがダンスパフォーマンスを披露。パープルダンサーズ321は障がいのある子もない子もエンタメで繋いでいくという活動をしているキッズユニットです。ダウン症のある葵さんは、ダンサーだけではなく俳優としてドラマや映画にも出演しています。

葵さんが「はじめまして、こんにちは! パープルダンサーズ321の吉田葵です。元気に踊るので、楽しんでください! みんなでハッピーにがんばろう」とあいさつすると、会場からは大きな拍手と歓声が起こりました。セレモニーでは、YOASOBIの「ツバメ」と、SUPLIFEの「ブドウの実」でダンスを披露。指先まで行き届いた細やかな表現と全身を使ったダイナミックなダンスで、会場を魅了しました。

続いて現役パラアスリートである陸上・有熊宏徳選手、パラサーフィン・近藤健太朗選手、ボッチャ・桑野楓夏選手が登場。

有熊選手は「昨年に続き、今年も参加できることを光栄に思います。昨年よりも参加チームが増えて、交流の機会も増えているかと思います。いろんな人と交流できたらと思っているので、よろしくお願いします!」と、ハンドサッカー競技に参加するのを楽しみにしている様子。

近藤選手は「今回、ハンドサッカーを初めて拝見して、めちゃくちゃ心がアツくなりました。一人ひとりがスポットを浴びる、クリエイティブで自由な競技だと思います。参加できるのが楽しみ。私はパラサーフィンをやっているので、もし興味を持った人がいたら気軽に声をかけてください」と、たくさんの出会いに期待を寄せます。

桑野選手は「私はボッチャという競技をやっていますが、学生時代はハンドサッカー部でした。今日は、いろいろな人とハンドサッカーができるのを楽しみにしてきました! どうぞよろしくお願いします」と、久しぶりのハンドサッカーにワクワクしていました。

3人は、セレモニー後のハンドサッカー エキシビションマッチにも参加し、試合を通して交流を深めていました。

東京都肢体不自由特別支援学校体育連盟の花田妙子さんは「ハンドサッカーは30年ほど前に都内の養護学校(当時)で生まれました。子どもたちの「思いきり運動をしたい」、「みんなと一緒にチームプレイがしたい」という想いから誕生し、今では大きな大会が行われるスポーツになりました。今日来ていただいた皆さんには、ぜひ、いろいろな体験をして新しい世界を広げていただきたい。共生社会の実現に向けて、まだ知らない人にもイベントのことを伝えていただきたいです」と、ハンドサッカーの誕生秘話を交えてあいさつしました。

そして本大会実行委員長・三浦さんからは、「ハンドサッカーには中高生だけでなく、卒業生もたくさん参加していますので、年代を超えて交流してもらえたら。さまざまなコーナーを用意しているので、皆で楽しんで、盛り上げてください」とメッセージが。また、俳優や著名人などからビデオメッセージも多数寄せられていました。

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個性も光るハンドサッカーエキシビジョンマッチ

障がいの種別・程度にかかわらず誰もが参加できるスポーツ・ハンドサッカー。インクルフェスでは、都内特別支援学校在校生及びOBOGチームによるハンドサッカー エキシビションマッチが行われました。

ハンドサッカーは、コート内で動き回り攻守に貢献するフィールドプレイヤー、比較的運動機能に制限があり、敵陣左隅付近に位置しボールを保持して特定エリアに入るとフリースローの権利を得られるスペシャルシューター、重い障がいで移動が困難であり、敵陣右奥のポイントゲッターエリアに位置しパスを受けることでフリースローの権利が得られるポイントゲッター、ゴールを守るゴールキーパーの4ポジション計7名で構成される競技です。

選手の運動機能に合わせてボールの保持条件・時間に段階があり、移動が難しい重い障がいのある選手も自身にマッチした条件でフリースローのシュートができる合理的配慮に基づくルールになっています。様々な障がい実態の選手達が自身の得意な動き・プレイで連携し、より多く得点したチームの勝利となります。

ボールが移動するごとに審判が「1、2、3……」と保持時間をカウントし、シュートの機会を狙うため、うまくボールを味方に回しながら相手ゴール側へと攻め込んでいくシーンでは、かなり白熱した攻防となります。応援席からは「もっともっとー!」「攻め込めー!」と高らかな掛け声も湧き上がるような興奮ぶりでチームの動向を見守る仲間たちの表情も真剣そのもの。ゴールを決めた時には、弾けるような笑顔と歓声が響き渡り、大きな盛り上がりを見せていました。車いす車輪のデザインも豊富で、選手の足元ガードなどはほとんど手作り。そんなところにも選手やチームの個性が表れていました。

本イベントの実行委員長で日本ハンドサッカー協会の会長も務める三浦さんは、競技の魅力について「指先ひとつ、まばたきひとつできれば、競技に参加できる機会を与えられる競技。一人ひとりに特別ルールがあり、一般の方からするとルールが難しいかもしれませんが、選手のプレーに対して敵味方なく拍手し、応援できるところは、ほかにはない魅力にあふれるスポーツだと思いますね」と太鼓判。今後も、ハンドサッカーやパラスポーツを通して垣根のない体験を多くの子どもたちに経験してもらえるように取り組んでいきたいと語ります。

気付きと発見がいっぱい! インクルーシブ体験

会場には、パラリンピック正式種目の競技・ボッチャをより手軽に遊ぶことができる「サイバーボッチャ」やゲーム対戦大会のブース、さまざまな競技をパラアスリートの視線で体験できるVRゾーン 、さまざまなメッセージを寄せてみんなで木を作りあげる「世界一幸せな木」のコーナーも用意されていました。

インクルフェスは、障がいの有無や性別、年齢、性別、国籍など関係なく、誰もが参加できるイベントです。来年はぜひあなたも参加して、インクルーシブな体験をしてみてはいかがでしょうか。きっと新たな気付きや発見を得られるはずですよ。

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