近年、個人・法人問わず顧客の決済ニーズが多様化しており、複雑な決済手段に対して、ワンストップで応えていくサービスに期待が高まっています。

今回は、日本クレジット協会の副会長でもあるSMBCファイナンスサービス株式会社の小野社長に総合決済カンパニーとして新たな取組み等についてお話を伺いました。

小野 直樹(おの・なおき)
1961年12月26日生
1984年 4月 株式会社三井銀行(現 株式会社三井住友銀行)入行
2012年 4月 株式会社三井住友銀行 執行役員
2014年 4月 同行 常務執行役員
2017年 3月 同行 取締役兼常務執行役員
2017年 4月 同行 取締役兼専務執行役員
       兼 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 専務執行役員
2017年 6月 同行 取締役兼専務執行役員
2018年 4月 同行 専務執行役員
       トランザクション・ビジネス本部担当
       兼 株式会社三井住友フィナンシャルグループ
       専務執行役員 決済企画部担当
2019年 4月 株式会社セディナ 代表取締役社長
2020年 7月 SMBCファイナンスサービス株式会社 代表取締役社長(現任)
2022年 6月 一般社団法人日本クレジット協会 副会長(現任)

森山 千代(むらやま・ちよ)
新潟県出身。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。株式会社新潟総合テレビ入社。報道部所属アナウンサーを経て、その後フリーアナウンサーとなる。テレビ埼玉「テレ玉NEWS」「テレ玉イブニングNEWS」「NEWS930」などにキャスターで出演。そのほかドラマ、WEB、CM、イベントMCと幅広い媒体でもキャスター・リポーターを務めている。趣味は料理(キャラ弁・ケーキ作り)。剣道は初段の腕前。

クレジット業界を取り巻く環境について

安全なクレジット環境を整備し、より安心できる決済手段へ

村山 :新型コロナウイルスの影響により、国内だけでなく全世界での個人消費が落ち込み、経済全体が大きな打撃を受ける中、衛生面での利点もありキャッシュレス決済が注目されています。このような状況を踏まえ、業界の現状についてお考えをお聞かせください。

小野 :これまでの国内におけるキャッシュレス市場は、「現金に対する信頼性の高さ」「治安の良さ」「ATM網の利便性」など、日本固有の環境等もあり、キャッシュレス先進国との比較において、市場拡大の必然性に課題があると言われていました。

他方、IT技術の進展や訪日外国人の増加、国際的イベントの実施などを背景に、政府は、「未来投資戦略」「キャッシュレス・ビジョン」にて国内のキャッシュレス比率を2025年までに40%とする目標を打ち出しました。また、消費税増税に伴う経済対策として実施した「キャッシュレス・ポイント還元事業」では、想定を大幅に上回る約115万もの店舗が参加するなど、政府主導による政策等の後押しもあり、キャッシュレス決済に対する注目度は大きな変化を見せています。

それを象徴する出来事として、昨今のコロナ禍においては、民間最終消費支出が前年比マイナス5.6%と落ち込む中、クレジットカードをはじめ各種キャッシュレス手段の利用金額は増加し、2020年のキャッシュレス決済比率は前年比2.9%増加しています。衛生的な決済手段として選ばれるなど様々な理由があると思われますが、キャッシュレス決済が社会インフラとして着実に根付き始めている証拠だと考えられます。

村山 :昨今の決済ビジネスにおいては、IT技術の進化や政府主導の施策等もあり、キャッシュレス化にとって追い風が吹いています。このような状況において、今後のクレジット市場の動向・課題等についてお考えをお聞かせください。

小野 :近年のクレジット市場において、クレジットカードショッピングの信用供与額は、前年比10%前後の伸び率で推移しておりましたが、2020年は、1.4%と僅かな伸びに留まりました。他方、カードの利用件数は、前年比11.3%の伸び率となっており、利用件数自体は堅調に推移している状況です。少額取引分野においてクレジットカードの利用が進んでいる表れと考えられます。従前、少額取引の場合、クレジットカードはなかなか選ばれない傾向にありましたが、多様な決済手段との紐づけやより衛生的な決済手段としてクレジットカードが選択されるなど、消費者のマインドも変化しつつあると感じており、今後もこの傾向は続くと思われます。

一方、セキュリティ面では、2020年のクレジットカード不正使用被害額は253億円で、前年比マイナス7.6%ではあるものの看過できない状況にあり、今後 の市場拡大に向けた大きな課題となっています。

