キャッシュレス決済は利便性の向上とともに浸透していますが、セキュリティ対策が課題となっています。また、デジタル技術の活用も進展しており、時代に合わせた事業展開が求められております。
今回は、日本クレジット協会の副会長でもある株式会社クレディセゾンの水野社長に業界の現状や課題 と同社の今後の展望についてお話を伺いました。
水野 克己(みずの・かつみ) | 上代 真希(かみだい・まき) |
1992年4月 株式会社クレディセゾン入社 2005年3月 セゾンカード部長 2013年6月 取締役 海外事業部長(兼)海外戦略部長 2016年3月 常務取締役 2020年6月 取締役(兼)専務執行役員 2021年3月 代表取締役(兼)社長執行役員COO(現任) ペイメント事業部長 2024年6月 一般社団法人日本クレジット協会 副会長(現任) |
香川県出身。 香川大学経済学部地域社会システム学科出身。 NHK高松放送局では「ゆうどき香川がいっぱい」 キャスターをはじめ、NHK松山放送局では 「いよ×イチ」キャスター、 「お元気ですか日本列島」キャスター、 NHKBSでは「BS列島ニュース」キャスターを担当。 キャスター、MC、ナレーターと幅広く活躍中。 |
クレジット業界を取り巻く環境
キャッシュレス決済の未来と日本の課題 国産決済ネットワーク整備の重要性
上代:政府は、2018 年4 月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」に基づき、キャッシュレス決済比率を来年2025 年の大阪・関西万博までに4 割程度、将来的には世界最高水準の80% にするという目標を掲げてキャッシュレス決済の推進に取り組んでいます。2023 年にはキャッシュレス決済比率が39.3%となり、目標に向かって着実にキャッシュレス決済が浸透してきております。一方で、キャッシュレス決済の80% 以上を占めているクレジットカードの不正利用被害が拡大しているなかで、クレジット業界としては6 月に「本人認証サービス登録推進キャンペーン」を実施しています。このような状況を踏まえ、業界の現状と今後についてお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
水野:国内のキャッシュレス決済比率については今後も右肩上がりで成長すると考えています。一方で韓国のように90% 超えるレベルになるかと言えば、日本の国民性や環境を考えても難しい面があります。ただ日本は独自の「口座振替」の仕組みもあり、利便性・信頼性は高く市場に深く浸透しており、トータルでのノンキャッシュでの決済比率は非常に高い状況にあると考えています。
一方で訪日外国人旅行客増加に伴い、海外発行のカードが国内加盟店で利用されると赤字になるといったニュースも先日出ていましたが、キャッシュレス決済推進の環境面について言うと、日本も「国産の決済ネットワーク」を整備すべきと考えています。アジアや欧州の多くの国には自国民の国内決済を自国内で完結して外に解放しない決済インフラが存在します。日本は決済ネットワーク利用の手数料が高いとも言われますが、国際ブランドが決済の根幹を握るのではなく、経済安全保障の視点で考えても「国産の決済ネットワーク」を整備すべきと考えます。今後の健全な成長を考えると国内のクレジットカード会社だけがその負担を担うのは不完全であり、国がインフラ事業として整備することの是非をもっと議論すべきでしょう。
不正利用についてはカード会社各社の競争領域ではなく、決済業界に加え官民一体となって対策をするべきです。実際、現状のサイバー攻撃は国レベルで攻撃されており、個社だけの努力では限界があります。業界全体と政府が協力し体制を構築していくことが重要と考えています。また不正利用被害額だけが増えているのではなく、カード取扱高の絶対量が増えている前提のうえでの議論も必要だと思います。加えて消費者教育も大きな要素であり、フィッシング等の対策などは金融教育やデジタルリテラシーの向上など、基本的な対応も急務であると考えています。
上代:昨今の決済ビジネスにおいて、業界を取り巻く環境が著しく変化してきており、業界全体として対応が求められています。このような状況において、クレジット市場の動向・課題等についてお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
