国際的な競技大会でのメダル種目に認定されるなど、世界中で盛り上がりを見せるeスポーツ。日本でも茨城国体の文化プログラムにeスポーツがはじめて選定されたり、プロeスポーツチームを持つ企業が出てきたりと機運が高まっている。
そうしたなかで今年、大きな注目を集めたのが、NTT東日本によるeスポーツ事業参入だ。これまでゲームとは無縁と思われていた同社が3月より事業参入し、さらに6月には社内公募でeスポーツの公式チームも結成しており、しかもその規模は全国総勢100名以上である。それほどまでに熱い想いを込めた取り組みに驚きを覚えた人も多いだろう。なぜNTT東日本はeスポーツへの参入を決めたのか。また、eスポーツ市場を盛り上げることで何を成していこうとしているのか。
NTT東日本のeスポーツの取り組みにおけるキーマンであり、eスポーツ業界でも著名な同社経営企画部営業戦略推進室・担当課長の影澤潤一氏に話を伺った。
「実はプレイヤーということは隠していたんです」
――NTT東日本がeスポーツに参入と聞いて驚いた人も多かったと思います。なぜ参入することになったのか、まずはその経緯から教えてください。
影澤:参入の大きな理由は弊社がミッションとして掲げている「地域活性化」です。eスポーツのプロジェクトチームを設立したのは昨年11月頃ですが、それ以前から「eスポーツで地域活性化できないか」というご相談を地方のお客さまから受けていました。相談といっても当時はあくまで雑談ベースで、各地域の支店メンバーがお話を伺っていたのですが、そうした話が幹部の耳にも入り、NTT東日本として本格的にできることはないかという話になりました。
――そこで白羽の矢が立ったのが影澤さんだったと。
影澤:はい(笑) 実は私はかなり昔から格闘ゲームのプレイヤーとして活動しているんです。正直、趣味のレベルを超えていたと思います。
――趣味レベルどころか、実況やイベントを主催するほど力を入れているじゃないですか!
影澤:そうですね(笑) ただ、自分は趣味を仕事にはしたくなかったので、就職もゲーム業界ではなくNTT東日本に入社しました。趣味のゲームのことは会社でも内緒にしていて……。ところが以前、ストリートファイターのプロプレイヤーとして有名なウメハラ選手が主催したプロライセンスに関する座談会に呼ばれて参加したところ、職場の同僚が配信を見ていたため、会社でも周知の事実となってしまいました。
――なるほど。そのタイミングでeスポーツの話があれば、それはもう誰が考えても影澤さんが適任ですよね。
影澤:もうこうなったら腹をくくるしかないですよね(笑)そこから、さまざまなスキルや経歴をもつメンバーを集め、組織横断的に集うことでプロジェクトを発足、そして今に至ります。
若者 × eスポーツ × 地域活性の可能性
――地方のお客さまから地域活性化の相談があったとのことですが、具体的にはどういった内容だったのでしょう。
影澤:「eスポーツというものが流行っているらしいから、それを活用して地域の活性化をできないか」というものです。具体的な話が動いていることは少なく、「eスポーツとは」といったイチからのご相談であることが多いですね。特に今年2月の地域創生EXPOで講演させていただいたあとは、かなり多くのお話をいただくようになりました。
――自治体はどういった狙いでeスポーツに着目されているのでしょうか。
影澤:一番多いのは若者の地元離れで、どの地域でも課題になっています。若者に定着してもらうためには、地元に愛着を持ってもらう必要があります。その役目としてお祭りがあったわけですが、新しい形のひとつとして、eスポーツを通じ、地元に愛着を持ってほしいという思いがあるようです。
――いわば新しい"祭り"ということですね。
影澤:そうですね。ただ、地域活性化の手段は必ずしもeスポーツである必要はないと思っています。地域活性化という目的に対し、弊社の強みは、これまでに長年培ってきた地域における取り組みと、さまざまな切り口での課題解決の実績があることです。eスポーツは一手段であって、何かしら別のアプローチで地域活性化に貢献できると思っています。たとえば祭事であれば、混雑状況や天気のリアルタイム把握といった、ソリューションパッケージなども提案しています。
――NTT東日本としてはどのような形でeスポーツに取り組まれていくのでしょうか。