被害の内訳を見ますと、偽造カードによる被害額は、ICカード化などにより、前年比マイナス55.0%と大幅な減少傾向にありますが、一方で番号盗用による被害額は223億円で昨年実績に対し、ほぼ横ばいで推移しており、不正使用被害額全体の約88%を占める状況となっています。引き続き安全・安心なクレジットカード利用環境の整備に向けて、関係者が一丸となって推進していくことが求められています。

このような状況の中、今年の夏は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されました。当該期間中に国の重要インフラであるクレジット決済システムに障害が発生した場合、その影響は非常に大きいものとなります。そのような事態に備え、2019年に東京オリパラ連絡会議を組成し、近年発生したクレジットカード業界の障害事例や大規模イベントを狙ったサイバー攻撃事例を分析し、障害を未然に防ぐ取組みや、万一障害が発生した場合の対応など、具体的な運用を関係事業者一丸となって取りまとめました。この結果、世界的かつ大規模なイベントの開催国として、クレジット決済システムを安定的に運用できたことは、日本のクレジット決済システムのセキュリティレベルを世界に示すことができた良い機会であったと感じています。

個社としての取組み

総合決済カンパニーとして顧客の多様な決済ニーズに応えていく

村山 :御社のこれまでの歩みをお聞かせください。

小野 :2009年4月に株式会社オーエムシーカード、株式会社セントラルファイナンス、株式会社クオークが合併、株式会社セディナが誕生し、3社が持つ顧客基 盤、営業力、独自のノウハウを結集・融合させ、クレジットカード事業、信販事業、ソリューション事業(現トランザクション事業)という3つの事業を柱に、複合的な決済ソリューションを提供する会社として合併以来活動領域を広げてきました。日常的な支払手段としてクレジットカードを中心としたカード事業、高額な商品・サービス購入時の支払い手段として分割払いを中心とした個別クレジットの信販事業、反復継続的な支払いのための集金代行やファクタリングなどのソリューション事業、これら3つの事業における多種多様な商品やサービスを活用し、フルレンジの決済手段を提供しています。

近年では、2019年4月に三井住友カード株式会社の完全子会社となり、SMBCグループのキャッシュレス決済戦略の推進に向けた新たな体制整備を進めました。また、2020年7月には法人向け総合決済ソリューション事業の推進体制を強化するため、100%子会社であったSMBCファイナンスサービス株式会社と合併するとともに、社名を総合決済カンパニーとしての事業内容をより体現すべく、SMBCファイナンスサービス株式会社に変更しました。

村山 :三井住友カード社との経営一体化を進められているとのことですが、その背景と取組み内容についてお聞かせください。

小野 :キャッシュレス決済市場は、多様性を伴いながら複雑な進化を遂げ、想定を上回るスピードで変化し続けており、多様なお客さまのニーズに対し、クレジットカード、信販、ソリューション等の決済サービスをワンストップで提供していくことが求められています。このような環境変化に対応するために、三井住友カードと当社がこれまで築いてきた顧客基盤や培ってきたノウハウ、お客さまからの信用、信頼等、その強みや特徴を活かし、お客さま目線でのベストプラクティスをグループベースで徹底的に追求していく態勢を構築しています。

その一環として、2021年4月に両社は本社機能及び東京の営業拠点を江東区豊洲に移転・集約しました。これによりシームレスなコミュニケーションが物理的にも可能となり、迅速な意思決定や、よりスピード感のある戦略の遂行が可能となりました。

村山 :信販事業の営業体制についてはいかがですか。

小野 :昨年7月に、全国に約50カ所ある信販事業の営業拠点のミッションを、事業間の壁を取り払い、より一層シナジーを追求するべく見直し、クレジットカード、集金代行とファクタリングを合わせたトランザクションを含む3事業すべてをお客さまのニーズに沿って提供する営業拠点として再定義しました。ただ、各営業拠点が3事業のプロダクツを取り扱えるようにするには、信販事業のためだけに使っていた時間を、他の事業に回す必要があるため、信販の営業活動のリモート化、申込手続きのウェブ化、申込データを自動審査システムに自動的に連携する審査のSTP(Straight Through Processing)化、契約書のペー パーレス化など省力化を図るとともに、加盟店管理業務についても、リスクに応じてメリハリをつけることで効率化しています。その結果、信販にかける時間は従来の半分近くになりましたが、それでも、信販の取扱高はコロナ禍の影響を除けば、ほぼ計画通りで推移しています。

