『技術が可能にするほんとうに心地いい音体験』
まったく新しい演奏体験をもたらす「トランスアコースティックギター」。ドライブ中の音楽体験をより豊かにする「車載オーディオ」。一見共通点のないように見えるこの二つの製品。実は、技術と感性が生み出す共通の「Key」があるのだ。
見た目はいたって普通のアコースティックギター。しかし、その一本のギターが奏でる音は、まるでコンサートホールに響きわたる音色のよう──。「トランスアコースティックギター」は、そんなまったく新しい演奏体験を実現する楽器である。
トランスアコースティックギターの最大の特徴は、アンプや外付けエフェクターなどを使わずにギター本体だけで重層的な音を鳴らす「コーラス」と、残響音を付加する「リバーブ」という2種類のエフェクトをかけて演奏できる点だ。演奏により生じるギターの振動を電気信号に変えてエフェクト処理し、アクチュエーター(加振機)を介してボディに伝えて音になる。この仕組みにより、生音とエフェクトが同じギターから発生する。このギターが生まれた背景には、「アコースティック楽器を超えた演奏体験を実現したい」という開発者たちの想いがあった。そう、このギターは「Trans(超える)」と「Acoustic(アコースティック)」を掛け合わせた新コンセプト「TransAcousticTM」のもとで開発された楽器なのである。
「変える」ではなく「超える」という目標
2016年発売のトランスアコースティックギターは、2014年に発売した「トランスアコースティックピアノ」の技術をもとにしている。電気信号を振動に変換し、アコースティック楽器と同じ発音方式で音を響かせる独自の技術をギターに応用したら、一体、どんな楽器ができるだろう? そんな発想から開発が始まった。
「アコースティックを超える、といってもさまざまな超え方があります。たとえば、従来のアコースティックギターには出せない大きい音を出そうと思えば、ギターを巨大化すればいい」。そう話すのは、トランスアコースティックギター開発者のひとりで、現在は商品企画を担当する江國晋吾だ。「私たちは『アコースティックを超える』ためのアイデアを100個以上出し、そのうちの20〜30個は試作しました。その中でどれが一番面白いか何度も検証し、いまのカタチを練り上げました」。
ギター事業部メンバーの半数以上は自らもギターを弾くプレーヤー。江國自身もギター弾きで、学生時代には1年間休学し、ケルト音楽で知られるアイルランドに渡った。昼はストリートで演奏を行い、夜はバーで現地ミュージシャンとセッションする。音楽を通じて現地のコミュニティーに溶け込み、多様な人たちと出会って、「自分の人生はほんとうに広がった」。江國は帰国後、音楽への熱い想いと以前から抱いていたものづくりへの情熱を大切にできる会社を探し、ヤマハを選んだ。
いままでにない新しい楽器をつくることで人々の行動を変え、社会の価値観を変え、世の中を少しでも良くしたい。江國の想いから生まれたトランスアコースティックギターは「アコースティックギターを超える」ことをテーマにつくられた楽器だ。しかし、それはアコースティックギターそのものの良さや特徴を「変える」ことではない、と彼は強調する。
「この楽器は『アコースティックギターの可能性をより高いレベルに持っていく』ために開発したもので、アコギ自体の良さは失ってはいけないんです。エレキギターのような電気を使う楽器に比べ、手に取ってすぐ演奏できるのがアコギの良いところ。そうした特徴は保ちつつ、既存のアコースティックギターを超える特質があるということを大切にしました」
種も仕掛けもある「魔法のような楽器」
トランスアコースティックギターは、アコースティックギター本来の良さを保ちながら、弦を鳴らせばまるでコンサートホールにいるかのような、これまでにない響きを紡ぎ出す。商品マーケティング担当としてトランスアコースティックギターの魅力をお客さまに伝える大城大器は、その体験を「まるで魔法」と表現している。
「お客さまに魅力を伝える時、最初に種明かしをしないのが私のルール。だから、トランスアコースティックギターをカナダで初披露した時も、会場に集まったディーラーに何も説明せず、『まずは弾いてみてください』とギターを手渡しました。すると、弾いた瞬間に皆が『マジック!』と驚き、感動の声を上げてくれた。狙い通りでしたね」。その後はトランスアコースティックギターが手から手へと渡り、まるで音楽サークルの部室のような熱気が生まれた。経営者であると同時に一流のプレーヤーでもあるディーラーたちが夢中になる様子を見て、大城は「このギターは必ず成功する」と確信した。
中学生の頃からギターを弾いている大城には、「音楽を通して、多様な仲間と数え切れない感動を共有したことで人生がより豊かになった」という実感がある。音楽は人生を豊かにすることを人に伝えたい。そんな想いが、楽器の魅力を社会に広める大城のいまの仕事につながっている。
