新型コロナウイルスの流行により、日本では4月7日に「緊急事態宣言」が発令された。それを受けて多くの企業がリモートワークの導入などに取り組んできたが、発令に先駆けた2月中旬、いち早く在宅勤務へと舵を切った企業が「ロイヤルカナン ジャポン」だ。同社は犬と猫の療法食とプレミアムペットフードを展開するフランス発の企業。栄養学に基づいて開発されたフードの数々は、ペットオーナーはもちろん、ブリーダーや獣医師からも大きな信頼を得ている。

コロナ禍によって日本のみならず世界中で混乱が巻き起こるなか、なぜロイヤルカナンは迅速に在宅勤務へと移行し、安定した流通を保てたのか。山本俊之社長に話を聞いた。

  • ロイヤルカナン ジャポン合同会社 社長 山本 俊之氏

  • 「ロイヤルカナン ジャポン」は、フランスのロイヤルカナン社の日本法人として1991年設立。栄養学に基づいた犬と猫の療法食とプレミアムペットフード「Royal Canin」と、愛犬の健康とアクティブな毎日をサポートするプレミアムペットフード「Eukanuba」の2つのブランドを展開している。「Royal Canin」では「すべては犬と猫のために(Dog & Cat First)」という考えのもと、品種・年齢・身体のサイズ・ライフスタイル・健康状態など、個々によって異なる栄養ニーズに応じて、200種以上ものフードを展開

3つの指針から生まれた、迅速な判断と対応

――新型コロナウイルスの流行を受け、御社ではいち早く在宅勤務制度を導入するなどしっかりとした対策を講じられたと伺いました。具体的にはいつ頃から、どのような対策を行ったのでしょうか。

日本では2月初旬のクルーズ船での感染拡大に続き、13日に国内初の死者が報道されました。その時に潮目が変わると思い、2月17日にはすぐに在宅勤務を推奨。2月25日からは、グループ会社であるマース ジャパンとどのような危機管理を行うべきかを話し合うチームを立ち上げました。

――今回のような危機管理に関するマニュアルなどはあったのでしょうか。

大きな括りでの危機管理マニュアルはありましたが、今回のような“感染症”を主題としたものはありませんでした。世界的な新型コロナウイルスの蔓延を受けて、より具体化しているというのが実情です。個人的な話になりますが、1995年の阪神大震災を中間管理職で、2011年の東日本大震災を社長という立場で経験したことから、「やりすぎだったね」と思えるくらい早いうちから取り組むべきだという考えが常に自分のなかにあります。なので、今回も躊躇なく決断できたといえるかもしれません。

――初動が早かったことのメリットを実感した場面はありましたか。

ロイヤルカナンが属するマースグループでは、大きく3つの優先事項が明確に提示されています。1つ目は「社員の健康と安全の確保」。2つ目は「社会全体の感染拡大防止に貢献する模範的な行動」。3つ目は「犬と猫の健康と顧客の利益のためのビジネスの継続」です。動き出しが早かったことで、その指針を確実に実現できたと感じています。

徹底した社員の安全確保や環境の整備

――在宅勤務制度はコロナ禍の前から導入されたとのことですが、どのような取り組みをされていたのでしょうか。

在宅勤務制度はもともと、働き方改革に取り組むなかで取り入れていました。ノートPCの支給など環境整備ができており、その下地があったことで今回の移行もスムーズに行えたかと思います。

――社員の安全確保や勤務環境の整備のため、そのほかに導入されたことを教えてください。

教育機関が休校になった時期でもあったので育児補助の対象を拡大し、そのほかにはペットに関する補助の拡大も行いました。また、机や椅子、Wi-Fi環境などがそろっている家ばかりではなかったので、それらを整えるサポートも実施。

家族がいるなかでの在宅勤務も、逆にひとりで在宅勤務を行うにもストレスを感じるでしょう。その悩みを軽減するためにメンタルケアの窓口を用意して、心配事や不平、不満など、どんなことでも気にせずに相談できるようにしました。今までは自分の都合で在宅勤務ができる状況でしたが、今回は在宅勤務を"しなければならない"状況です。不都合はできるだけなくすようサポートしました。

――オンラインでのやり取りについてはいかがでしょうか。

以前から主に海外とのオンライン会議をする機会があったので、多くの社員は経験がありました。ただ、大人数でのミーティングが毎日続くとなるとやはり勝手が違います。不慣れな社員もいたので、マニュアルやヒント集などのレクチャーをオンライン上で随時提供し、できるだけ快適に、そして生産性が維持できるように努めました。

――オンラインでのやり取りになったことで、社内コミュニケーションが不足してしまうというケースもあると聞きます。御社ではどのように対策されましたか?

