遺言や贈与があると、本来の法定相続人であっても遺産相続ができなくなることがありますが、そのようなとき、遺留分侵害額請求をすることで、遺留分として定められた最低限の遺産に相当する金銭を請求することができます。
遺留分侵害額請求には1年の期限があります。トラブルも多いので、困ったときには弁護士に相談しましょう。
本記事では遺留分の仕組み、遺留分の対象となる人について解説します。
遺留分とは?
遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得分のことです。
遺産に対し完全に自由な処分を認めてしまえば、相続人が最低限の遺産すら確保できないというケースが生まれてしまうので、法律で一定の範囲の近しい相続人には遺留分を認められています。
法定相続人が遺産相続できない事態を回避できる
遺産相続をするときには、法定相続人が法定相続分に従って遺産を受け継ぐのが基本です。 しかし、遺言や贈与があると、法定相続人であっても十分な遺産を受け取れなくなることがあります。
たとえば、父親が死亡したとき子どもには遺産相続権がありますが、父親が愛人に全部の遺産を遺言で遺贈してしまったら、子どもであっても遺産をもらえなくなってしまいます。
このようなときに、子どもが主張できるのが、「遺留分」です。
遺言で遺留分を侵害された場合、遺留分に相当するお金を請求できる
現在の民法で、遺留分権利者には、遺留分侵害があった場合、受遺者又は受贈者に対して「遺留分侵害額に相当する金銭を請求する権利」が認められています。(改正後民法1046条1項)
上記の例で言えば、父親が愛人に全部の遺産を遺言で遺贈した場合、子どもには、受遺者である父親の愛人に対して、遺留分に相当する金銭を請求する権利が発生するのです。
改正前の民法では、遺言によって相続人の相続割合を自由に決定することを認めた上で(民法902条1項)、但し書きにおいて「ただし、遺留分に関する規定に違反することができない」と明示していました。
但し書きの規定により、遺留分は遺言で侵害できないものとなっていました。
改正後民法では、この但し書きを削除、あわせて遺留分侵害額請求権を認める1046条1項が追加されたことで、遺留分の侵害をシンプルに金銭で解決できるようになりました。
遺留分を確保するには早めの「遺留分の請求」が必要
改正後民法で遺留分を侵害する内容の遺言も認められている以上、そういった遺言が有効になり、遺留分を侵害する内容で遺産分割や相続が行われてしまう可能性はあります。
あくまで遺留分を受け取る権利が金銭債権化されただけで、遺留分侵害があった場合に、なんの手続きをしなくても、自動的にお金が法定相続人の口座に振り込まれる、というものではありません。
遺留分を請求するには、侵害された人が自ら遺留分の権利主張を行うことが必要です。 遺留分を侵害する内容の遺言があっても、侵害された相続人が何も文句を言わなければ、その遺言はそのまま有効になってしまいます。
その場合、せっかく遺留分があっても、その法定相続人は遺産を受け取れなくなってしまうので不利益を受けます。 自分に遺留分があることがわかったら、できるだけ早く遺留分の請求をすべきです。
侵害された場合は遺留分侵害額請求ができる
本来は受け取れるの遺産を侵害された場合は、遺留分侵害額請求を行使することで、侵害された遺留分にあたるお金を取り戻すことができます。
これは遺言などで遺留分を侵害された場合にも有効ですので、侵害されている方はやはり早めに請求をすることが重要です。
遺留分を認められる人
次に、遺留分はどのような人に認められるのかを見てみましょう。
これについても、民法に定めがあります。 具体的には、兄弟姉妹以外の法定相続人です。
基本的には、配偶者と子どもと親ですが、これらについての代襲相続人にも遺留分が認められます。
たとえば、子どもが被相続人より先に亡くなっていたら孫が代襲相続しますが、このとき孫にも子どもと同じ割合の遺留分が認められます。 代襲相続人は、被代襲相続人の地位をそのまま引き継ぐものだからです。
遺留分請求できない人
それでは、反対に遺留分請求ができないのは、どのような人なのでしょうか? 以下で見てみましょう。
兄弟姉妹
兄弟姉妹が相続人になっている場合には、遺留分の請求が認められません。
兄弟姉妹は子ども、親に継ぐ第3順位の法定相続人ですが、子どもや親などの直系の親族と比較すると、被相続人との関係が薄いためです。
