脚本仕事はもっぱらホラーが多い僕。根がビビリなのでこのジャンルが取り組みやすいのは事実なんですが、ホラー以外に食指が動くこともあるワケで、実は自分で脚色してみたかった作品が、今月まずご紹介する『幸福な食卓』なんです。

自分の手で脚色してみたかった『幸福な食卓』

原作は瀬尾まいこの第26回吉川英治新人賞受賞小説。ある朝、父が「お父さんは、今日でお父さんを辞める」とものすごいことを宣言するところから物語は始まります。母はすでに家を出てしまっており、学業優秀だった兄はドロップアウト。そんな大事件が連発しているにも関わらず、物語は妹の視点で淡々と進みます。これ、適度な笑いを基調に描けば、"家庭内冒険モノ"みたいな新しい映画が出来るかも……。そう思い知り合いのプロデューサーに提案してみたところ、呆気なく「それ、もう映画化始まってます」。ガーン。しばらくして長谷川康夫脚本、小松隆志監督、北乃きい主演で完成していたのが、この『幸福な食卓』でした。偉そうに言わせてもらえば原作の味わいをうまく再現した良作。好みとしては、後半がしんみりし過ぎだけど、リビングにある四角い食卓(と、その上にのる皿の数)で、四人家族の"現在"を見せる演出など、映画として良かったなあ。

幸福な食卓 プレミアム・エディション
ジェネオンエンタテインメント
6月22日発売 4,935円

リメイク手法が秀逸な『ディパーテッド』

脚色に技を感じたのは、香港映画『インファナル・アフェア/終極無間』(2002)をリメイクし、今年のアカデミー賞作品賞を獲得した『ディパーテッド』です。『インファナル~』は物語設定が秀逸でした。映画の前半でついた嘘が、後半でバレる、というのは物語の大きなお約束ですよね。だから、潜入捜査モノは始まりから強い緊張感を生み出すことが出来る。『インファナル~』にはそのうえ、警官がマフィアに潜入する一方で、マフィアも警察に潜入している、という潜入のダブルヘッダーというアイディアがありました。これは鉄板。『ディパーテッド』がうまかったのは、この設定を単に香港からアメリカに移しただけではなかったこと。技を感じたのは、舞台をボストンにした点です。ボストンは知る人ぞ知る、1970~1990年代にジェイムズ"ホワイティー"バルガーなる、FBIとも内通していたアイルランド・マフィアが根付いていた場所。香港映画のプロットがうまく馴染む土地を見つけたのには感心させられます。

ネタバレになるので、あまりくわしくは書けませんが、オチの付け方にもオリジナルとは違ったアメリカ映画的なモラルを感じます。そこは往年のワーナー・ブラザースのギャング映画『白熱』(1949)あたりの引用かな(『白熱』にも潜入捜査官登場してマス)。『ディパーテッド』もワーナー・ブラザース作品。香港映画のリメイクながら、伝統に連なる作品に仕上げるとはなかなか出来ることじゃない。作品賞や脚色賞、マーティン・スコセッシの監督賞受賞の背景には、伝統への敬意をみせたことへの評価もあるのかも。

ディパーテッド 特別版
ワーナー・ホーム・ビデオ
6月8日発売 4,200円(期間限定版2,980円)

『ドリームガールズ』はカタルシス確約!

『ディパーテッド』に破れ作品賞は逃しましたが、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化『ドリームガールズ』は大必見作デス。舞台は1962年、出てくるのは抜群の歌唱力を誇るエフィをメインにしたコーラスガール3人組。ところがボーカルを華やかでスター性のあるディーナに代えてのレコードデビューが決まり……。という物語は、明らかにモータウン・レコード、明らかにダイアナ・ロスとザ・シュープリームスがモデルとわかり、アメリカ音楽史の一面を見る楽しみがたっぷり。しかも迫力のショー場面と一緒に。加えて最大の強みは、物語の大きな幹がエフィの挫折→復活という、まったくもって王道のドラマになっていることでしょう。そのエモーションを圧倒的な存在感の新人ジェニファー・ハドソン(アカデミー助演女優賞受賞!)が歌いあげてくれるので、これはもう誰が見てもカタルシスを感じるハズ。一方で、ディーナを演じるのはビヨンセ・ノウルズ。"成功の階段を駆け上がるスター歌手"という難役(映画の中でそんなことをやってもフツー説得力ないでしょ)を成立させていて、こちらも上手かった!

ドリームガールズ スペシャル・コレクターズ・エディション
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
6月22日発売 4,179円

予備知識ナシで見てほしい『ラッキーナンバー7』

面白さを文章で説明した途端に、その面白さがすり抜けてしまいそうな紹介の難しいサスペンスを洋邦から1本ずつ。『ラッキーナンバー7』は実はオススメしたくない1本。出来れば「お昼の洋画劇場で期待もせず見始めたのにサイコーに面白かった」みたいな出会い方をして欲しかったんです。だから紹介は最小限にとどめておきます。ジョシュ・ハートネット演じる、仕事ナシ、住むとこナシの男が勘違いでマフィアの借金とりに追われ……。こんな地味な犯罪モノの脇役になぜブルース・ウィリスやルーシー・リューといったスターが顔を出しているのか。見ればわかります。

ラッキーナンバー7 DTSコレクターズ・エディション
ハピネット
6月22日発売 3,990円

フツーじゃない探偵モノ『悪夢探偵』

塚本晋也監督作『悪夢探偵』は、人の悪夢に入り込み、その根源を探る特殊能力を持つ男の物語。"依頼→解決"という直線的な物語にならざるを得ない"探偵モノ"スタイルでありながら、探偵が妙に消極的だったり、現実と夢が曖昧になったり、むしろ、そこからの逸脱が繰り返されるのが、この作品の面白さ。ラストには果たして"探偵モノ"として着地できるのか。その引き裂かれた感じこそスリリング……、なんて見方はスレてるかな? フツーの映画に飽きちゃった人にオススメします。

悪夢探偵 プレミアム・エディション
ハピネット
6月22日発売 5,985円(スタンダード・エディション3,990円)

新田隆男

映画ライター、脚本家。深夜のホラー番組『エコエコアザラク』でデビュー以来、映画『うずまき』、TV『ほんとにあった怖い話』『怪奇大家族』など、脚本家として関わる作品のほとんどはホラーもの。映画ファンとして王道の娯楽映画を求めながら、実作者としては三幕のオーソドックスな構成に疑問を持ち、日々新しい語りを模索中。「週刊SPA!」(扶桑社でもコラム連載中。