猿之助に関しては、まだ父親に対する殺人罪に問われる可能性もあるなど、他の不祥事よりも判断が難しいのは間違いなく、「当面、配信停止にするのは妥当」という見方もある。また、もし配信停止しなければ「なぜしないんだ」などの苦情があり、それを「早期対応で防ぐ」という意図もあるだろう。

ただそれでも、「見たい人が選んで見る」、しかも金銭を払って意思表示したコンテンツで、「容疑者が助演出演した作品を全話配信停止」するのは不自然な対応にしか見えない。

まず感情論としては、多くのキャストとスタッフが長い時間をかけて準備するなど、懸命に取り組んだ作品を、1人の不祥事ですべて台なしにしていいのか。動画配信サービスの普及でストックコンテンツの価値が高まっているだけに、評価される機会を失うことは関係者の誰もが痛いはずだ。また、視聴者にしても「見たい作品が急に見られなくなる」ことは損失だろう。

次に現実論として、局の経済的な損失が大きすぎるのではないか。NHKはいいのかもしれないが、早期対応での配信停止は民放の経営を圧迫していくように見える。局の大事な財産を自ら手放すようなものであり、なかでも「過去にさかのぼって利益を失う」という点でのリスクは高い。このような判断が他業界に広がっていかないためにも、できるだけ早期対応での配信停止は避けるほうがいいのではないか。

もう1つ、「配信すると不祥事を起こした当事者に利益が発生してしまい、それはよくない」という見方もあるが、その多くは少額なものにすぎない。あるいは、あらかじめ不祥事の発生時は利益が得られない契約にしておけばいいだろう。いずれにしても配信停止によって、「もらうべき人が利益を得られない」ことのほうが問題だ。

刑事罰の有無だけでなく、不倫や迷惑行為なども含め、出演者が作品にダメージを与えるリスクをゼロにすることは難しい。だからこそ、これまでのような慣習や保身がベースの早期対応をするのではなく、今回のようなケースをきっかけに変わっていかなければ、自分たちの首を絞めるだけだろう。

ただ、配信停止の発表以降、個人がTwitterなどに不満の声をあげていたほか、数々の番組でもこの件が扱われ、出演者がコメントするなど、小さな一歩を感じさせられる。今後は世間の人々を巻き込んだ議論を進めながら、「これなら配信OK」「これは配信NG」という社会的なコンセンサスを1つ1つ作っていくべきではないか。