2009年、東京モーターショーのホンダブースで静かだが大きな注目を集めていたのが、今回正式発表されたカセットガス式発電機「エネポ」だ。

ついにカセットガス発電機が発売された。価格は10万4790円だからかなりリーズナブルだ

モーターショーに展示されたプロトタイプとデザインはほとんど変わらない。ボディに表示された1-2-3という番号順に操作するだけで始動できる。ガソリンエンジンのようにチョークレバーを操作する必要もない

コンセントや表示灯などはボディを正面から見て右側面に付けられている

ホンダは家庭用のカセットコンロなどに使うLPG(液化石油ガス)カセットボンベを使った製品を積極的に開発している。その第一弾の製品でメガヒットを飛ばしたのがガスパワー耕うん機の「ピアンタ FV200」だ。2009年3月に発売したピアンタは、発売後1年弱でなんと累計販売台数1万台を達成。小型耕うん機としては異例の販売台数だ。ピアンタがヒットした背景には家庭菜園やガーデニングがブームになっていることもあるが、ガソリンを使わず手軽に使える耕うん機というのがポイント。

従来からガソリンエンジン式は多くの機種が存在したが、ガソリンは専用の携行缶に入れて持ち運ぶことが必要で、セルフ式のガソリンスタンドでも自分で給油することも禁止されている。また、長期の保管にはガソリンを抜き取る必要があり、保管場所にガソリン臭が漂うことも多かった。

そこでホンダはピアンタに続く、カセットガス式発電機エネポの発売を決定。3月25日の発表後、5月13日から発売される。価格は10万4790円。同クラスのガソリン式発電機のEU9iは13万4400円だから、かなりリーズナブルといえる。

従来こうした汎用機はホンダの汎用製品取扱店や農機特約店、特約ホームセンターで販売されることが多かったが、エネポはなんと二輪正規取扱店とディーラーであるホンダカーズ店約2200拠点でも販売されるという。大ヒットのハイブリッドスポーツのCR-Zといっしょに、エネポを購入するということが可能なわけだ。もちろんエネポの部品や修理の受け付けもしてくれるというから、手軽に購入できるだけではなくメンテナンスの面でもかなりハードルが低くなったといえるだろう。

エコスロットルのスイッチや並列運転の端子も側面に付けられている。コンセントはEU9iの後期型とは違い、脱落防止タイプではない

このスリットからエンジン冷却用の空気をボディ内に取り入れている

上部のカバーにはロック機構などは付かず、バネで押さえているだけだ。稼働中にカバーを開けてもエンジン停止はしない

ハンディタイプのガスパワー発電機のエネポ(ENEPO)のネーミングの由来は、Energy(エネルギー)とPortable(携帯用)とEpoch(新時代)を掛け合わせた造語。発電機の新時代を切り開く、持ち運べるエネルギーを意味しているという。型番はエネポ EU9iGB。大ヒットしたガソリン式ポータブルインバーター発電機、EU9iとよく似た型番だが最後のGBはGがガス、Bがブタンを示している。LPGカセットガスの成分がブタンで、これを使う定格出力900VA級のインバーター発電機というわけだ。

こうした型番からも推測できるようにエネポの心臓部はEU9iと共通。カセットガスを使った燃料系統と四角い縦長のボディデザインがエネポの特徴だ。縦型にデザインすることで収納性を高め、移動用の大型キャスターホイールと折りたたみハンドルで、キャリーバッグのように楽に引いて移動することができる。ポータブル発電機のEU9iは軽量化を重視していたため13kgという重量を実現していたが、エネポはさすがにサイズが大きく、折りたたみハンドルなども装備しているため乾燥重量は19.5kgと重くなっている。事前説明会で女性が片手で持ち上げてみたが、なんとか持ちあがる程度という感じで、持ちあげたまま歩くことは難しそうだった。エネポの移動の基本は引っ張ることなので、その点はEU9iよりかなり楽だといえる。

