連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。
考えなければならない災害とは? ~災害(リスク)は、常に新たな災害が誕生する~
下記の表を見ると実に様々な災害があるのがわかります。これらの中で住まいに関する災害はどれとどれでしょうか。広く考えればどれも当てはまりそうです。また災害は単体で発生するだけでなく、互いに関連を持って発生する事が多いのが特徴です。さらに、日々新たな災害(リスク)が発生し続けている点も忘れてはなりません。ネット関連の被害や振り込め詐欺などは以前には見られませんでしたが、今は日常的な問題です。我々は日々いろいろな災害(リスク)の危険にさらされているといってよいでしょう。過度に不安になるのも問題ですが、大きな出費を伴い、様々な災害対策に関係する住まいの取得に際しては、「災害に強い家」をしっかり念頭におきたいものです。
災害の本質~災害とは想定外が想定内でなければならない~
住まいの耐震性能は大きな関心事だと思います。建物の構造計算といえば、一般の方はどのようなイメージをもっているでしょうか。コンピューターに必要なデータを入れて、難しい計算を処理し、はい完璧に安全な構造建物です…というイメージでしょうか。そして、法的に定められている構造基準は想定されるどんな地震にも絶えうる基準となっていると考えていますでしょうか。建物の構造は自然が相手です。今までの歴史の中で、何度「想定外」の災害があっことでしょうか。事実大きな災害がある度に、構造基準が見直されてきました。
1989年に大きな構造基準の見直しがおこなわれましたが、それ以前の建物は当時の基準を満たしていても、一転して危険な建物と位置付けられてしまいました。今後さらに見直されない保証はどこにもありません。現在の新耐震基準もどのような地震にも耐えうるものではなく、めったに起きない大規模の地震でも安全に避難できる時間がある…という基準なのです。実際に阪神淡路大震災で、新耐震基準の建物が全く倒壊しなかったわけではありません。安心したいが為に自分の頭の中で想定内を組み立てるのはとても危険で、「災害は常に想定外の事が起きる」ものと考えて、どう対処するかが大切なのです。
災害に対処する基本的方法は ~災害(リスク)はゼロにはできない~
自然災害の中のどれをとっても、人間が自然に完全に打ち勝ったためしがありません。明治以前の施政者の最大の課題は治水対策でした。良く考えれば今も変わりがないようです。自然との飽くなき闘いといえるでしょう。つまり災害はゼロにはできないのです。ファイナンシャルプランニングでは、災害対策を5つに分類しています。簡単に他の地域に移住はできませんので、地震対策の多くは損失制御となるでしょう。
現在は治水対策がかなり進んで、洪水の経験のない世代も多いと思いますが、地域のお年寄りに聞くと、大体一つ二つの経験談をしてくれると思います。子供のころ住んでいたところは裏が大きな川で、台風の時は氾濫の危険が多い地域でした。実際に二度ほど私も床下浸水を経験しました。水かさが上がると危険ポイントを観察していた地元の大人達が、相当危険な状況でも経験上「この分なら大丈夫」などと判断していました。「大人ってすごいなぁ」と思ったものです。
次回以降は具体的にどのように災害に対処すれば良いかを考えてみたいと思います。
<著者プロフィール>
佐藤 章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。