赤ちゃんを産んだばかりのお母さんのなかには、疲れていても「自分がやらなければ」と、限界を超えてがんばり続けている方も多いでしょう。子育てに励むお母さんに寄り添いたい。そんな願いから設立されたのが、一般社団法人ドゥーラ協会です。
今回は「令和5年度 東京都女性活躍推進大賞」で地域部門「大賞」を受賞した、一般社団法人ドゥーラ協会にインタビューを実施。設立者の一人である丑田香澄さんに、産後ドゥーラの活動や魅力などを伺いました。
東京都女性活躍推進大賞って?
東京都では、女性の活躍を推進するため、優れた取組を行っている企業や団体等を「東京都女性活躍推進大賞」として表彰しています。
「ドゥーラ」はギリシャ語が語源で「ほかの女性を助ける経験豊かな女性」という意味。同協会では子育てや母親の心身などについて専門的な知見を持つ「産後ドゥーラ」を養成し、全国のお母さんを支えています。
丑田香澄さん
2012年に代表の宗祥子さんとともにドゥーラ協会を設立。内閣官房ふるさとづくり有識者会議・ふるさと活性化支援チーム委員、「世界一こどもが育つまち」を掲げてまちづくり事業に取組む一般社団法人ドチャベンジャーズ理事としても活動している。
「お母さんに寄り添う人が必要」協会設立の背景
――丑田さんは代表の宗祥子さんとともに、2012年にドゥーラ協会を設立したと伺いました。設立に携わった経緯を教えてください。
丑田さん:もともとは会社員として働いていましたが、結婚と出産を機に「一生今の会社で働くのだろうか」とライフプランを考え始めました。そのタイミングで共同設立者となる宗に出会い、「お母さんに寄り添う人が必要」という熱い想いに共感し、独立という道を選びました。
――お母さんに対する支援の必要性を感じたのですね。
丑田さん:宗は助産院を長年運営しており、「母親がひとりで子育てをするのではなく、人に頼りながら地域で子供を育てられる環境を作りたい」という想いを持っていました。さらに「育児支援、家事代行などと分断されることなく、母親のエモーショナルサポート(精神的支援)まで含めた包括的なサポートができる人を育てたい」として、仕組みづくりに携わる人材を探していました。当時0歳児を育てる子育て当事者である私と出会うご縁があり、産前産後のプロと、現役の母親という掛け合わせのチームでドゥーラ協会が立ち上がりました。
「お母さんが安心して子育てをするためならなんでも!」産後ドゥーラの幅広いサポート
――産後ドゥーラとはどういう方なのでしょうか?
丑田さん:母親に寄り添って支える人です。
ドゥーラ協会は「母親も、すくすく育つ世の中に。」というミッションを掲げています。お母さんがどうありたいのか、どう子育てをしていきたいのかなどを考え実現していく過程を、産後ドゥーラという伴走者が支えます。こうしたニーズに応えていくうちに、お母さん自身もだんだんと自立し、自信を持って子育てができるように変化していきます。
――産後ドゥーラとはどういう方なのでしょうか?
丑田さん:誰かに頼らずひとりで乗り越えようとすると、赤ちゃんが産まれて幸せなはずの期間が、つらいものになってしまうこともあります。特に、産後すぐの産褥期は赤ちゃんを産む偉業を成し遂げ、身体が回復している最中です。それなのに、やらなきゃいけないことが山積み。子育ての右も左もわからない状態で、精神的に参ってしまう人がいるのも当然だと思います。産後ドゥーラはそんな母親に寄り添いたいと思っている人ばかりなので、安心して頼ってみてほしいです。
――具体的にはどのようなサポートをしてくれるのでしょうか?
丑田さん:お母さんが安心して子育てをするための支援ならなんでもやります。 たとえば赤ちゃんが泣いているときの抱き方を教えたり、まとまった睡眠時間がとれるよう子供のお世話や家事を引き受けたり。お母さん一人ひとりの要望やそのときのニーズに応じて柔軟なサポートをしています。「私の授乳中に、ご飯を作ったり洗濯したりしてほしい」、「慣れない育児で不安な気持ちを聴いてほしい」「とにかく寝不足なので、私が寝ている間に赤ちゃんを見ていてほしい」 など、なんでも頼んでみてください。
産後ドゥーラとの唯一無二の出会いを創出
――産後ドゥーラはどうすれば利用できるのでしょうか?
丑田さん:「この人に寄り添ってほしい」と思った産後ドゥーラに、メールなどで直接申し込んでください。ドゥーラ協会のサイトに紹介ページがあり、エリアや得意分野、名前などから検索できます。
費用はお住まいのエリアや依頼するドゥーラによって異なりますが、1時間3,000円前後が目安です。自治体によっては産後ドゥーラ費用の補助を出している場合もあります。
――協会を介さずに、直接申し込んでいいのですね!