音楽に加えてもうひとつ、大城が子どもの頃から好きだったのは手品である。手品で人を楽しませてきた経験が「トランスアコースティックギターの魔法」を伝える上でとても役に立っているという。「もし、手品を見る前に種明かしをされたら、誰も手品にのめり込めないですよね。トランスアコースティックギターも同じで、まずは何も知らない状態で驚いてもらい、そのあとに技術などの種明かしをする。そうすることで、この楽器の良さがストレートに伝わると思っています」。
新しい喜びを生み出した、逆転の発想
トランスアコースティックギターの魔法を体験した人は、まずその特異な「機能」に注目する。しかし、この楽器に親しむにつれ、多くの人はそこに込められた特別な「想い」に気づく。それは、ほとんどの楽器がオーディエンスの前で演奏することを前提につくられているのに対し、トランスアコースティックギターは「弾く人のことを徹底的に考えた楽器」ということ。そう、この楽器には「演奏する気持ち良さ」を最大限までプレーヤーに提供したいという江國たちの願いが込められているのだ。
外付けのエフェクターやアンプを使えば、音はスピーカーからプレーヤーやオーディエンスに向かって発せられる。一方、トランスアコースティックギターはボディそのものからリバーブやコーラスなどのエフェクト音が鳴る。つまり、弾き手の体を震わせながら音が内側から外側へと広がっていくのだ。 果たして、このような逆転の発想はどのようにして生まれたのだろうか。そこには、開発者自らがギタープレーヤーであるという要素が大きく関係している。
江國は言う。「世の中にある楽器の多くは、弾き手の表現力を高められる楽器を目指して開発されています。弾き手がオーディエンスの前で素晴らしい演奏をするのが、主な使用シーンになると考えているのです。ところが、弾き手と楽器の関係を時間軸で見ると、そのほとんどは練習時間に費やしています。ひとりで弾いている時間のほうが圧倒的に長い。もし、その時間がとても気持ち良いものなら、それは弾き手にとって、これまでにない新しい喜びになるのではないか。そんな思いから、『弾くことが気持ち良い』トランスアコースティックギターは生まれてきました」。
「自分を楽しませる」という音楽の楽しみ方
ギターを始めた人の多くは1年以内に挫折するといわれている。楽器を続けることは決して簡単ではない。しかし、音を出すだけで気持ち良さを感じられるトランスアコースティックギターなら、音との一体感を味わうことができるため、楽器を続ける理由がひとつ増えるかもしれない。
「音楽は本来、誰でも楽しめるもの。でも、いざ楽器を始めると、誰かと比べたり、練習がつらかったりして、続けることが意外に難しい。私は『自分を楽しませる』ために演奏をしてもいいと思うし、それには必ずしも演奏が上手である必要はないと思うんです。トランスアコースティックギターは演奏の技能を問わず、これ一本あれば音が豊かに響いて気持ち良さを体感できる。『自分を楽しませる』ことをサポートする楽器でもあるんです」(大城)
音楽を楽しむとき、人と比べる必要はない。自分自身が心地よく楽しめる手段を手にすれば、自然と、音楽に触れる時間も増え、おのずと上達につながるかもしれない。
「1日5分だった練習時間が10分になり、20分になる。トランスアコースティックギターを通じて、人が楽器と過ごしたくなる時間が長くなってほしい」と江國はほほ笑む。「昨日よりも今日の自分のほうが良くなっていると思えたり、弾けなかったものが弾けるようになったり。そうやって自分の成長を感じられることが、トランスアコースティックギターがもたらす豊かさのひとつなのだと思っています」。
(取材日:2022年9月)
江國晋吾|Shingo Ekuni
ギター事業部。トランスアコースティックギターの初期段階から開発に携わり、現在は商品戦略・企画を担当する。学生時代には音楽好きが高じてアイルランドに渡り、現地のコミュニティーで演奏生活を送る。プライベートではギターやバイオリンをはじめ、さまざまな弦楽器で伝統音楽・民族音楽を演奏している。
大城大器|Taiki Oshiro
ギター事業部。新興国での音楽・器楽教育普及活動(現・スクールプロジェクト)やインド、カナダでの駐在経験を経て、トランスアコースティックギターの商品マーケティング担当として、楽器の魅力とストーリーを伝えている。学生時代に感じた「音楽は人生を豊かにする」ことを伝えたいという想いでヤマハに入社。
※所属は取材当時のもの
トランスアコースティックギターの製品情報や音色はこちらをご覧ください
『技術が可能にするほんとうに心地いい音体験』#2
車が奏でる「理想的な音」を求めて
『技術が可能にするほんとうに心地いい音体験』#3
響きあう作り手と使い手の想像力
共奏しあえる世界へ
人の想いが誰かに伝わり
誰かからまた誰かへとひろがっていく。
人と人、人と社会、そして技術と感性が
まるで音や音楽のように
共に奏でられる世界に向かって。
一人ひとりの大切なキーに、いま、
耳をすませてみませんか。
[PR]提供:ヤマハ株式会社