サブスクリプション(以下:サブスク)のストリーミング再生など、新しい音楽の楽しみ方が主流となっている昨今。そんなサブスク全盛期の今、実はレコードの人気が再燃しているのをご存じだろうか。

そのブームは日本のみならず、アメリカではCDの売り上げをレコードが上回るなど世界的なムーブメントとなっている。なぜ今、これほどまでにレコードに注目が集まっているのか。長年にわたってレコード市場を見てきた株式会社CARASCOの代表・葛原繁喜(くずはら・しげき)氏に話を聞いた。

  • 株式会社CARASCOの代表・葛原繁喜氏

世界的に「レコード人気」が再燃

――最近レコードが再注目されているそうですが、どのようなムーブメントになのでしょうか。

日本国内では、和モノ(邦楽)がブームですね。日本人アーティストの昔のレコードが人気で、若い方たちが今でも聴ける音や自分に合った音を探してレコードを買っている印象です。

たとえば、自分の好きなアーティストが影響を受けた人のレコードを聴いたり。レコードは「ジャケットが大きくて映える」という意見もあって、オシャレな買い物になっているんです。

コスパは決して良くないですが、「だから買わない」というものではない。そこがレコードの面白いところかもしれません。あと、海外では日本のアーティストが再評価されていたり、海外のアーティストの「日本盤」のレコードの人気がとても高まっています。

――日本だけのブームではないのですね。なぜ「日本盤」が海外で人気なのでしょうか。

海外だと、レコードの状態はあまり良くないことが多い。40~50年経つと、大体どのようなものでもボロボロになるじゃないですか。特に海外は、その傾向がとても顕著なんです。

一方で、日本はレコードの保存状態と作りが良いと、海外から非常に評価されています。それが「日本盤」に人気が集まる理由のひとつです。

――なぜ日本のレコードは、海外に比べて質が高いのでしょうか。

レコードは主に1950年代から聴かれ始めていますが、その頃は貴重品として扱われていました。1970年代の給与が10万円くらいの頃、レコードは約2,000円と考えると、その貴重さが分かるのではないでしょうか。当時、レコードを買えない人はジャズ喫茶に行って音楽を聴いていました。

また、昔はドルとの為替レートが360円だったので、レコードが高くて輸入できませんでした。そうなると、日本のレコード会社は自分たちで作るしかない。アメリカでレコードの人気がピークだった1950年代は、コストがかかっているのでジャケットのクオリティもすごく高いんです。その頃、アメリカは経済的にも良かった時期ですから。

しかし、日本は1950年代のレコードは材料も不足していて出来が悪い。それが60年代、70年代になるにつれて、品質も上がっていきました。

1970年代になると、為替レートが変動するようになって、原料もたくさん入るようになってきた。品質向上への努力もあって、それ以降のクオリティは非常に高くなっています。そのため、コレクターたちは1960年代以降のレコードに注目している印象です。

――そのほかにも、注目されているものはありますか。

  • レコードのジャケットに付く、タイトルや説明が書かれている日本特有の文化「帯」 / 写真左のピンク箇所

おそらく日本の書籍からヒントを得たのかと思うのですが、日本のレコードには「帯」が付いています。帯は日本独自の文化で、海外の人からは非常に面白く映るようで人気が高いです。帯ありだと10万円で帯なしだと1万円、という場合もよくありますね。

あと、やはりコレクターは全部集めたくなるようです。たとえばビートルズは、これまでにアルバムを13枚リリースしています。その中の1タイトルでも、オリジナル盤のほかに1,000以上のバージョンが世界各国でリリースされているんです。それが13タイトルもあるわけですから、コレクションしようと思っても果てしない。そして中古レコードですから、状態もいろいろです。こちらは帯付き、こちらは盤の状態が良い、こちらはジャケットがキレイ……と、10万円くらいするレコードを何枚も買って”最高の状態の1枚”を作る方もいます。

――レコードの需要は、今後も高まりそうですね。コロナ禍の影響はなかったのでしょうか。

むしろ需要が高まったように思います。家にいる時間が増えたことで、通販でレコードを探す方も増えたのでしょう。そのため、状態の良いレコードは今後も価格が上がっていくはずです。新しく作れるものではないですから。

レコードの需要は今後もなくならない

――今のようなブームが起こる前の中古レコード市場は、どうだったのでしょうか。

僕は1990年代頃から海外でレコードの買い付けを行っていますが、以前のブームは「ヒップホップが流行ったら、日本にはないレコードを海外から買い付けて、それを若い人たちが買う」というように、ジャンルが流行ったことでレコードも売れるという一時的なものでした。

