2021年3月11日、日本橋浜町の街中には防災での共助を呼びかける3メートルの巨大新聞が掲出され、その満開の桜のデザインが街を彩りました。

新聞表面:浜町住民、就業者の方々の「たすけあい宣言メッセージ」         
255枚の桜の花びらひとつひとつに共助の意思を表明する街の人のメッセージが書かれています
桜の花びらに書かれたメッセージ
新聞裏面 「おもひやり防災十二景」
江戸浮世絵をモチーフにしたデザインの中で、備え・避難・避難暮らしコロナ対策に関する防災アクションが
紹介されています

東日本大震災から10年。

あの日の出来事を教訓として、生活物資の備蓄などの「自助」、避難所の開設などの「公助」の整備が進んできました。

しかし、災害が起きる度に苦しむ方がいることに変わりはありません。

こうした状況を改善するために必要なのは、人々がお互いに手を取り合い助け合う「共助」です。しかし、プライバシーや個人情報が重視され、コミュニケーションに慎重になる現代社会では「共助」を整備することは簡単ではありません。

3月11日、そんな共助を啓発する活動の一環として「3.11防災アクション」が日本橋浜町で実施されました。展示された3mの巨大新聞には満開の桜が描かれ、多くの人から「共助の意思」のメッセージが寄せられています。

メッセージを書く子どもたち

今回、こうした「3.11防災アクション」の取り組みの内容と実施の狙いについて、活動を主催するTokyo Good Manners Project(以下TGMP)の理事を務める水代 優 氏と、日本橋浜町エリアマネジメントの監事を務める髙橋 伸治 氏、自治体の防災計画策定の支援を行うなど防災のプロである建設技術研究所 ガバナンス統括本部長の秋葉 努 氏の3名にお聞きしました。

左から、秋葉 努さん、髙橋 伸治さん、水代 優さん
Tokyo Good Manners Projectとは
東京を舞台に新しいかたちのマナー向上プロジェクトの推進母体として、2016年9月に設立された一般社団法人。「世界一やさしい街・東京」の実現を目指し、「Bad」を正すのではなく、「Good」 マナーに焦点を当てる“TOKYO GOOD”のコンセプトを掲げ、自治体、企業、市民団体など幅広いパートナーと連携し、様々なアクションを展開している。
3.11防災アクションの取り組みについて教えてください。

水代さん:今年の3月11日で、東日本大震災からちょうど10年の節目を迎えました。その間、「自助」や「公助」は進んできましたが、私は災害対策には「共助」こそが必要だと思っています。3.11防災アクションでは「共助」をテーマにした3mの巨大新聞を展示することで、あらためて共助の大切さについて啓発したいと考えています。

3.11防災アクションの実施場所として日本橋浜町を選んだのはなぜですか。

水代さん:実は「共助」を実践できている街はまだほとんどないんです。そんな中、私が知る限りもっとも「共助」を実践している街が日本橋浜町だと感じています。だからこそ、「共助」を啓発する3.11防災アクションを実施するのにふさわしい街として日本橋浜町を選びました。

日本橋浜町はなぜ「共助」を実践できているのでしょうか。

髙橋さん:浜町は二度、大きな被害を受けた歴史を持っています。1つは関東大震災、もう1つは第二次世界大戦の東京大空襲です。都内でも被害の程度はまちまちだったのですが、特に浜町はひどいものでした。街の全域が被災し、焼け野原になりました。そうした中で浜町は皆で手を取り合い、「共助」を実践することでゼロから復興を遂げてきたのです。

水代さん:浜町は外から入ってきた人を受け入れてくれるところもすばらしいんですよ。私自身、ほんの5年前に外から来た人間ですが、街の方に親切にしていただいて、今こうして町内青年部の活動をさせてもらっています。

秋葉さん:浜町は、普段からまわりの方とお付き合いしている方が多いので、困った時に助けあえるのですよね。

結束力の強い地域ほど、ともすれば排他的になる可能性があります。しかし、浜町はそうではないのですね。

髙橋さん:浜町は昔から住んでいる人だけでなく、「今がんばっている人」が中心になれる街なんです。「今がんばっている人」が力を合わせてゼロから復興してきた歴史があるからこそ、そのような気質があるのかもしれません。

秋葉さん:私も浜町に勤めて長くなりますが、この街の特殊性は住人と昼間人口のバランスにあると感じています。浜町は住宅が多いのですが、オフィスビルも立ち並んでいて、働いている人もたくさんいます。両者がいて街が成り立っているので、昔から住んでいる人以外も受け入れる特徴があるのではないでしょうか。

今回のアクション以前から日本橋浜町では防災活動に力を入れてきたのでしょうか。

髙橋さん:防災活動には力を入れています。ただ、従来の防災計画には課題も多くあります。たとえばこれまでの防災計画は避難所運営が中心であり、避難せずに自力で地元に残ろうとした人に対しての支援は不十分でした。私どもはその点を解決する必要があると考えました。

