コミュニケーションの手段として私たちにとって当たり前の「声」。しかし、日本では声を失う人生を余儀なくされている人たちがいます。学生の研究チームであるサイリンクスの「声を取り戻す」活動に共感した株式会社ベルシステム24(以下、ベルシステム24)が、コールセンターに寄せられる「コミュニケーターへのありがとう」の数に応じた金額をこの活動の寄付金にするという試みを行いました。この記事では前半部で寄付金贈呈式のレポートを、後半部で、ベルシステム24の代表取締役 社長執行役員 野田俊介さん、サイリンクスのリーダー 竹内雅樹さんの「声」や「ありがとう」にまつわるインタビューをお届けします。
1日約60万件もの「ありがとう」が集められた
2月16日、港区虎ノ門にあるベルシステム24の本社で、野田社長からサイリンクスの竹内さんに「ありがとうプロジェクト」で集まった寄付金の贈呈式が行われました。ベルシステム24は、コンタクトセンターを主軸とするアウトソーシング事業を展開する業界の老舗企業。昨年9月に創立40周年を迎え、その周年記念の一環として、今回の「ありがとうプロジェクト」を企画しました。竹内さんを代表とするサイリンクスは、咽頭がんや喉頭がんで声を失った人の「声を取り戻す」活動に取り組む学生の研究チームです。
ベルシステム24の社内から提案された「ありがとうプロジェクト」は、ベルシステム24が大切にしている「お客様からのコミュニケーターへのありがとう」をキーにして、コールセンターに寄せられる「ありがとう」の数をAI音声認識ツールで可視化・数値化し、「社会のイイコトに還元」するという趣旨のもの。昨年10月17日~21日の5日間に集められた数は、なんと1日約60万件もの数となりました。同じ「声」に関する事業であることと、社会的貢献度の高いビジネスを行う企業に寄付として還元しようということから、サイリンクスに白羽の矢が立ったのです。
贈呈式は終始笑いの絶えない和やかな雰囲気で行われました。
記事の後半部では、ベルシステム24野田社長が「ありがとう」に着目したプロジェクトを実施した経緯と、サイリンクス竹内さんの研究に対する熱意などをインタビューしました。
「ありがとう」に着目した理由とは
― 本日は贈呈式、おめでとうございました。御社の事業内容について教えてください。
野田社長: ベルシステム24は昨年9月で40周年を迎えました。全国39拠点35,000人のコミュニケーターを抱え、タイやベトナム、台湾にも拠点を持っています。海外を含めると総勢4万人の会社です。問い合わせ総数は、年間にすると約5億件に対応しています。
私は、3年前にベルシステム24の社長に就任しました。それまでは、35年間伊藤忠商事で主にIT・ネット関連事業を担当していました。IT事業に関わる過程で、「道具や手段であるITをどのように活用するか」が重要だと考えていた私は、弊社社長に就任した際、ITとコールセンタービジネスを融合させて新しい価値を創造したいと思うようになりました。
― コールセンターにITを取り入れるとは具体的にどのようなことでしょうか?
野田社長: これまではコールセンターに収集されるお客様との対話内容は、録音された音声データを聞き直す必要がありました。ところが、数年前からAIを活用した音声認識の技術が急速に発展し、会話をテキスト化・可視化できるようになり、分析が楽になりました。今回のプロジェクトでも、お客様から発話される「ありがとう」が簡単にカウントできたことに、正直なところ、時代の変化を感じました。
今まではクライアント企業様への「お客様の声」の提供機会は限定的でしたが、音声認識を取り入れればもっと簡単に企業様にデータを提供できるようになります。今後はより企業様のビジネス促進にご活用いただけるよう、音声認識によるデータ活用のインフラ体制を整えていきたいと考えています。
― 御社は、コールセンター事業の最先端を行かれているのですね! 次に、竹内さんとの出会いについて教えてください。
野田社長: もともと伊藤忠の頃にベンチャー投資をしていたこともあり、投資に対しては柔軟な考えを持っていました。昨年、たまたまサイリンクスの竹内さんとお会いする機会があり、竹内さんの社会的貢献度の高い製品開発への姿勢に、非常に感銘を受けました。今回はベンチャー投資というよりも、この社会的意義のある活動に純粋に関わりたいと感じたのです。
― サイリンクスの研究において、特にどのようなところが魅力と感じたのでしょうか。
野田社長: 竹内さんに会って初めて、日本では年間多くの方が声を失っているという現状を知りました。そして、そのような方々が装着するデバイスは、声帯を震わせて声を出す際に、音が機械的でクリアではないという課題がありました。一方、竹内さんの製品は、声がきれいに出力され、デザインもスタイリッシュで装着している人に配慮されている点が魅力的でした。目の前だけを見るとビジネス規模としては難しい部分もありますが、中長期ではもっと壮大なビジョンを描かれている部分にも感銘しました。短期的な収益ばかりを考えていたら、到底できません。非常に志が高く素晴らしいな、と。
― 「ありがとう」をカウントして寄付金につなげようと思った背景について教えてください。
野田社長: 弊社のコールセンターに1日に寄せられる問い合わせ数が150~200万コールです。そのうち、約60万件の「ありがとう」をいただいたということは、3人に1人が「ありがとう」と言ってくださっていることになります。お客様の感謝を定量化できたのは、私たちにとって画期的なことでした。ですが、私たちだけで喜んでいても発展性がないと思ったのです。その時に、竹内さんのプロジェクトとつながって、何か価値にして社会貢献できないかと考えたのがきっかけです。
「声を取り戻すこと」の課題とは
― それでは次に、竹内さんにお伺いします。現在、研究開発はどのように進んでいますか?
