人口減少やグローバル化、AIなどの技術革新により、私たちの社会は急速に変化しています。社会が変化すれば、企業が求める人材像もまた違ったものになっていくでしょう。
そうした状況に対応し、より良い人材を育成することを目的に2021年に設立されたのが叡啓大学です。同大学はこれまでの大学教育と異なり、「先見性」や「戦略性」、「実行力」といったコンピテンシー(資質・能力)、知識やスキルの修得にフォーカスしてカリキュラムが組まれています。また、実際に企業や社会が抱える課題に向き合う「課題解決演習(PBL)」にも力を入れており、企業からも高く評価されています。
今回はそんな叡啓大学の有信 睦弘学長と、PBLに協力するユニリーバ・ジャパン カスタマー戦略開発本部 ショッパー&カテゴリー エグゼクティブ PC&HCの高瀬 英一さんに、企業が学生に求めるスキルやPBLの詳細について伺いました。
有信 睦弘学長 |
企業が今、学生に求めていることとは
――まず、有信学長に大学の立場から、「企業が学生に求めていること」について伺います。
有信学長:私自身、叡啓大学の学長に就任する以前は企業に30年以上勤めていました。その間に大学を卒業して会社に入ってくる人材を見てきたわけですが、長年1つの疑問を持っていました。それは、企業が求める能力を大学では育成できていないのではないかということです。
企業、ひいては社会が大学卒業後の学生に求めるのは、本質的な課題を発見する「先見性」や、ICTリテラシーを基盤に論理的思考力を用いて解決策を立案する「戦略性」、リーダーシップを持って最後までやり抜く「実行力」、多様性を尊重して他者と相互に信頼関係を構築する「グローバル・コラボレーション力」、生涯にわたって学び続ける「自己研鑽力」などです。
しかし、従来の高等教育はこうした能力の育成ができていなかったと感じます。それは、従来の大学の目的が知識の継承と発展であり、カリキュラムもそのために作られているからです。知識の継承と発展は重要ですが、そのせいで学部や学科が細分化され、授業で教える内容が各教員に任せっぱなしになっていました。つまり、企業や社会が求める能力の育成が体系化できていなかったわけです。そして、大学で教える内容が極端に細分化しているせいで、学生は断片的な知識しか身につけられない。そのような知識は社会に出てもあまり役に立ちません。
――ありがとうございます。では、企業の立場から「学生に求めていること」について、高瀬さんはいかがでしょうか?
高瀬さん:ユニリーバは多様性を大事にする企業なので、具体的に「この能力がないと採用しない」ということはありません。ただ、ビジネスを通して社会課題を解決していくことへのパッションがあり、自ら考えて仮説検証しながら挑戦していける行動力のある方が入社後も活躍されている印象です。
当社は「サステナブルな暮らしを“あたりまえ”にする」というパーパスを掲げていますが、このパーパス実現につながる道は1つではなく、決まった答えもありません。そのような答えのないビジネス課題に取り組むには、先ほど申し上げた「行動力」が必要になるのです。
また、ビジネスは1人ではできません。いろいろな人と協力しながら進めなければならないので、コミュニケーション力も求められます。
叡啓大学の課題解決演習(PBL)とは
――叡啓大学のPBLについて教えてください。
有信学長:PBLは多くの企業や自治体、国際機関などにご協力いただき、企業や社会が実際に直面している課題に対して学生がチームで課題の本質を捉え解決策の検討を行う授業で、2年次と3年次に行います。2年次は企業や団体から提供いただいたテーマについて、フィールドワークを通して調査し、課題の本質を探っていきます。さらに3年次には課題の特定と検証に加えて、ステークホルダーとも連携しながら解決策を練っていきます。いずれも、最後にテーマを提供いただいた企業や団体に対して学生自身が考えた課題の本質や解決策を公開プレゼンで発表するという流れです。さらに、4年次にはそれまでのPBL等での学びを活かして、自らテーマを設定する「卒業プロジェクト」に取り組むことになります。
協力いただいている企業や団体は多岐にわたっており、今回ご協力いただいたユニリーバ・ジャパン様をはじめ、地場の企業や自治体、近隣県の企業、さらに全国的に展開している大企業まで様々です。
PBLのポイントは、企業が提供する課題がPBL用に作ったものではなく、本当にリアルに企業が抱えている課題ということです。企業内では考えつかなかったような学生ならではの斬新な意見も出るため、企業にとってもPBLはメリットがあります。