影澤:先ほど申し上げたように、まずは地域の祭りの一コンテンツとして大会や、イベントの実施や使われなくなっている施設の利活用の提案をしています。さらに、今後は人材プロデュースや企業対抗戦など事業の幅を広げていくことを考えています。
その上で、次はeスポーツで地域同士をつなげていくことを考えています。弊社の強みを発揮できるのはその段階からです。やはり、点と点を線で「つなげて」その線を未来に「つなげて」いくことが重要だと考えています。
――通信技術を生かせるということですね。
影澤:はい。3月にはトライアルとして、「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」のグランドファイナルの試合を”NTT東日本青葉通ビル(宮城県仙台市)”と秋葉原本会場である”アキバ・スクエア(東京都千代田区)”をつないで中継する試みを行いました。
こうした中継技術だけでなく、競技はもちろん、会場自体(局舎など)や使用するネットワークなどのインフラ面でも貢献できると考えています。
eスポーツの良いところは、ホーム・アンド・アウェーではなく、ホーム・アンド・ホームで対戦できることです。パブリックビューイングなどで会場をつなぎ、地元の応援を会場の選手にフィードバックするなど、NTT東日本ならではの高い通信品質で新しい観戦スタイルをつくっていければと思います。
ポップカルチャーを応援するための"愛"
――インフラ面で支えるだけでなく、社内にeスポーツチーム「テラホーンズ」も作られました。結成の狙いは何でしょう。
影澤:一つには社内のインナーモチベーションを高めることがあります。若い社員の中にはゲームに熱中している者も多いんですよね。だから、社内で”仕事としてプレイできること”が業務のメリハリにもなって、働くこと自体のモチベーションにもつなげて欲しいと考えてます。弊社は社員数も多く、探してみるとゲームを趣味としているプレイヤーがいるんですよ。いろいろな部署から人が集まることで、社内活性化にもつながると期待しています。
もう一つの目的は、自治体と一緒にeスポーツシーンをつくっていく上で、インフラ面でのサポートだけでなく、一緒に楽しみ、コミュニティを作っていく姿勢が大事だからです。もちろん、事業とのシナジーも狙っています。私自身、こうしたシーンを作っていく中で、後輩やチームの仲間が喜んでいる姿を見たいという思いが強くなっています。
それは主催する自治体にもいえることです。ポップカルチャーを応援していく上で重要なことは"愛"です。やっつけでやろうとすると、ファンには必ず見抜かれます。利用しよう、乗っかろうとするのではなく、情熱と理解をもってファンと一緒に真剣にコミュニティを育てていくことが大事ですね。
地域と地域、人と人をつなぎめざすもの
――課題はありますか。
影澤:おかげさまで取り組みが認知されてきて、たくさんのお話をいただいています。そのご要望に応えていくには、手が足りていないのが課題です。社内外問わず、パートナーを増やしていく必要があると考えています。
また、今後は"eスポーツに取り組んでいくストーリー"が必要になるでしょう。なぜ、その場所でeスポーツをするのか、その理由がなければ文化として地域に根づきません。人や企業などにフォーカスした物語が必要です。
――今後の展望について教えてください。
影澤:私たちは通信技術を武器にそれらをつなぎ、eスポーツを日本が誇るカルチャーにしていくことをめざしています。そのためにもゲームメーカーや自治体、企業などと一緒になってシーンを牽引していきたいと思っています。
私たちは通信技術を武器にそれらをつなぎ、eスポーツを日本が誇るカルチャーにしていくことをめざしています。
――本日はありがとうございました。
NTT東日本が持つICT技術によって、eスポーツシーンをインフラ部分から支えていくことに加え、影澤氏のプレイヤーとしての経験やeスポーツへの情熱が存分にプロジェクトに活かされていた。固いイメージがある会社だったが、実は個人のバックボーンやスキルを事業に昇華させる土台や文化があることもわかった。NTT東日本が地域と一緒に"eスポーツというひとつの文化やコミュニティ"を日本各地で作り上げていくことに今後も注目したい。
また、eスポーツ以外にも非通信分野である農業、教育、文化などさまざまな領域の課題を地域や企業の方々と一緒にICTを使って解決していく取り組みを行っている。詳しい内容や事例、相談に関しては公式サイトをぜひ確認して欲しい。
[PR]提供:NTT東日本