デジタル化の進展やコロナ禍と相まって、キャッシュレス決済は我々の生活でより身近な存在として浸透し、より時代にあった方法で利用できるように進化し続けています。

今回は、日本クレジット協会の副会長でもある株式会社オリエントコーポレーションの河野会長に業界の現状と同社の今後の展望等についてお話を伺いました。

河野 雅明(こうの・まさあき) 各務 梓菜(かかみ・あずな)
1979年 4月 現、株式会社みずほ銀行入行
2006年 3月 株式会社みずほコーポレート銀行執行役員
2008年 4月 同行常務執行役員
2011年 4月 株式会社みずほフィナンシャルグループ常務執行役員
2011年 4月 同社リスク管理グループ長(兼)人事グループ長
(兼)コンプライアンス統括グループ長
2011年 6月 同社常務取締役(兼)常務執行役員
2012年 4月 株式会社みずほ銀行常務執行役員
2012年 4月 株式会社みずほコーポレート銀行常務執行役員
2012年 4月 みずほ信託銀行株式会社常務執行役員
2013年 4月 株式会社みずほフィナンシャルグループ取締役
2013年 4月 株式会社みずほ銀行取締役副頭取(代表取締役)
(兼)副頭取執行役員
2013年 4月 株式会社みずほコーポレート銀行副頭取執行役員
2013年 7月 株式会社みずほフィナンシャルグループ副社長執行役員
2016年 4月 株式会社オリエントコーポレーション顧問
2016年 6月 同社代表取締役社長(兼)社長執行役員
2020年 4月 同社代表取締役会長(兼)会長執行役員
2020年 6月 同社取締役会長(兼)会長執行役員(現任)
2023年 6月 一般社団法人日本クレジット協会 副会長(現任)
岐阜県出身。
早稲田大学人間科学部人間情報科学科卒業。
2015年4月〜2023年3月までNHK静岡放送局
契約アナウンサーとして、
「たっぷり静岡」のスポーツキャスター、
ニュースキャスター、
「NHKニュース 静岡県内ニュース&気象情報」キャスター、
「ラクビーW杯SCRUM PROJECT Daiichi-TV×NHK静岡」のキャスター&リポーター、
「東京オリンピック 自転車競技」現地リポーター等を担当。
その他、ラジオ、イベントMCなど幅広く活躍中。

クレジット業界を取り巻く環境について

デジタル化の進展で社会・経済活動の場として
より便利で身近になったオンライン空間

各務:昨年度、経済産業省が主催するキャッシュレスの将来像に関する検討会にて、そのとりまとめが 3月20 日に公表されました。本報告書では、キャッシュレス決済の普及から目指す姿の実現に向けた方向性についてとりまとめられており、今後も同省においてキャッシュレス推進の取組が進められていきます。このような状況を踏まえ、業界の現状と今後についてお考えをお聞かせください。

河野:キャッシュレスについて、皆さまも実感していると思いますが、コロナ禍をきっかけにオンラインショッピングやフードデリバリーなどで、キャッシュレスを利用する機会が増え、私たちの生活の中でより身近なものとなってきました。本報告書の通り、キャッシュレスは、「消費者のライフスタイルの変化」「新たな技術の進展」「社会全体でのデジタル変革」の3 つの大きな環境変化の中で、より時代にあったキャッシュレスを、より時代にあった方法で利用できるように進化しております。

大きな環境変化の1 つ目の「消費者のライフスタイルの変化」について、スマートフォンの普及がウォレットやアプリ決済といったモバイル端末による決済サービスを拡大させました。また、今後は決済そのものに着目したキャッシュレスの普及だけでなく、決済と様々なサービスの融合に加えて、それらから得られるデータを利活用することで、消費者や加盟店にとってより付加価値の高いサービスが生み出されることが期待されます。

2 つ目の「新たな技術の進展」は、認証技術の高度化、決済データを活用した家計管理サービス、加盟店に対する顧客・商圏分析サービスなど、生活や事業活動に付加価値を提供するサービスが登場し、キャッシュレス決済の利便性と安全性の両立に大きな進展をもたらしました。

3 つ目の「社会全体でのデジタル変革」は、デジタル化を重視した政策動向の変化です。キャッシュレスの意義をデジタル化社会の実現といったより広義に捉え直す契機となりました。本報告書においてキャッシュレスの目指す姿(将来 像)を「支払いを意識しない決済が広がり、データがシームレスに連携されるデジタル社会」と定義しました。目指す姿の実現に向けては、決済データのみならず個人・事業者・行政機関の活動データも含め、幅広いデータの連携が必要となります。そのために我々も、決済事業者間の連携だけではなく、業界の垣根を超えた連携を実現していく必要があります。

各務:昨今、業界を取り巻く環境が著しく変化してきており、業界全体として対応が求められている。このような状況において、クレジット市場の動向・課題等についてお考えをお聞かせください。

