育成すべき消費者は、自身の判断を持ち、人との約束を守り、真面目に生活を送る人
野口:そのような中、若年者に対する消費者教育の重要性についてはどのようにお考えですか。また先生自身が消費者教育、金銭教育を行うにあたり、工夫していることがあればお聞かせください。
市川:先ほど話しましたように、学生達はスマートフォン等を利用して多くの情報を得ていますが、それらの情報は整理されたものではありません。それらの情報をきちんと整理するという意味からも消費者教育は重要です。
大学生や若年者の生活環境はこれから大きく変わる可能性があります。大学では、FinTechやAI、キャッシュレス決済といった制度的な仕組みや関連する法律を教えて、知識と判断力をもって環境変化に対応できる人材を育てていくこととしており、環境変化に対応できる知識や判断力をつけるようにリードすることに取り組んでいます。
ただし、最近は教えておきたいものが高度化していて現場は大変です。ビットコインやブロックチェーン、それらも含めたFinTech、さらにはAIの使える領域、といった話は、教えているこちらよりも時には学生の方が詳しいかもしれません。新しい技術的な要素や決済方法、取引のシステムが変わって、それらを教えていくことは必要なことですが、それ以上に人としての根本的な在り方をくり返し学生に説いて聞かせることが大切だと思います。
学生の理解を得るにも多少の工夫が必要で、例えばFinTechについては、奥穂高の山小屋を例に、従来、宿泊代のほか自動販売機の硬貨など、重くかさばる現金を降ろすことに大変な労力を使っていましたが、今ではスクエアを利用したクレジットカード決済ができるので、山小屋のご主人は大助かりというような話をしたりもしています。
消費者教育で育成すべき消費者とは、自身の判断力をもち、人との約束を守り、真面目に生活を送る人です。大学における消費者教育や金融教育とは、お金の力、その危険性、その賢い使い方を各自が知ること、考える人を育てることで、経済や金融の仕組みをずる賢しく使い、抜け目なく利にさとい人を育てることではないと思っています。
私は「金融論」「銀行論」「金融政策」「国際金融」といった科目を担当していますが、日頃、学生には、「お金は水とよく似ている」と言っています。お金はダムの水に例えられます。水は大切なものですが、蓄えすぎるとあふれて洪水を起こす。お金の場合はインフレを起こすことになる。お金がないと困りますが、個人にしても同じことで、お金を蓄えるのは結構なことですが、蓄えることを目的にしすぎると人生の道を誤らせます。昔、三遊亭金馬という落語家が、はなしのまくらでよく言っていたのは「欲深き人の心と降る雪は積もるにつけて道を失う」というものです。