性能も見た目も譲らない道具の美学  
限りなくアコースティック楽器に近い演奏感を実現したエレクトリックバイオリン「YEV PRO」。打ちやすく、ミスを出しにくいレディース向けゴルフクラブ「INPRES DRIVESTAR For Ladies」。どちらも外観と性能の両面でプレーヤーの気持ちに寄り添っている。両者を生み出す原動力には、「使い手の可能性を最大限引き出す相棒のような道具をつくりたい」という、作り手たちの切なる願いがある。


ヤマハがゴルフクラブをつくっていると聞くと、意外に感じる人もいるかもしれない。だが、スポーツには音楽と同じように“人の心を動かす力”がある。「世界中の人々のこころ豊かなくらし」を目指すヤマハは、音・音楽を中心に培った技術と感性で、過去、さまざまなスポーツ用品を生産・販売してきた。そのうち、現在も残っているのが1982年に始まったゴルフ事業である。

現在、ヤマハはアマチュアからプロまで、ゴルフを愛するさまざまな人たちのニーズに応える製品づくりを行っている。このうち、「INPRES DRIVESTAR For Ladies」は2019年モデルで大きな方向転換を遂げた後、女性ゴルファーを支えるやさしいクラブとして進化し続けている。

やさしさに振りきる

「ぶっ飛び系クラブ」として知られるヤマハのINPRESシリーズ。それまで中級者向けだったレディースモデルは2019年、レベルを問わず幅広い女性ゴルファーが使える「やさしいクラブ」へと生まれ変わった。当時、ゴルフHS事業推進部では重量や外観、振りやすさなど、女性ゴルファーの感性に寄り添う形で製品の特徴を刷新した。根底には、「女性ゴルファーが18ホールをラウンドしても疲れずにスイングし続けられるように」というやさしいキモチがあった。

  • ゴルフHS事業推進部 マーケティンググループ 降旗明日香

2019年モデルの思想を引き継ぎ、降旗明日香が企画したのは2024年10月に発売された「INPRES DRIVESTAR For Ladies 2025年モデル」だ。開発にあたりユーザーインタビューを行ったところ、女性ゴルファーには男性よりも現実的な傾向があることがわかった。男性は100点や120点のショットを出すことに達成感を得る人が多い一方、女性はたとえ80点でも安定した良いショットを打ち続けることにこだわりを持つ人が多かったのだ。

大学時代からゴルフをしている降旗も、そのひとりだという。同好会に所属し、週末にはキャディーのアルバイトをしながら練習した彼女は、現在も月に一度はゴルフ場に足を運び、ラウンドを楽しんでいる。

「『女性は最終的なスコアの良さを重視する』という気づきは、新モデル企画の大きなヒントになりましたね」(降旗)。ユーザーインタビューを踏まえ打ち出したコンセプトは「ナイスショットを何度でも」。ここから、ミスを減らし、安定して良いショットを打てるクラブづくりが始まった。

打ちやすく、ミスを出しにくい

25年モデルの設計には、「ナイスショットを何度でも」を実現するための工夫が数多く隠されている。例えば、ドライバーにはヤマハ初のカーボンフェースを採用。「ボールがフェースの中央に当たれば飛距離は出ますが、アマチュアゴルファーにとってフェースの中央で打つことはかなり難しい。どうしても打点が中央からずれてしまうので、カーボン素材を8方向に重ねた『8軸積層カーボンフェース』を採用し、どこに当たっても初速が出やすい構造にしました」(降旗)。素材自体も、従来モデルより軽いカーボンを採用することで重量配分の自由度が上がり、直進性と安定性をさらに向上させることができた。

アイアンでは女性特有の課題に対する配慮をさらに進めた。「ボールを打つ前に、手前の地面に大きくクラブを当ててしまう『ダフり』。性差に関係なく起こりやすいミスですが、男性と女性ではそのミスの位置が異なります」(降旗)。そこで、25年モデルには女性がダフりやすいヘッドの後方部分に独自開発のレールを搭載し、ミスを大幅に軽減した。

試打したゴルファーからは「ボールの上がり方がすごい」「ミスヒットの少なさに驚いた」といった感想が多数寄せられた。「ナイスショットを何度でも」というコンセプトを実感してもらえたようだ。

軽いクラブで、心も軽く

女性ゴルファーへのやさしさをベースにした「INPRES DRIVESTAR For Ladies 2025年モデル」。企画開発においては、機能面だけでなく、外観にもこだわった。ゴルフでは、クラブを握った時の見た目の印象を「顔」と表現する。時代や使用者によって「いい顔」の基準は異なるが、25年モデルでは女性ゴルファーに安心感を与える「やさしい顔」を目指したという。