部門ごとのコミュニケーションは取れていましたが、会社全体の状況を把握してもらうため全社員を集めたミーティングをオンラインで2週に1回ほど実施しています。ミーティング後はすぐにアンケートを取り、内容が満足だったか、どうすればもっと良くなるかなど意見をもらって、次の会議に反映させるというのを繰り返しています。最近ではほぼ100%の社員から、内容に満足しているので続けてほしいというフィードバックをもらっています。

――会社として情報を提供するだけでなく、社員からのフィードバックを活かして、社内をひとつにしていらっしゃるのですね。

全社員でのミーティング、フィードバックの活用といったこれまでの下地があったおかげで、在宅勤務になっても自然に受け止めてもらえたのではないかと思います。

「シンポジウムをオンライン化」、止めざるを得ないビジネスの転換

――実際のところ、今回のコロナ禍によって流通などへの影響はありましたか。

  • 犬・猫種、年齢、身体のサイズ、ライフスタイル、健康状態など、個々の状態に応じた200種以上のフードを提供。ペットショップや動物病院、公式通販サイト「マイロイヤルカナン」などで販売を行っている

先ほどお話した3つの方針のなかに、「犬と猫の健康と顧客の利益のためのビジネスの継続」があります。犬や猫にフードを届け続けるには工場での製造業務を止めることはできません。社員が建物に入るときには検温、消毒などの感染防止の手立てを徹底したうえで勤務に当たってもらいました。また、半数以上は公共交通機関を使わずに出社できるようにしています。公共交通機関がどうしても必要な社員には、マスクの提供などできる限りの対策を講じました。これらは日本だけでなく、世界にある16の工場すべてで実施。そのためフランス本社も含めて生産量を落とすことなく製造を続け、流通させることができました。

――一方で対面での営業など、止めざるを得ない業務もあったかと思います。

商品をお届けする過程においては、中間流通の方、またその先の動物病院やペットショップなどがあります。このような状況でも業務を続けている方々がいるなかで、我々が活動を狭め、場合によっては止めてしまうことは心苦しい限りでした。ただ「感染拡大防止に貢献する行動をする」という指針に従い、自分たちが感染源となってしまわないようやむなく活動を控えさせていただきました。

そうしたなか、獣医療関係者を対象に予定していた大きなシンポジウムも対面での実施が困難なためオンラインにて開催。結果として、一回につき数百名の獣医師の方たちが参加され、最終的に2,000名近い獣医師の皆さんに情報を提供することができました。

――この状況下で何ができるか、速やかに動いたことが実現に繋がったのですね。その他にも在宅勤務では難しい業務はあったのでしょうか。

出社が必要な業務のひとつに、コールセンターがありました。当初は衛生管理を徹底し、受付時間を短縮するほか時差出勤などで対応をしてもらいましたが、緊急事態宣言後は在宅勤務を徹底しなければならないと考え、2週間程度、電話応対を取りやめメールのみで対応しました。もともと、2020年のオリンピックに向けて在宅で電話応対ができるシステムを採用予定だったので、それを急遽前倒しで導入。4月末からは、在宅での電話応対を実現しています。

「デジタル」と「リアル」がもたらす今後の影響

――今回のコロナ禍が、今後のビジネスにおいてひとつの転換点になるのではないかと思います。今後の展望についてお聞かせください。

今回のことが、最もインパクトを与えたのは“つながり”だと思います。“つながり”を2つの領域に分けて考えると、ひとつは「デジタル」、もうひとつは「リアル」です。オンライン会議などが当たり前になり、デジタル化は間違いなく2~3年早まったと思います。例えば製品に関するセミナーも、オンラインにすることで、これまで参加できなかった方々にも提供できるようになります。また、ネット購買がさらに進んだことで、実店舗・病院の皆さまに我々が新たなサポートを提供できる機会が生まれると考えています。

――“つながり”のもう一面、「リアル」についてはどのようにお考えですか。

デジタル化が加速したことで、リアルの価値が見直されると思います。「やっぱりリアルっていいよね」といった具合に、リアルに付加価値が生まれてくる。このコロナ禍のなか、リアルのふれあいを求め犬や猫を新しく家に迎えた方が多くいらっしゃったのもその表れでしょう。

我々にとっては、動物病院、ペットショップ、ブリーダーの皆さまに対してどのようなリアルの付加価値を提供していくのか。今までもそこに強みはありましたが、コロナ禍を経てより強みを増すことができると思っています。大変な状況ではありますが、私たちのビジネスを支えてくださっている皆さまが今後も事業を継続していけるようにサポートしていく。そのことで、我々のビジネスの機会も大きくなっていくと考えます。

ロイヤルカナン ジャポン社長・山本氏が描くビジョン

――最後に、ロイヤルカナン ジャポンが今後どのようにビジネスに取り組んでいくかお聞かせください。

コロナ禍を経験し「前に戻りたい」と願う企業と、どうしていいかわからず「立ちすくむ」企業、この状況を的確に捉えて活かしビジネスや組織を「強くする」企業に分かれると思います。我々はやはり3番目のグループに属するような企業でありたい。そして我々だけでなく、獣医師、ペットショップ、ブリーダー、といったパートナーの皆さまと共に、変わっていければと考えています。もちろん、そうした変化のなかでも、まったく揺るがずに変わらないものはやはり「Dog & Cat First」。犬と猫を第一に考え、真の健康な状態にすることです。将来に向けて何を変え、何を変えないか――たくさんの可能性があって楽しみです。

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新型コロナウイルスによって引き起こされた危機により、ビジネスシーンにも大きな変革が求められている。未曽有の事態にネガティブになるのではなく、いかにポジティブな未来を描けるか。それはビジネスにおける確固たるポリシーがあってこそ、できることではないだろうか。

  • 今回お話を伺ったロイヤルカナン ジャポン合同会社 社長 山本 俊之氏。神戸大学経済学部を卒業後、P&G、ウォルト・ディズニー・ジャパン、日本コカ・コーラにおいて、マーケティングを中心に、セールス、サプライチェーン、財務を含めた数々のブランド経営に携わる。2008年にロイヤルカナン ジャポンの社長に就任

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