水野:コロナ禍におけるキャッシュレス決済の進展やインバウンド需要の飛躍的な拡大など、国内の決済環境はこの数年で大きく変化しました。50%がキャッシュレス決済という地域も出現し、新紙幣も発行されましたがアナログ決済が今後、拡大する未来は描きづらくなりました。一方でカード会社の経営の観点からは日本は海外と比較して、顧客手数料がかからない1 回払いで支払うお客様がほとんどです。他国とは違う成長の仕方をしてきた日本のクレジット業界は加盟店手数料で得られた収入で、コストに吸収するビジネスモデルが限界になってきています。具体的には、カード発行や会員管理のシステム費用、物価上昇に伴う人件費だけでなく、金利のある世界での資金調達コストの上昇など事業運営にかかるコストが急激に上昇しています。業界全体として紙の明細書の有料化や年会費の値上げなど、実際かかっている費用に対して、必要な対価をいただく流れが出てきていますが、異業種からの決済市場への参入も相まって競争も激化し、各社は差別化されたサービスを提供し続けなければ生き残れない状況となっており、経営環境は年々厳しさを増しています。
個社としての取り組み
クレディセゾンの挑戦と未来 グローバルな金融革新と社会貢献への歩み
上代:クレディセゾンのこれまでの歩みを教えてください。
水野:当社は1951 年に月賦百貨店(株)緑屋の創業からはじまり、1980 年にペイメント事業への転換を図りました。1982 年に年会費無料のクレジットカードを発行し即与信、即発行、即利用を実現しました。時代的にクレジットカードを持つことが難しかった女性や若者にもクレジットカード発行を先駆けて行い、後発のカード会社ということもあり、年会費無料、有効期限がない「永久不滅ポイント」、食品売り場でのサインレス決済、セゾン投信の設立など、業界に先駆けて新たな価値を創造し続けることを大切にしてきました。2000 年にはさらなる事業構造の転換を図り、ファイナンス事業へ本格参入、2014 年にはグローバル事業に参入しています。ペイメント事業3 割、ファイナンス事業3割、グローバル事業3割、新規事業1割の事業ポートフォリオで2026 年度には事業利益1,000億円を目指しています。
上代:今後の貴社の展望についてお聞かせいただけますでしょうか。
水野:5 月に発表した新中期経営計画では、2030年に目指す姿として、「GLOBAL NEO FINANCE COMPANY ~金融をコアとしたグローバルな総合生活サービスグループ~」を掲げています。単なるファイナンスカンパニーの領域に留まることなく、パートナーシップで創る「セゾン・パートナー経済圏」で、グローバルにシナジーを発揮してまいります。新中期経営計画の中では、国内事業の柱であるペイメント事業とファイナンス事業の筋肉質化、昨年度資本業務提携したスルガ銀行とのシナジーを追求していくこと、成長著しいインドを中心にグローバル事業には積極的な資本投下を実施します。またそれぞれの事業推進の前提となるのが、テクノロジーを駆使した徹底的なデジタル化です。より生産性の高い経営を実現することにより持続的な成長を果たしていきたいと考えています。
また、当社は2021 年よりCSDX 戦略を掲げており、DX を活用して顧客体験の向上及び業務プロセスの刷新を図ることに注力しています。まず顧客体験(CX)の向上については2019 年に設立したテクノロジーセンターを中心とする内製化によって、会員向けアプリやセゾンカードDigital の発行など、スピード感をもって開発、改善を繰り返しています。業務プロセスの刷新による従業員体験の向上(EX)は内製化による伴走型開発により、現場での課題解決とストレスフリーな業務改善を実現しています。また最新技術についても生成AI は、社内版ChatGPTであるSaisonAsist を活用したアイデア出しやプロンプトを活用した校正や議事録作成、社内向けの問い合わせ対応などで既に活用しており、全社的にデジタル技術の導入を進めています。市場環境が日々変化する中で、新しい技術とツールの導入を迅速に行うアジャイル型の運用を採用し、組織全体でスピード感を持ってデジタル化を推進しています。
今後の展望としては、生成AI を活用した業務プロセスの刷新を進め、さらなる効率化と生産性向上により、顧客体験の向上にもつなげていくといった好循環を実現していきます。不正利用対策への取組みについても、2024 年3 月に高度化する不正利用対策や与信をDX 化する組織として「クレジットテックセンター」を設立しました。サーバー攻撃に対する対策も考え、セキュアな環境構築についても新中期経営計画の中で進めていきます。すでにPKSHA Technology(パークシャテクノロジー)とインテリジェントウェイブ(IWI)が展開している「PREDICO for Financial Intelligence」のアルゴリズムを搭載したクレジットカード不正利用検知システムを導入しています。不正利用を狙った攻撃が巧妙化し、被害額や件数が急増する中で、AI を活用し、常に最新の不正利用手口を学習し続けることで、高い精度で不正利用の抑止に効果を上げています。また、AIが担いきれない部分では、BIツールを活用して狙われている領域を可視化することで、担当者が実施している不正利用検知条件のメンテナンス業務が効率化され、より効果的な不正利用対策を実現しています。さらに、不正利用検知システムにSMS 送信を組み込み、AI スコアも活用して自動通知を行う仕組みを導入しています。特定の不正利用検知条件に合致すると自動的にSMS が送信され、不正利用被害の早期発見と被害額の低減を実現しています。また、テクノロジーセンターとも協力し、3Dセキュアの取引データの分析を行うことで、顧客にパスワード入力を求めるかどうかの判断も最適化しています。