「男性は、操作性が高そうな小ぶりのクラブを好む傾向がありますが、女性はフェース面が広い方が『ボールに当たりやすそう』と感じ、安心感を抱きやすいんです」(降旗)。とはいえ、単純にヘッドを大きくすればよいというわけではない。ヘッドが大きすぎると、今度は重そうな印象を与え、「自分には扱いきれないのではないか」という不安が生まれる。このため、25年モデルでは「女性にとって程よいサイズ感」を追求し、細部まで改良を行った。

細部の工夫のひとつはフェース面の色。「メンズモデルのフェース面は真っ黒ですが、黒だと引き締まった印象になるので、レディースモデルではライトグレーを採用し、フェース面を実際よりも大きく見せる効果を狙いました」(降旗)。他のパーツにも重厚感よりも視認性を高める色を使用したり、極小のラメを加えるなどして、女性の安心感につながる軽やかさを演出した。

シャフト(柄の部分)にも工夫がある。「クラブを構えた時に、ヘッドが遠く感じると扱いにくい印象になります」(降旗)。そのため、前モデルよりもシャフトを短くし、さらに単色ではなく、部分的に異なる色を使うことで、視覚的に短く感じられるデザインにした。

このように、25年モデルでは性能面でのアップグレードに加え、外観でも使い手に安心感を与えるための工夫を随所に施した。

ゴルフメディアやゴルフアパレルブランドでの経験を経て、2018年にヤマハに入社した降旗には、「一度はクラブに関わる仕事をしてみたい」という想いがあった。入社後、4年間ゴルフ事業のPRを担当した後、クラブの商品企画に携わることになった。最初は不安もあったが、スポーツでも仕事でも「丁寧に、その時に自分にできる最善を尽くす」ことをモットーに経験を積んできた。そして今回のレディースモデル開発――降旗は企画の立ち上げ段階から女性ゴルファーの思いに寄り添い、性能も見た目も譲らない「やさしいクラブ」の実現に奮闘した。

ゴルファーの感性に響く打音

もうひとつ、ヤマハのクラブづくりにおいて譲れない要素が「音」へのこだわりである。「ヤマハのクラブは打音がいい。そんなうれしい感想をよくいただきます」(降旗)。

実際、ヤマハは音・音楽の分野で培った独自の感性研究のアプローチを、ゴルフクラブ開発にも応用している。見た目の「いい顔」と、ヤマハならではの「心地よい打音」。ここに徹底的にこだわっているのだ。

「打音は打感とイコール」といわれる。降旗によると、「ボールを打った時、耳で得る情報が心地いいと、『うまく当たった』という感覚につながる」という。実際、普段ゴルフをしない人でも、良い打音を聞くだけで「飛んだ」「気持ちいい」と感じるほど、音が打感に及ぼす影響は大きい。

降旗自身も、「うまく飛んだ」という感覚がもたらす好影響を実感したことがある。「人生で初めてボールを打った時、たまたまナイスショットだったんです。その気持ちよさが忘れられなくて、ゴルフを始めたといっても過言ではありません」。それほどに、クラブでボールを捉えられた時の感覚はゴルファーの心を揺さぶる。だからこそヤマハは見た目だけでなく、音においても、感性に訴える心地よい打感を追求しているのだ。

「求められる性能や、いい顔・いい音の基準は、ゴルファーのレベルや好みによって異なりますし、時代によっても変わっていくと思います。それを前提に、ターゲットに寄り添うことを意識して開発を行いました」(降旗)

技術と感性の両面で女性ゴルファーにとってやさしいクラブをつくっているヤマハ。前回紹介したエレクトリックバイオリン「YEV PRO」もまた、機能と見た目でプロ奏者を支える唯一無二の“道具”である。次回はいよいよ、この二つの製品に息づく「Key」に迫ります。

(取材:2024年9月)


降旗明日香 ASUKA FURIHATA
ゴルフHS事業推進部 マーケティンググループ。ゴルフ関係のメディア媒体、ゴルフアパレルブランドを経て、ヤマハに入社。4年間ゴルフ事業のPRに携わった後、INPRES DRIVESTAR For Ladies 25年モデルの商品企画を担当。現在も、プライベートで月に一度はゴルフ場に足を運んでいる。

※所属は取材当時のもの

参考:
ヤマハゴルフホームページの詳細はこちらをご覧ください


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