しかし、今回のブームは非常に息が長い。それはネットが普及したことで、ジャンルを問わずあらゆるレコードが動いているからですね。世界中のいろいろなジャンルのファンが、ネットを通じてレコードを買っているから、ブームが継続しているのだと思います。

――最近では、アーティストも新譜をレコードで発売したり、国内でレコード工場が再開されたりと、さらなるブームの高まりが感じられますね。

レコードは、一度はCDに押されて途絶えかけました。日本だけのブームに左右される形だと、需要がなくなったら生き残れません。海外も巻き込んで、各地から受注が来るような「日本クオリティ」を保つ必要があります。

ただ、中古レコードも、発売当時には今のような価値になるとは思っていなかったでしょう。その時、その時で良いものを懸命に作っていただけのこと。レコードのコアな需要は今後もなくならないと思うので、こだわりを忘れずに、その瞬間でできる最大限を発揮していきたいですね。

――サブスクなど、手軽に音楽を楽しむ方法があるなかで、レコードはどのような役割を担うと思われますか。

たとえば、時計でいうと「手巻きの時計が好きな人」。そういう人に「手巻きって面倒で不便でしょ」と言っても、「そういうことじゃない」となりますよね。レコードもそれと同じ理屈で、サブスクとは全く別物と考えてよいのではないでしょうか。

――昨今のブームでレコードに興味を持った人も少なくないと思います。初心者はどのようにレコードを楽しめばいいのでしょうか。

やはり、ネットで見るだけだと分からない部分はたくさんあると思うので、実店舗で試聴してみてほしいです。レコード屋の店員さんは、たいてい優しいですから(笑)。うちのお店にも、「試聴の仕方がわからない」と相談に来るお客さんがいます。若い人にとっては、レコードを買ったり聴いたりすることも新しい体験。実際に体験して、楽しんでもらえたらと思います。

コストや時間がかかっても、顔の見える商売を

――葛原氏が代表を務めているCARASCOとはどのような会社なのでしょうか。

レコードなどの音楽ソフトの仕入れと販売をやっています。僕自身は1990年代からレコードのバイヤーをやっていて、2005年にオンラインで店舗を開きました。その後、2015年6月に実店舗をオープンしています。

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――年間でどれくらいのレコードを買取されているのですか。

約100万枚ですね。日本全国から買い取りをしています。コロナ禍になる前は、出張での買取も数多く対応していましたが、現在は着払いで郵送していただくなど、お客様の状況に合わせて柔軟に対応しています。

お客様のお宅にお邪魔させていただくと、200枚ものレコードが倉庫に眠っていたり、8畳一間に5,000枚くらい置いてあったりなど、まだまだ全国にはたくさんのレコードが眠っているのだと感じます。

スタッフもロック専門、ジャズ専門、クラシック専門など、レコードのジャンルに合わせて専門の査定担当スタッフがいます。先ほどもお話ししたように、ビートルズのたった1枚のアルバムに1,000バージョン以上もあって、それがいつの時代の、どういった状態のものなのかを確認し、査定するわけですから、 一朝一夕で身につくものではなく、日々スタッフ間で情報を共有しながら、知識と経験を積み重ねています。そういった知識量と情報量、そしてレコードへの愛情こそが当社の強みであり、お客様にも高く評価いただいていると自負しています。

買取希望の方のお話をお聞きすると、亡き父親のコレクションなど、それぞれのレコードにストーリーがあるんです。そういったお話をしっかりと聞きながら、そのレコードの価値を海外相場も含めてしっかりとお伝えして、納得していただいてから引き受けるよう心がけています。

――専門性の高いスタッフが、しっかりと思い出やストーリーも含めてレコードを引き受けているのですね。会社としての、今後のビジョンを教えてください。

コロナ禍が落ち着いたら実店舗を増やしていき、海外から来た人が立ち寄れるような場所にしたいです。そして海外とのより太いパイプ作りを目指し、買取の窓口としてだけでなく、それ以外の機能も持たせたいと思っています。コストや時間はかかるかもしれないですが、地道に皆さんと顔を合わせる商売をやっていきたいです。


国内のみならず、世界中で人気となっている日本のレコード。そのブームはますます加速していくだろう。レコードに針を落とす音楽体験は、いつもとは違った魅力を感じられる。実家の棚の奥や倉庫の片隅に眠らせたままのレコードを待っている人が、もしかしたら世界のどこかにいるかもしれない。ぜひ一度、レコードという文化に触れてみてはいかがだろうか。

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