ここにカセットガスを2本装てんできる。逆流防止弁が装備されているので1本だけの装てんも可能だ。中央部の白いレバーを押し下げてボンベを固定する

排気音はガスエンジンらしくやや乾いた感じで、EU9よりやや静かな運転音だ

前面のメンテナンスカバーを外した状態。EU9iとよく似ていることがわかるはずだ。オイル注入口の上のHONDAと文字が書かれた黒い部分はオイルキャッチタンク

発表まで明らかにされていなかったのが装てんできるカセットガスの本数。上部のカバーを開けるとボンベが2本装てんされていた。カセットボンベは1本当たり250gのブタンガスが入っているので、合計500gのガスで駆動することができるわけだ。燃料を節約するエコスロットルを作動させた最大稼働時間は約2.2時間。ガソリンのEU9iは最大8.7時間稼働できるから4分の1程度ということになる。ずいぶん短く感じるがこれはガスの容量が限られているから仕方がない。だがいい方法もある。裏技だがカセットガスは稼働中に交換できるのだ。ラインにガスが残った状態で手早くカセットを交換すれば連続運転が可能。ガソリンはエンジンを稼働させたまま途中給油すると最悪の場合、ガソリンに引火して火災になる危険があるが、カセットガスは比較的安全なので正しくセットできれば稼働中でもボンベの交換ができる。上部のカバーを開けてカセットボンベを取り出しても、エンジンをカットする機構などは付けられていない。

だがカセットガスを燃料に使うエンジンらしい安全機構が付けられている。それは転倒時のエンジン停止。ガソリン式のEU9iは倒れるとキャブレターの油面が変化して、燃料を正常に供給できなくなり自然に停止する。だがガスを使うエネポは転倒しても燃料が気体だから自然停止しないのだ。そのためジェネレーターに加速度センサーを組み込んで転倒を検知して停止させ機構が組み込まれている。

ユニークなのは移動時の積載方法。縦型のデザインのため立てたまま移動すると転倒などの不安が残るため、移動時は横倒しに出来るという。水平までならエンジンオイルがピストリングをすり抜けて、燃焼室に入り込むことはないという。ただし上側が下がるような角度で積載すると燃焼室にオイルが入り込むことがあるので、エンジン始動時に白煙が上がる可能性があるから注意が必要らしい。

過負荷表示灯などはフロントパネルの上部にレイアウトされている。EU9iとメカを共用しているため、同機と同様に約4秒間は過負荷に耐えることができる

エンジンオイル交換時にオーバーフローしても、オイルがボディ内に入らないようになっている

カセットボンベの装てん部分がこれ。ボンベの凹部を下側にすることで液体のまま燃料を取り出している

カセットボンベの扱いに慣れている人ならガスボンベのフリージングが気になるはず。カセットコンロなどを使うと、ボンベがしだいに冷えるのを体験した人も多いと思う。液化ガスが気化するときに熱が奪われ、そのままでは気化しにくくなってしまう。そのため現在販売されているカセットコンロは、バーナーの熱をカセットガスに伝えるためのヒートプレートを使っている。ボンベを温めてやることで安定したガス供給が可能になっているのだ。エネポもそうした手法をとっていると思っていたが、じつはボンベ自体をヒートさせる機構は装備していない。その理由はボンベからガスを取り出すのではなく、液化状態のまま取り出してレギュレーター(調圧装置)手前のベーパライザー(気化器)で気化させる。そのためボンベ自体が冷えるということはないのだ。カセットボンベの装てんは、ボンベ上部の凹部が下になるようにセットするのは液体のまま取り出すためなのだ。逆にカセットコンロはガスを取り出すので、凹部を上向きでセットするという違いがある。

だが今度はベーパライザーがフリージングして気化しづらくなる可能性があるが、ここにエンジンの排気熱を誘導してヒートさせている。始動直後でもすぐに排気温度は100度以上を確保できるのでフリージングの心配はない。とはいうもののエネポの使用温度範囲は5℃から40℃。ガソリンエンジンは気温がマイナス時でも稼働できるが、やはりガスを使うためにそれは難しいようだ。