村山 :近年、社会的に注目の集まるサステナビリティについて、御社ではどのような方針で取り組まれているでしょうか。

小野 :当社は、SMBCグループの一員として、グループ一体となってサステナビリティ経営を進めています。昨年、「SMBCグループサステナビリティ宣言」が公表され、2021年4月にはグループ各社の経営理念に「社会課題の解決を通じ、持続可能な社会の実現に貢献する」を追加しました。社会課題の解決に貢献していくために、「環境」「コミュニティ」「次世代」を重点課題(マテリアリティ)に設定しています。また、三井住友カードと共に「キャッシュレス推進」と「金融経済教育」を注力施策として推進しています。

村山 :具体的にはどのような活動をされていますか。

小野 :当社では長年、お客さまと取り組む社会貢献活動として、社会貢献・寄付型クレジットカードを発行してきました。その代表例の1つが「地球にやさしいカード」です。地球環境保護をテーマにした12種類のカードがあり、カードのご利用金額の0.5%が当社から公益財団法人緑の地球防衛基金を通じテーマに沿った各保護・研究団体に寄付される仕組みになっています。1991年の発行開始以来、おかげさまで30周年を迎え、これまでの累計寄付金総額は7億7,000万円を超えています。

もう1つが、2003年より発行している手塚プロダクションとの提携カード「アトムカード」です。カードのご利用額の0.3%を、当社負担によりコンセプトに合致する団体に寄付する仕組みで、子供たちの夢を形にする活動の支援に役立てられています。

また、最近では「金融経済教育」にも力を入れています。SMBCグループ各社と連携し、小学校から大学まで、クレジットカードの仕組みや収支管理の重要性など、次世代を担う学生がお金に関する正しい知識と適切な判断力を身につけ、安全・安心で便利なキャッシュレス生活を送ることができるよう、各世代に向けた出張授業を行っています。

村山 :また、従業員の健康で豊かな生活の実現のための環境を整備しているとのことですが、どのような取組み内容でしょうか。

小野 :経営基盤を支える従業員の心と身体の健康をより一層推進するため、2018年6月に「健康経営宣言」を制定し、最高健康責任者として人事担当役員を選定しました。コロナ禍においては、在宅勤務など働き方が多様化し、コミュニケーション不足によるメンタル不調への影響も見られるようになり、益々その取組みの重要性は増しています。そのような中、三井住友カードとの経営一体化の中で、あらためて「従業員が心身ともに健康に働くことができる組織づくり」を重要な経営課題として位置づけ、健康増進セミナー、ウォーキングイベント、禁煙キャンペーン等、従業員のウェルネスカルチャー醸成に向けた各種施策を推進しています。

こういった取組みが認められ、当社は経済産業省と日本健康会議が主催する「健康経営優良法人2020認定」において、健康優良法人「ホワイト500」に認定されました。

日本クレジット協会が果たす役割

セキュリティ強化と若年層への消費者教育により、クレジット業界の健全な発展に貢献

村山 :クレジット業界が果たすべき役割、また協会が果たす役割について協会副会長のお立場からお考えをお聞かせください。

小野 :当協会の中期業務運営方針(2020年度から2022年度)では、環境変化を踏まえた、安全・安心なクレジットカード利用環境の整備を重点推進事項に掲げ活動しています。活動にあたっては、法改正への適切な対応、セキュリティ対策の推進、広報啓発・教育の推進を3本柱とし事業遂行をしています。

法改正への対応については、2021年4月に施行した改正割賦販売法への安定運用に加え、2022年に予定される民法改正による成年年齢の引下げや個人情報保護法の改正への対応も必要になります。当協会としては、認定団体として、会員各社が混乱なく対応できるよう関係各所と適宜連携を図りつつ法改正へ適切に対応していきたいと考えています。

また、アフターコロナ時代の「新しい生活様式」の実践には、非接触・デジタル化が必要不可欠であり、社会活動の基本的なインフラである決済分野も、キャッシュレス決済の普及推進が求められます。そのためお客さまに安心してクレジットカードをご利用いただける環境整備が今後一層重要となります。直近の課題としては、まだまだ予断を許さない不正利用の防止に係るセキュリティ対策の強化が必要です。当協会としては、引き続き関係各所との連携強化を図りつつ安全・安心な利用環境整備に取り組んでいきたいと考えています。

また、成年年齢の引下げとも関連しますが、これからクレジット決済を行う若年層に対する教育は、業界の健全な発展のために欠かせない要素となります。このため、消費者啓発活動についても積極的に対応してまいりたいと考えています。引き続き、協会の強みを生かし、クレジット業界の健全な発展にしっかり貢献していきたいと考えています。

[PR]提供:一般社団法人日本クレジット協会