最近、有楽町など都心にある百貨店や家電量販店に行くと、「銀聯」と書かれたロゴマークを見かけることがよくある。これは、「銀聯(ぎんれん)カード」でお買いものができますよ、という意味だ。

「銀聯」と書かれたロゴマーク

銀聯カードとは、中国で発行されている電子マネーの一種。2002年に中国の中央銀行である中国人民銀行が中心となり、政府主導で中国における銀行間決済ネットワーク運営会社が設立された。この運営会社が中国銀聯で、中国国内でカードを発行している銀行はすべて中国銀聯に加入している。つまり、中国銀聯に加入している中国の銀行が発行しているカードが、銀聯カードというわけだ。

今、この銀聯カードの発行が爆発的に増えてきている。また、日本国内でも、銀聯カードを使って決済できる加盟店舗が増えてきた。デパートや家電量販店で見られる「銀聯」の文字は、まさにこのカードを使うことができることを意味している。

さて、カードといっても実にさまざまなものがある。今は随分と目にする機会が減ってしまったが、かつて一世を風靡したテレホンカードはプリペイド型のカード。このほか、多くの方が恐らく使ったことがあるであろうクレジットカード、銀行のATMで現金を引き出すのと同時に、もろもろの決済に使うことができるキャッシュカード(デビッド機能付き)などなど。銀聯カードは、最後のキャッシュカードで、デビッド機能がついたデビッドカードである。暗性番号を入力し、サインをすると、中国の銀行口座から買い物などに使ったお金が引き落とされる。

現在、銀聯カードは、中国国内の金融機関を中心として190社以上の会社が参加し、中国国内で約15億枚が発行されている。また日本においては、三井住友カードが中国銀聯と提携して、銀聯カードで決済できる加盟店を募ってきた。その加盟店の数も、当初200店からスタートし、2008年3月時点では約1万店にもなった。

今や銀聯カードは、海外諸国に行く中国国民のほとんどが保有しているとされる。ここまで普及した一番の理由は、現金の国外持ち出しが制限されているからだ。ちなみに5,000ドルを超える現金持ち出しは禁じられている。

つまり、それ以上の額を使う中国人が増えているということだ。中国の経済発展にともない、中国から日本に来る中国人の購買力が飛躍的に高まっている。なかには、日本人でさえ購入には二の足を踏んでしまいそうな高級腕時計も、気軽に買っていく中国人旅行者が増えているという。かつて日本が不動産バブルのピークを迎えていた80年代、日本人が海外旅行に出かけ、海外の有名ブランド店に行列を作り、購買力の強さを見せつけたのと同様に、今は中国人の購買力が、日本人の落ち込んだ購買力をカバーしようとしている。

それは、日本の観光産業にとって、中国人のニーズを捉えることが重要になってきているということだ。ここ数年、中国人の対日感情は悪化していると言われてきたが、それとともに、日本の観光資源の一番のお得意様が中国人であることも事実だろう。

実際、銀聯カードでの決済が可能なお店を見てみると、とにかく中国人の購買意欲を高めるための工夫がこらされている。中国語での表記、案内などは当たり前。銀聯の決済端末設置を増やした店もある。商品の陳列を見直して、中国人に人気の高い高級腕時計、デジタルカメラ、IH炊飯ジャーをワンフロアに集中させたところもある。銀聯カードでの決済については、商品の割引率を高めるというサービスを開始した店も登場してきた。

北京オリンピック、上海万博などを控えて、中国への関心が高まるなか、日本人向けの銀聯カード発行も増えていく可能性が高い。すでに三井住友カードは、昨年12月から日本人向けの銀聯カードの発行をスタートさせた。年間5万枚の発行を予定していると言われている。中国以外の国における銀聯カードの発行は、もちろん日本では初めてのことであるとともに、世界的にも香港・マカオを除いて、シンガポール、カザフスタンに続いて3カ国目の取組になるという。三井住友銀聯カードの年会費は無料。ただしカード発行時に発行手数料として2100円が徴収されるほか、5年ごとの更新時に1,050円の手数料が取られる。利用時には6桁の暗証番号を入力するとともにサインをすれば、中国国内および世界中の銀聯カード加盟店での買い物などに利用することができる。利用金額は円換算したうえで、指定口座より一括での引き落としになる。

日本における銀聯カード加盟店の増加、そして、中国渡航者向け銀聯カードの発行開始といった動きを見ていると、日本と中国の経済的なつながりが、どんどん深まってきていることがわかる。人口13億人を抱え、世界最大級の消費市場を持っている国だけに、中国との経済関係を無視することはできない。こうした動きを、銀聯カードが象徴しているともいえるだろう。

JOYnt代表 鈴木雅光氏プロフィール

主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。