エネポのガスエンジンや燃料供給部品は、ガスパワー耕うん機のピアンタのパーツを流用しているが、まったく違うのがカセットガスを2本使うという点。そのためガス供給ラインには逆流防止弁が付けられている。ボンベ間に圧力差があると当然だが圧力の高い方から低い方に流れ込んでしまう。逆流してボンベに異常充てんが起こると、そのボンベを取り外して温めるなどすると破裂するなどの危険がある。万が一の事態を防止するため逆流防止弁を装備しているのだ。また、この弁機構があることでカセットボンベの片方が空でももう一本に燃料が残っていれば稼働できる。通常カセットボンベはホームセンターやコンビニなどで3本セットで売っているが、エネポに装てんできるのは2本だけ。1本余ってしまうが空になったボンベと1本だけとり替えても使えるようになっているわけだ。

逆流防止弁が付いているので、2本のボンベの残量が違っていてもまったく問題なく使うことができる

ホンダの熊本製作所で生産、製造を行っている

騒音のカタログスペックは、エコスロットルオンの3/4負荷で81dB/Lwa、1/4負荷から定格負荷は79~84dB/Lwa

キャンピングカーのルーフエアコンにエネポを使うのには900VAでは小さく、電動工具などを使うユーザーも不安が残るという人がいるだろう。だが、エネポはEU9iと同様に並列運転の機能を備えている。さらにうれしいことにジェネレーターやインバーターなどのパーツを共用しているため、エネポとEU9iの並列運転が可能になっているのだ。これなら合計1800VAもの電力を取り出せるのでルーフエアコンの駆動も可能になる。EU9iでは力不足なので1600VAのEU16iに買い替えを検討していた人の中には、このエネポを買いたして並列運転させるユーザーもいるだろう。大型の発電機はとても重いがエネポなら移動もキャスターでラクラクダから、キャンプサイトでの使用に適している。また、非常用電源として利用したいユーザーにもエネポは最適だ。ガソリン発電機はガソリンの劣化が起こるため備蓄しているガソリンを定期的に交換しなくてはならない。ホンダもガソリン発電機のガソリンは30日程度で交換することを推奨しているが、カセットガスボンベならそうした心配はないのだ。ボンベもホームセンターなどの特売品ならば3本で300円を切ることもあるから、安いときに買いだめすることもできる。それにクルマで運ぶ場合もガソリン発電機はガソリン臭いが、エネポならニオイの問題もない。エネポは連続稼働時間が短いもののメンテナンスの手軽さや移動が楽なため、EU9iに代わる人気発電機になるはずだ。

カセットガスを使った第3弾の製品の発売も決定した。それはボートなどに搭載するガスパワー船外機だ。船舶免許を必要としないクラスの出力のため、これも多くのユーザーの注目を集めるはずだ。

このロックを外すと折りたたみハンドルを持ち上げられる

燃料がガスでもエンジンなので一酸化炭素中毒に注意が必要。室内で使うのはとても危険だ。ちなみに二酸化炭素の発生はEU9iと比べると約10%少なくなるという

GBはGがガス、Bはガスの主成分のブタンを表している

並列運転にも対応し、2台で1800VAまで取り出せるが、コンセント一か所の容量は家庭と同じく1500Wとなっている

トースターと電気ストーブを同時に使用しても運転音は結構静かだ

キャンプシーンでも手軽に使える発電機だ。もちろん正弦波なのでコンピューターなどにも使うことができる

大きなキャスターとハンドルのおかげで、移動は女性でもラクラクだ

乾燥重量が19.5kgだから作動状態だと20kgをオーバーするはず。女性でもなんとか片手で持ちあげられるが、このまま移動することは難しい

このピアンタの成功があったからエネポに続く、第三弾のガスパワー商品である船舶用の小型船外機の発売が決定した