河野:デジタル化の進展により、オンライン空間が社会・経済活動の場としてより便利で身近になった一方で、クレジットカードを不正に利用する犯罪被害が増加しております。その背景には、クレジットカード決済網にいる事業者からの情報漏えいや、フィッシングメールによるカード会員からのクレジットカード番号やパスワード等の詐取のほか、採番の規則性から推定したクレジットカード番号をEC 加盟店にて集中的に使用されるなどの不正が多発していることにあります。安全・安心な決済インフラを維持するためにも、クレジット業界に関わる全ての事業者が一丸となって対策の実行や強化を行うことが喫緊の課題であると言えるでしょう。

個社としての取組み

サステナビリティ経営を掲げ、従来型の信販モデルからの脱却を目指す

各務:貴社のこれまでの歩みや貴社がこれからをどのような企業を目指すのかを教えてください。

河野:当社は1954 年に広島県で創業し、掛売りの手段としてクーポン券の発行をスタートしました。戦後の復興期から高度経済成長期以降、個人向け金融商品を提供し、個人消費の拡大に貢献してきました。バブル経済崩壊後の失われた20 年を通じ、お客さまのニーズは、モノ消費からコト消費へと多様化する中、当社も幅広い金融商品を提供することで、個人消費や市場の拡大を支えてきました。

昨今の環境に目を転じますと、人口減少や脱炭素・環境循環型社会、SDGs といったキーワードをニュース等で見ない日はありません。地球規模の課題に対する社会的関心やテクノロジーの発展により人々の生活様式や消費のあり方は大きく変化しています。

このように目まぐるしく変化する環境下で、企業が社会に必要な存在であるためには、社会価値をどうやって生み出すかが重要と考えております。

そうした視点から、2025 年3 月期を最終年度とする中期経営計画において、事業を通じた社会価値と企業価値を両立する「サステナビリティ」を上位概念として経営の中核に据えています。スローガンには「Transformation Now! 〜お客さま起点で価値を創造する新時代の金融サービスグループへ〜」を掲げ、従来型の信販モデルから発展的に脱却するため、「グリーン」「デジタル」「オープンイノベーション」を切り口として、お客さま起点で価値を創造し、社会への貢献と企業価値の向上を実現していきます。

各務:貴社ではサステナビリティについて、どのような取組をされていますでしょうか。

河野:当社がサステナビリティの一環として、地域の課題解決に取り組んでいる事例を紹介します。昨今の「空き家問題」の発生要因として、空き家を担保にしたローンの取り扱いが限定されているという点があります。これに対し当社は、空き家の流通活性化に向けたプラットフォームを運営する事業者や全国の地域金融機関と協働することで、空き家を対象としたローンを商品化しました。少子高齢化や人口減少などから全国で増加する「空き家問題」の解決に向け、空き家の実態把握から利活用促進までを一気通貫でサポートすることで、地域活性化と地方創生に資する取り組みを進めています。

各務:「グリーン」「デジタル」「オープンイノベーション」とありましたが、貴社ではどのようなお取組をされておりますでしょうか。

河野:まず、「グリーン」の取組として、脱炭素社会の実現に向けて、EV(電気自動車)や太陽光発電システム、蓄電池などの再生可能エネルギーの普及促進につながる金融商品・サービスの開発に積極的に取り 組んでいます。例えば、2022 年11 月に、脱炭素につながる新ビジネスの創出や持続可能な地域づくりの実現などを目的に組成した出資枠「Orico Sustainability Fund」を活用し、EV ファブレスメーカーと業務提携を行いました。当社のネットワークを通じて全国のお客さまへEV 導入を促進することで、脱炭素社会の実現に貢献していきます。また、V2H の先進企業とも業務提携を行い、EV やV2H などの環境商材をまとめて扱うセットローンを開発するなど、環境商材の普及支援や新領域での協業を進めております。

次に「デジタル」についてですが、当社はデジタル技術とデータを活用し、お客さま起点で新たな価値を創造するイノベーティブな先進企業をめざしております。その実現に向けてDX 人材の育成・DX カルチャーの醸成などを通じて、イノベーティブな風土をつくることが必要です。DX 人材の育成においては、独自に構築したDX 人材育成プログラムを、初年度の2023 年3月には正社員のほぼ全員が修了し、その約半数がさらにレベルアップしたプログラムに進んでいます。DX スキルを備えた人材が、既存事業のDX やDX を活用した新事業の創出に向けて、着実に前へ動き出しています。

また、このような人材育成に加え、DX 戦略の策定、推進体制の構築およびDX 推進への取組などが評価され、2023 年3 月には経済産業省が定める「DX認定」※を取得しました。
※DX認定:デジタルによって自らのビジネスを変革する準備ができている事業者を国が認定する制度

最後は「オープンイノベーション」の取組です。IoT やAI を活用したサービスが次々に登場するなど市場環境が激しく変化する中、お客さまにとって「便利」で「新しい」サービスを提供し続けるためには、先進技術を有する企業と共創し、お客さまの期待を超えるビジネスモデルを構築する必要があると考えています。そこで当社は、シナジー効果が期待できるスタートアップ企業との協業などを目的に組成した出資枠「Orico Digital Fund」を活用し、オープンイノベーションによる新たなビジネスモデルを構築するほか、成長市場に向けて利便性の高い金融サービスを提供するなど、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。