丑田さん:産後ドゥーラは派遣サービスではありません。私たちの活動は人と人とのご縁だと思っているので、利用者とドゥーラで1対1の関係を築いてもらいたいです。どのドゥーラも、ベースとなる知識や技能、そしてドゥーラとしての在り方を一番大事にしていて、協会できちんと学んでいるのでご安心ください。
――利用者からの反響を教えてください。
丑田さん:「唯一無二の出会いだった」という声を多くいただいています。また、「そのままでいいよ」と言ってもらえたことが印象深かったという利用者さんもいます。母親はこうあるべきと押しつけるのではなく、そのままでいいのだと受け入れ、そばにいて支えてくれる存在は、大きな安心感につながります。
ほかにも「ドゥーラさんが外の風を運んできてくれた」という声を何度もいただきました。子育て中は自分と赤ちゃん二人きり、夫婦と子供だけなどの状況になりがちで、閉塞感を覚えることがあるでしょう。そんなときドゥーラが来ると、外の空気に触れられたと感じていただけるようです。
子育て期間は“ブランク”ではなく“キャリア”
――産後ドゥーラになるには、どうすればよいのでしょうか?
丑田さん:まずはドゥーラ協会が開催している「産後ドゥーラ養成講座」に参加し、試験と面談をクリアしてもらいます。その後「一般社団法人ドゥーラ協会認定産後ドゥーラ」として登録され、個人事業主として活動を始める、という流れです。養成講座は70~80時間あり、専門的な知識や必要な技能などを学んでもらいます。
――講座の内容はどのようなものがあるのですか?
丑田さん:妊娠出産の知識や産後のお母さんの体と心の理解、ドゥーラとしての在り方やコミュニケーション方法、保育実習や調理実習、救命救急実習など、産後ドゥーラとして必要なあらゆる心得を身につけます。講師の先生は助産師、看護系大学教授、管理栄養士といった産前産後ケアの専門職ばかりです。認定後も、学び続けるためのスキルアップ研修や、ドゥーラ同士の情報交換・交流の機会があります。
――どのような方が産後ドゥーラとして活躍されていますか?
丑田さん:産後ドゥーラとして働いている方は全国に約800人います。年代は20~70代まで幅広く、経歴もそれぞれで、専門職の方もいれば主婦をしていた方もいます。出産や育児のために休職や退職をすると、その期間をブランクに感じてしまう人もいるかもしれません。しかし、産後ドゥーラでは子育て期間がそのままキャリアにつながります。
また、パートナーの転勤が多く、なかなか固定の仕事に就けない人もいるでしょう。産後ドゥーラは個人事業主ですし、産後に困っているお母さんはどの土地にもいるので引っ越し先でも働けます。さまざまなニーズに合わせて仕事ができるのも、産後ドゥーラの魅力ではないでしょうか。
――子育て期間がそのままキャリアになるのは嬉しいですね。実際に産後ドゥーラからはどんな声が上がっているのでしょうか?
丑田さん:「誰かを支えられるこの仕事に出会えてよかった」と多くの方々が言っています。自分という存在を通して誰かを助けられますし、未来の子供たちやお母さんを支えて社会貢献もできるからです。
産後ドゥーラはそれぞれ歩んできたキャリアは違いますが、赤ちゃんがすくすく育ち、お母さんが笑顔で子育てできる状況を作りたいという願いを持っています。そうした慈愛に溢れる方々の輪が広がれば、明るい未来につながっていくはずです。
子育ては人に「委ねる」のが当たり前。お母さん自身も楽しみながらすくすく育って
――今後の展望を教えてください。
丑田さん:東京では「産後ドゥーラが足りない」といわれるほど需要が高まっていますが、これは10年以上かけて活動してきた成果のひとつです。最初は「ドゥーラって何?」と思われていましたが、ドゥーラの皆さんのがんばりのおかげで認知度が上がってきました。ドゥーラの活躍は、これから地方でも広まっていくと思います。
産後のお母さんの生活は支えられて当たり前です。日本全国で産後のお母さんをサポートしていける環境作りに、これからも貢献していきます。
――これから出産を迎える女性や、子育て中の女性にメッセージをお願いします。
丑田さん:私自身も産後に「委ねる」という言葉をかけてもらい、ハッとした経験がありました。子育ては人に委ねるのが当たり前、支えてもらうのが当たり前だという広い心持ちでいてほしいと思います。 産後は身体も思い通りに動きませんし、わからないことだらけで思い詰めてしまうかもしれません。「自分だけががんばらなくてもいい」そう思うことで、子育てに向き合う気持ちがとても楽になると思います。出産や育児はかけがえのない経験なので、お母さん自身も楽しみながらすくすく育ってほしいです。
ニーズに合わせた柔軟なサポートやそっと寄り添う姿勢が、多くのお母さんを救っています。自治体によっては、産後ドゥーラを公的な産前産後サポート事業として活用していたり、養成講座への費用補助をしていたりすることも。気になった方は、各自治体やドゥーラ協会のサイトをチェックしてみてはいかがでしょうか。
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