そこで、浜町ではもし災害が起こった場合、町会ごとに共同炊事をやろうという約束をしています。というのも、災害で電気も途絶えてしまった場合、自分1人だけでは食事の用意もままならないからです。そんなときでも、皆で物資を融通し協力し合えば、1週間くらいは過ごせますからね。

まさに「共助」の精神ですね。今回、3mの巨大新聞を設置するほか、浜町エリア住民にも1000部配布されるそうですね。どんな狙いがあるのでしょう。

水代さん:一番は仲間を増やすためです。先ほどの話にもあったように、浜町は「今がんばっている人」を仲間として迎え入れるカルチャーを持っています。でも、そういうことを知らない人もまだたくさんいるんです。そういった方に浜町住民の方の想いを届けて、「共助」について考えてもらうきっかけになればと思っています。

今回、「共助の桜」には255名の共助の意思が書かれています。

水代さん:すごいですよね。これは、地元の皆さんに「こういうことをやるので書いてください」とお願いしてまわったんですよ。そうしたら10日ほどでこれだけの量のメッセージが集まりました。浜町の皆さんはごく自然に「共助」の精神を持っていて、それが当たり前だと思っています。でも、実はそれはすごいことなんです。私はそんな浜町の精神に感動しましたし、そんな浜町の良さが「共助の桜」を通して伝わるといいなと思いますね。

水代さん、髙橋さん、秋葉さん、お話ありがとうございました。

メッセージについて詳しくはコチラから

実際に『共助の桜』を見た方々の反応

3月11日。浜町に設置された「共助の桜」の前にはたくさんの人が集まり、書かれたメッセージを熱心に見つめる姿が印象的でした。

中央区立総合スポーツセンター

「共助の桜」をご覧になった方はどんな思いを抱いたのか伺いました。

「私たちは幼稚園からの同級生で、ずっと東京に住んでいます。気心の知れた仲だから『どうしてるかな』っていつでも声をかけあえるけれど、今はコロナもあって、なかなか近所の人にも声をかけづらい雰囲気ですよね。そんな中で、『共助の桜』はすごく良い取り組みだと思います。明るい色できれいだし、離れて見ると文字になっているのもよく考えられていて。お花見もしにくい時期だけど、華やかで良いですね」(60代・女性)

「『共助』は大事ですね。都会は隣に誰が住んでいるかわからないなんてことも珍しくないけれど、東日本大震災のような災害に備えて近所の人を大切にしていく必要があると思います。『共助の桜』はとても良い企画だと思いました」(60代・男性)

今回の「共助の桜」を含む防災アクションのキーマンであるTokyo Good Manners Projectの水代氏に、本プロジェクトが描く未来についてあらためて話を聞きました。

そもそもTokyo Good Manners Projectは、普段どのような活動をされているのでしょうか。

水代さん:Tokyo Good Manners Projectは2016年にマナー向上プロジェクトの推進母体として設立されました。東京を「世界一やさしい街」にすることを目指し、「Bad」を正すのではなく、「Good」マナーに焦点を当てて様々なアクションを展開してきました。

たとえば浜町マルシェと連携して、売れ残りの野菜を再活用するフードロス削減のための活動。戸越銀座商店街の協力のもと、食べ歩きマナーの啓発を行ったクリーンアップ活動。ほかにも駐輪マナー啓発や喫煙マナー啓発、市民大学と連携したセミナーの実施など、マナー向上による東京の魅力アップを目指す様々なアクションを実施しています。

フードロス削減施策「福ごはんプロジェクト」
「共助」の整備に力を入れているTokyo Good Manners Projectですが、今後の活動や展望について教えてください。

水代さん:今回の防災アクションもそうですが、他の街から取り入れたいと思ってもらえるような活動を今後も続けていきたいと思っています。施策としては特にフードロス問題には引き続き取り組んでいきたいですね。フードロスにはいろいろな根深い課題があり、一筋縄ではいきません。浜町のお店や企業、住民の方など、皆で協力しながらフードロス解決を実現していければと思います。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

水代さん:皆さんにはそれぞれの生活があって、特に属しているコミュニティがないという人も多いと思います。正直、地域のコミュニティに入っていくのってハードルが高いですよね。でも、意外とどの地域のコミュニティも仲間を求めているんですよ。だから、勇気を出して地域コミュニティに入ってみるといいと思います。そして、自分たちでできる範囲の「共助」を実践してほしいですね。

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3.11防災アクションとして新聞に描かれた桜には、一人一人の「共助の意思」が込められています。普段から協力し合って災害に備えることで、緊急時にもお互いを支え合う「共助」が自然と生まれてくるでしょう。

今後も街に「やさしさの循環」をつくる活動を行っていくというTokyo Good Manners Project。その活動から今後も目が離せません。

TGMPについて詳しくはコチラから

[PR]提供:Tokyo Good Manners Project