各務:「スタートアップ企業との協業」というお話がありました。貴社は信販について、「従来型からの脱却」を掲げられており、「異業種との協業」を戦略の一つとされています。その狙いと目指すものをお聞かせください。

河野:「従来型の信販モデルからの脱却」とは、これまでのように加盟店が商品を供給し、当社がファイナンスを提供するといったビジネスモデルだけに収まるのではなく、加盟店の課題解決やプロモーション強化などの分野でもパートナーとしてお役に立ちたいということを意味しています。

その取組例として、EC サイトの構築支援をする会社との協業により加盟店のEC サイト構築を支援するほか、ライブ配信事業者と協業し、ライブコマースで加盟店の商品を販売するなど、加盟店の販路拡大・開拓の支援をしたいと考えています。これらの取組はパートナーと協業することで実現したビジネスモデルの一例です。当社が掲げる「社会課題解決に貢献し続けるイノベーティブな先進企業」を目指す上でも、オーガニックな取組だけでは、社会環境や顧客ニーズの変化に到底追いつけないことから、事業戦略の一つに「異業種・先端企業との協働による新商品・サービスの創出」を掲げました。自分たちの枠組みに閉じこもることなく、パートナーの力を借りて新市場を切り拓くことはまさに必須な取組となります。

また、新しい顧客体験を創造するため、優れた技術やアイデアをもったスタートアップとの協業を更に強化していきます。オープンイノベーションによりデジタルにつながる業界全てが我々の協業対象先になり得ます。顧客ニーズを深堀りすることで、様々な組み合わせが可能であり、今後も新たなビジネスモデルの創出に挑戦していきます。

各務:業界の課題であるクレジットカードの不正利用について、貴社ではどのように向き合っていますでしょうか。

河野:クレジットカード情報のフィッシング被害対策の強化を目的に、セキュリティベンダーなどと協働して、フィッシングサイトの早期検知および閉鎖に向けた態勢を整備するとともに、当社を騙る「なりすましメール」への対策として、メール認証技術(DMARC)を導入いたしました。また今年には、従来から実施しております24 時間365 日の監視体制に加え、不正傾向の学習や大量取引データの迅速かつ正確な分析など、AI の特性を活かしたより高度な不正検知システムを導入し、悪質な不正利用を事前に検知できる態勢を整えています。

日本クレジット協会が果たす役割

不正利用被害防止に向けた取り組みとセキュリティ対策の周知啓発の推進

各務:クレジット業界が果たすべき役割、また協会が果たす役割について協会副会長のお立場からお考えをお聞かせください。

河野:キャッシュレス決済比率4 割を目指す政府方針のもと、IT 化の進展による決済手段の多様化や少額決済分野での利用拡大など、今後もクレジット市場は順調に拡大していくと考えています。このような状況の中、当協会は、クレジット業界が健全かつ持続的に発展し、クレジットがキャッシュレスにおける中心的な手段で在り続けるため、会員企業や消費者をはじめ社会に対して貢献できる組織であることを目指しています。

中期業務運営方針(2023 年度~ 2025 年度)においては、①クレジット取引に係る国民・社会からの信頼の確保、②安全・安心なクレジット利用環境の整備、③クレジット利用に対する正しい理解の促進と適切な情報発信、この三本を柱に掲げ活動を推進しています。

まず、①の柱においては、割賦販売法(法に基づく自主ルールを含む)および個人情報保護法をはじめとした法令遵守の徹底を図る取組が必要であると考えています。特にここ数年では、不正利用被害の拡大を受け、政府では、セキュリティ対策の強化に向けた検討を進めています。また、個人情報保護法の見直しが2025 年に予定されています。協会としては、適宜業界意見のとりまとめ、行政との懸け橋を担うとともに、関係法令の改正等に適切に対応してまいります。

次に、②の柱においては、クレジット利用の更なる拡大には、安全・安心なインフラ環境の整備が必要と考えています。具体的には、クレジットカード番号等の漏えい防止やクレジットカードの不正利用防止に向けた取組、クレジットの利用に関する周知・犯罪抑止に向けた取組を中心に対応してまいります。

最後に、③の柱においては、消費者の健全なクレジット利用と利益保護に向けて、積極的な啓発等が必要と考えています。特に、若年者に対するクレジット教育の支援は、業界の健全な発展には欠かせない要素ですので、積極的に周知・啓発をする必要があります。また、フィッシング被害対策や、ID/ パスワードの使いまわし防止など、消費者全般に向けたセキュリティ対策の周知・啓発も喫緊の課題であることから、時機を捉えた広報・啓発活動をしっかり進めてまいります。

引き続き協会の強みを生かしつつ、クレジット業界の健全な発展はもとよりキャッシュレス社会の中心的な存在として社会に貢献していく所存です。

[PR]提供:日本クレジット協会