上代:社会貢献事業への取組みについてお聞かせいただけますでしょうか。
水野:クレディセゾンは、企業としての社会的責任を果たすため、様々な社会貢献活動に取り組んでいます。
グローバルにおいては、特にファイナンシャルインクルージョンの推進に力を入れています。インドやベトナム、ブラジル、メキシコなどの成長市場で現地法人を設立し、現地の金融ニーズに応じたサービスを提供しています。現地の商習慣やビジネス環境に精通した人材を活用し、現地主導での運営を重視しています。特に、インドでは融資残高が急成長しており、現地の人材が中心となって事業を運営しています。
金融教育面では、「セゾンティーチャー」というプログラムを通じて、学校での金融授業を、タスクフォースによる自ら志願したメンバーで推進しています。金融リテラシーの向上を目的とし、学校や地域コミュニティでの教育活動を支援し次世代の育成に貢献しています。2020 年以降延べ520 回、2 万2千人に金融教育を行っています。
また、2010 年より群馬県赤城山の麓にて、植物がいきいきと育ち、生き物が棲みやすい森に再生した「赤城自然園」を、「多くのこどもたちが自然に触れ、感性を育むことで豊かな社会にしていきたい」という思いにご賛同いただいた個人・企業・団体からのサポートを受けて運営しています。
上代:従業員の多様な働き方に対して、企業として行っているサポートについてお聞かせいただけますでしょうか。
水野:クレディセゾンは、社員が誇りを持って働ける環境を提供するため、多様な働き方を支援しています。具体的には、フレックスタイム制度やリモートワークの導入を進め、社員が柔軟に働ける環境を整えています。
当社のDNA として受け継がれる「創造的破壊」の精神を大切にし、積極的なチャレンジ を促す風土を醸成するべく、経歴や雇用形態に囚われず、アルバイトを含む全社員が自らの手挙げによる 志願をきっかけに管理職(所属長・課長)への登用にチャレンジできる新たな人事施策を導入しました。実際、今春スタートの新組織体制において、本制度合格者が新たに管理職に登用されました。
また、就労しながらでは難しい就学(国内外問わず)や資格取得、ボランティア等の自己啓発にチャレンジする社員が、1 カ月~最長2 年間休職することが可能なチャレンジ休職制度も導入しています。
社員のプロ人材化にも注力しています。例えば、全社的にテクノロジー系のデジタル人材を2024 年度までに1,000 人規模にする計画を進めています。特に現場の実務担当者は、ノーコード/ ローコードのツールを活用して業務のデジタル化を進めるスキルを習得しています。これにより、業務改善や効率化を自ら進めることができるようになり、スピード感を持って対応できる体制を整えています。
さらに、社員の努力と成果を評価するため、全社員平等に決算賞与の支給も行っています。2023 年度の成果に応じて、決算賞与36 万円に加えて特別賞与20 万円を支給し、業績連動による社員のモチベーション向上を図っています。
上代:企業としてどのような社会を創っていきたいと考えていますでしょうか。
水野:サステナビリティ推進部をこの春に新設し、「サービス先端企業」という経営理念のもと、当社独自のノウハウ、経営資源、そして社員一人ひとりの経験を活かし、クレディセゾングループだからこそできる社会の発展・課題解決に日々の事業を通じて貢献することで、今よりもっと便利で豊かな持続可能な社会をつくっていきたいと考えています。温室効果ガス排出削減目標がSBTi 認定を取得、ESG 総合指数「FTSE Blossom Japan Sector Relative Index」構成銘柄に2 年連続選定もされています。また当社の永久不滅ポイントを活用した自然災害時での寄付・募金活動なども実施しています。
日本クレジット協会が果たす役割
健全なキャッシュレス社会の実現に向けた取り組み
上代:クレジット業界が果たすべき役割、また協会が果たす役割について協会副会長のお立場からお考えをお聞かせいただけますでしょうか。
水野:健全なキャッシュレス社会の実現に向けて、安定・安心・安全な決済に寄与することが協会の使命だと考えています。それに加えて不正利用対策、サイバー攻撃などキャッシュレス社会の発展を阻害する要因については徹底的に排除していく、業界全体をリードしていくために中立公平な立場で貢献していくことが重要であると思います。会員の皆様におかれましてはこの理念に共感いただきご支援、ご指導賜れば幸いです。
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