竹内さん: 以前から声帯の代わりに声を出すデバイスはありましたが、活動を開始した2019年時点では、使用時に片手がふさがってしまい、声がロボットのように機械的になってしまうものしか存在しませんでした。声帯を失った方のコミュニティーである「銀鈴会」に初めて参加した時、デバイスが長年改善されないままになっており、「人前で話したくない」と感じている人も多いということを初めて知りました。その時、「自分に何かできることはないか」と思ったのが開発のきっかけです。
ハンズフリーで使えること、出力される音の質、スタイリッシュであることにこだわって開発を進めてきました。これらはほぼイメージ通りに実現することができましたが、まだクリアできていないのが「振動音の漏れ」や「声の抑揚」の部分です。上がり下がりの強弱はその人の個性が出る大事な要素にもかかわらず、これが表現できないことから、家族や友人と豊かなコミュニケーションが実現できません。今回ありがたいことにベルシステム24様から寄付金をいただきましたので、この点を集中的に改善していく予定です。
― このデバイスが完成した場合、社会にどのような影響を与えるのでしょうか?
竹内さん: 咽頭がんや喉頭がんで声帯を摘出すると、声を失います。口の動きを読み取ってもらうか、筆談という手段しか残されません。いきなりコミュニケーション手段を失い、生きる喜びも失ってしまう方がほとんどです。声を生業にしてきた方や、声を絶対に失いたくないと思う方の中には、手術せずに最後まで声を出すという選択をする方もいます。しかし、それは命を削るという選択でもあります。私は、それは違うと思うのです。「命も大事にして、声も取り戻すべき」だと考えています。声帯の手術に踏み切っても声は失わなければ、この現状を変えられると思ったのです。そこでデバイスの開発に踏み切りました。
― より多くの人に使用していただくために、どのような活動が必要だと考えていますか?
竹内さん: 浸透させるためには、声帯を失った方だけを対象とするのではなく、一般の人にも楽しんでもらうことが重要です。例えば、眼鏡は視力が悪い人だけでなく、視力が良い人も、おしゃれ目的で使用するアイテムです。私たちのデバイスも「おしゃれ眼鏡」のような位置づけを目指しています。例えば、「今日は風邪で声の調子が悪いから少し声を変えてみんなを楽しませよう」とか、ファッションとして「声を変えて印象付けたい」とか、「声のコスプレ」のような形で身近なものにしていけたらと考えています。
そのようにして一般の人にも浸透することによって、声帯を失った人の存在や、課題の認識も理解が得られる循環が作れたらいいなと感じています。
お二人が考える「ありがとう」が持つ力とは……
― それでは最後に、お二人に「ありがとう」が持つ力についてお聞きしたいと思います。
野田社長: コロナ禍では、電気・水道・ガス、通信、医療、給付金、コロナ関連の問い合わせのサポートをさせていただき、社会インフラの一部を担う業務も数多く、私たちのサービスはエッセンシャルワーカーに準ずる止められない仕事であると再認識しました。
困っていて相談の電話をかけてくる方が、コミュニケーターと話すうちに問題が解決され、電話を切る頃には明るくなっていく。「コールセンターは大変な仕事」というイメージがあるかもしれませんが、少し視点を変えれば、とてもやりがいのある仕事と言えるのではないでしょうか。今回のプロジェクトで「ありがとう」の数を可視化して分かったように、3人に1人が感謝してくれる仕事でもあります。
仕事でもプライベートでも、感謝されるというのは、1日に潤いを与えてくれる元気の源です。もっと「ありがとう」を世の中にたくさん増やし、少しでも社会を明るくしていくことは、弊社の使命だと言えるでしょう。
竹内さん: 言われると嬉しくてなんだか前向きになる魔法のような言葉が「ありがとう」だと僕は思います。今回のプロジェクトでコミュニケーターの方が1日60万件も「ありがとう」と感謝の言葉を受けていたという事実は、純粋に素晴らしいことだと思いました。「ありがとう」をこれほど創出するベルシステム24様からの寄付金は非常に貴重なご縁だととらえています。声を失った人がアイデンティティと笑顔を取り戻せる社会を創るべく、開発に勤しんでいきたいと思います。
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贈呈式の様子や、野田社長と竹内さんの対談をご覧になっていかがでしたか。「ありがとう」を数えるだけでなく、社会的意義のあるビジネスに寄付金として提供したベルシステム24。ユニークで優しさあふれるプロジェクトにより、「声を取り戻す」ためのデバイス開発が進んでいくのが楽しみですね。この記事を読んでいただいた皆様にも「ありがとう」の秘めた力を改めて見直す機会になれば幸いです。
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