兄弟姉妹の子どもである甥や姪が代襲相続人になっている場合にも、兄弟姉妹の地位をそのまま引き継ぐため、遺留分はありません。
相続放棄した人
次に、相続放棄をした人についても、遺留分は認められません。
相続放棄した人とは、家庭裁判所において、相続放棄の申述をした人のことです。単に念書で「相続しません」などと書いた人のことではありません。
相続放棄をしたら、その人は初めから相続人ではなかったことになるので、代襲相続も起こりません。
たとえば、子どもが相続放棄をした場合、孫が代襲相続することはなく、孫にも遺留分請求をすることは認められません。
相続欠格者
次に、相続欠格者も遺留分の請求が認められません。相続欠格者とは、一定の事由があったために当然に相続権を失った人のことです。
相続欠格者になるのは、以下の場合です(民法891条)。
- 相続人が被相続人や同順位以上の相続人を殺害して有罪となった
- 相続人が、被相続人の殺害を知っても刑事告訴しなかった
- 相続人が被相続人に無理矢理遺言を書かせた、または訂正させた
- 相続人が遺言を隠した、または処分した
これらにあてはまる場合、何もしなくてもその相続人は当然相続欠格者となります。
相続欠格者になったら、その人は遺産を相続できなくなるので、遺産の一部を取得する権利である遺留分も請求することができません。
ただ、相続欠格者の場合には、欠格事由はその人の固有の問題ですので、代襲相続は起こります。 代襲相続人には欠格事由がないのであれば、普通通りに相続ができますし、遺留分を主張することもできます。この点は、相続放棄と違います。
相続人として廃除された人
次に問題になるのは、相続人として廃除された人です。相続人の廃除とは、著しい非行があった場合に、その相続人から相続権を奪うことです。
相続人の廃除が行われるのは、以下のようなケースです。
- 相続人が被相続人に虐待行為や重大な侮辱行為をした場合
- 推定相続人に著しい非行があった場合
たとえば、相続人が被相続人に暴力を振るったり侮辱したりした場合、相続人が重大な犯罪を犯して刑罰を受けた場合、相続人が浪費や度重なる借金などによって被相続人に多大な迷惑や負担をかけ続けてきた場合などには、相続廃除が認められる可能性があります。
相続放棄、相続欠格、相続人廃除の違い
以上のように、相続放棄と相続欠格と相続廃除の3つを比較したとき、どの場合であっても本人は遺留分を請求できなくなりますが、代襲相続人の取扱は異なります。
相続放棄の場合には代襲相続人も遺留分を請求できませんが、相続欠格や相続人廃除の場合には代襲相続人は遺留分の請求ができます。
さらに、相続人廃除の場合、廃除を取り消してもらったら、本人であっても遺留分侵害額請求できるので、この点でも他の2つの制度と異なります。
遺留分の放棄をした人
遺留分の請求は、遺留分の放棄をした場合にもできなくなります。
遺留分の放棄とは、相続全体を放棄するのではなく、遺留分のみを放棄することです。
遺留分を放棄しても相続権自体はあるので、自分に相続分があれば、遺産分割協議に参加して遺産を取得することができます。
たとえば、遺留分を放棄しても、被相続人が遺言を残しておらず、死因贈与や生前贈与もしていなければ、自分の相続分には何の影響もないので、普通に遺産分割協議をして権利に相当する分の遺産をもらうことができます。
遺留分の放棄には、生前に行うものと死後に行うものがあり、大きく手続きが異なります。
生前の遺留分の放棄
被相続人の生前に、相続人予定者が遺留分の放棄をすることもできます。 ただし、この場合、被相続人から不当な圧力を受けるおそれがあります。
そこで、生前に遺留分を放棄するためには、家庭裁判所の許可が必要とされています。
具体的な手続きとしては、被相続人の居住地を管轄する家庭裁判所において、遺留分放棄の申立を行います。 このとき、被相続人の戸籍謄本と相続人の戸籍謄本を添付して、800円の収入印紙を添えて「遺留分放棄の申立書」を提出します。
すると、家庭裁判所で審判が行われ、問題がなければ遺留分の放棄が認められます。
遺留分の放棄ができる人
遺留分放棄の申立ができるのは、遺留分をもった相続人本人のみです。 これは、他人からの不当な干渉を防ぐためです。
そこで、被相続人やその他の親族などからの申立は認められません。
また、兄弟姉妹には遺留分が認められないので、遺留分放棄の申立はできません。
死後の遺留分の放棄
被相続人の死後に遺留分放棄をする方法は、とても簡単です。この場合、特に家庭裁判所への申立や許可などは不要であり、単に他の法定相続人と話し合いをして、自分は遺留分を請求しないことを確認したら、遺留分の放棄ができます。