――PBLでは様々なツールなども活用すると思いますが、そうしたツールの使い方などについては先生方がサポートされるのでしょうか。
有信学長:そうですね。PBLは2年次から始まりますが、実は1年次の時点でその準備段階となる「ソーシャルシステムデザイン入門」および「課題解決入門」の授業を全員必修としています。ここでシステム思考やデザイン思考などの思考法についても修得し、PBLに活かしていくわけです。
PBLを実際に体験したユニリーバ・ジャパンの感想は
――なぜユニリーバ・ジャパンは叡啓大学のPBLに参加されたのでしょうか。
高瀬さん:叡啓大学には石川雅紀先生という資源循環の第一人者がおられるのですが、当社も資源循環モデルの構築を目指しています。具体的には、我々が販売しているよりも多くのプラスチック容器を回収して再利用・再生することで、プラスチックがごみにならない未来をつくっていこうとしています。
そうしたなかで石川先生にいろいろご協力いただいていたのですが、昨年度、当社が広島県の海洋プラスチック対策のリーディングプロジェクトの支援事業に応募して採択されたことをきっかけに、叡啓大学のPBLの取り組みをご紹介いただきました。
――PBLに参加されてみて、印象はいかがでしたか。
高瀬さん:非常に面白い試みだと思いました。授業というよりも、ビジネスパーソンの実際の仕事に近い取り組みだと感じましたね。こうしたユニークな取り組みに参画させていただき、当社の課題を学生さんの目線で見ていただくことで、我々としても勉強になりました。
――PBLではどのような課題を設定されたのでしょうか。
高瀬さん:「ビジネス(売上)とパーパス(社会貢献)の両立を目指し、私たちが進めている地域資源循環のためのプログラム『Unite for Smile. UMILE ひろしま』を最大化」することです。サブテーマとして、本プログラムを認知して参加していただくにはどうすればいいのか、本プログラムに共感してよりサステナブルな製品の購入やリサイクルにご協力いただくにはどうすればいいのか、そして本プログラムを拡大し、継続的に取り組んでいただくにはどうすればいいのかを設定しました。
――今回のPBLでは4チームが課題解決策についてプレゼンを行ったそうですね。ご覧になった感想を教えてください。
高瀬さん:まず驚いたのが、ビジネスパーソン顔負けの堂々としたプレゼンテーションだったことです。また、内容も鋭い切り口からすばらしい提案をしていただきました。ここまでされてしまうと、何十年も社会人をやっている我々が困ってしまうという複雑な心境になったくらいです(笑)。
学生さんも最初はやはり試行錯誤しながら進められていたかと思いますが、中間発表以降は課題を自分ごと化して、先日の最終報告会では非常に熱いプレゼンテーションをしていただきました。
――学生さんからは具体的にどのようなアイデアが出たのでしょう。
高瀬さん:たとえばプログラムの参加ハードルを下げるための具体的な方策や、より効果的なアップサイクル品の開発を行うべきという提案、人々の意識を高めるためのユニークなイベントの提案などがありました。
なかには、我々としても考えたものの様々な事情であえて避けていたアクションプランをダイレクトに突いてきた提案もあり、舌を巻きましたね。
――PBLや叡啓大学での学びを通して身につけてほしい知識・スキルはありますか。
高瀬さん:私もそうでしたが、従来の教育はどうしても詰め込み型や暗記型の学びになりがちです。そうした中で、学生自身が主体的に考えて動くPBLはとても良い授業だと思います。今はデジタル化が進んで、インターネットで多くの情報が手に入る時代です。ですが、そのような情報の中には信憑性が薄いものも紛れていますし、社会に出てから出会う課題には必ず答えが見つかるとは限りません。
PBLを通して、実際の企業の課題に取り組み、答えのないもやもや感を経験しながら自分で考え、自分なりの答えにたどり着くスキルやセンスを養ってほしいと思います。
有信学長が話すように、従来の大学は知識を得る場であり、教員の専門性に合わせて学部や学科が細分化されていました。そのため、個別の学問については学べても、社会に出てから必要とされる能力については育成しにくかったのです。
企業・団体の協力を得て課題解決演習(PBL)を実施する叡啓大学は、まさにこの「先見性」、「戦略性」、「実行力」といった「社会に出てから必要とされる能力」を身につけられる大学といえるでしょう。
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