遺留分放棄を明らかにするために「遺留分を請求しません」「遺留分を放棄します」などと記載した書面を作成することもあります。
以上のように、遺留分の放棄をしたら、当然遺留分請求をすることはできません。
代襲相続者について
それでは、遺留分の放棄をした人の代襲相続者は遺留分請求をすることができるのでしょうか? この場合、代襲相続者は遺留分を放棄した本人ではないので、遺留分を請求できるようにも思えます。しかし、法律は、これを否定しています。
代襲相続人は、被代襲相続人の地位を引き継ぐので、既に被代襲相続人が遺留分放棄をしてしまっている以上、代襲相続人も遺留分放棄したのと同じ立場になると考えられるのです。
遺留分と代襲相続の関係まとめ
このように、遺留分と代襲相続の関係は、非常にわかりにくい部分があります。まとめると、相続放棄の場合にはそもそも代襲相続しませんし、遺留分放棄の場合には代襲相続は起こりますが、代襲相続人は遺留分を請求できません。
これに対し、相続欠格や相続人廃除の場合には、代襲相続が起こり、遺留分の請求も可能だということになります。
遺留分の放棄をするケースとは?
生前に遺留分のみの放棄をすることができると説明しましたが、そんな制度を何のために利用するのかがイメージできないこともあるでしょうから、以下で、遺留分の放棄を利用するケースやシチュエーションについて、説明します。ずばり言うと、兄弟姉妹以外の法定相続人に遺産相続をさせたくない場合です。 たとえば、兄弟3人が相続人になっていて、長男に遺産を集中させたいから次男や妹に遺産の放棄をしてもらう場合などが、シチュエーション例として考えられます。
この場合、遺留分の放棄以外では対処が難しくなります。以下で、詳しく見てみましょう。
生前の相続放棄はできない
特定の相続人に相続をさせたくない場合、まず思いつくのは、相続放棄をしてもらう方法ですが、相続放棄は、相続開始前には認められません。
相続人廃除ができるケースは限定されている
次に相続人の廃除も考えられますが、廃除が認められるには相続人に非行があることが必要なので、問題のない相続人を廃除することはできません。遺言をしても、遺留分があることが問題になる
そこで、遺言を利用します。
遺言によって、特定の相続人以外の人に相続させたり遺贈をしたりすると、その相続人には遺産を相続させずに済みます。
しかし、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分が認められます。 いくら遺言によって相続させないことにしていても、自分の死後にその相続人が遺留分請求をしてしまったら、相続権を完全に奪うことはできません。
遺言と遺留分の放棄を組み合わせたら、相続させないことができる
そこで、その相続人に遺留分の放棄をしてもらいます。その上で、その相続人に遺産を残さない内容の遺言をしたら、遺産相続されることがなくなります。
冒頭の兄弟3人が相続するケースでも、弟や妹が遺留分放棄をしてくれたら、父親は長男にすべての遺産を残す内容の遺言をしたら、すべての遺産を長男に残すことができるのです。
なお、遺留分の放棄ができるのは、兄弟姉妹以外の法定相続人のみです。
兄弟姉妹には遺留分が認められないので、兄弟姉妹に遺産を残したくない場合には、それらの人に遺産を相続させない内容の遺言書を書けば目的を達成することができます。
まとめ
遺留分が認められるかがわからない場合、弁護士に相談しましょう
以上のように、遺産相続をするとき、遺留分が認められるケースと認められないケースの区別は、非常にわかりにくくなることがあります。
兄弟姉妹に遺留分が認められないのはわかりやすいですが、それ以外にも相続放棄した場合にも遺留分が認められませんし、相続欠格者になった場合、相続人廃除をされた場合などには、代襲相続も問題となります。
遺留分のみの放棄をすることもできますが、生前に遺留分の放棄をするときには家庭裁判所の許可が必要です。
このように、遺留分が認められるかどうかがわからない場合、自分で間違った解釈をすると、トラブルのもとになります。
迷いがある場合には、一度弁護士に相談をして、本当に遺留分が認められるのか、認められるとしたらどのくらいの遺留分があるのかを聞いてみると良いでしょう。
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