テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、IPO(新規上場)を目指す企業が注意すべき法律のポイントについて解説します。

  • IPO(新規上場)を目指す企業が注意すべき法律のポイント

IPOとは

IPOとは「Initial Public Offering」の略称で、日本語では「新規公開株」や「新規上場株式」などと呼ばれ、会社が新しく株式を上場し、証券取引所で自由に売買できるようにすることを指します。創業したからには、IPOをしたいと漠然としたイメージは持っている方が多いと思いますが、IPOのメリット、また注意点はどのような点にあるのでしょうか。

IPOのメリット

企業がIPOをすることによって得られるメリットは以下のようなものが考えられます。

知名度の向上

上場をしたことにより、新聞雑誌、メディア等に取り上げられ、企業の知名度の向上が期待できます。 知名度が向上することによって企業のブランド力の向上にもつながります。

信用度の向上

上場にあたっては、企業内部の各種組織体制や、内部統制の体制を整備することが求められます。したがって、上場を達成することで、審査水準をクリアした企業であるとして、企業の社会的信用度は向上します。

資金調達の多様化

市場を通じて一般の投資家から広く資金調達ができるため、企業運営の資金をより多く集めることが可能となり、企業の成長につながります。

優秀な人材の確保

上記のように知名度及び信用度向上の副次的な効果として、入社を志望する優秀な人材の増加により、企業のさらなる発展をも期待できます。

以上の事項はIPOのメリットの一部ですが、上記のメリットだけでもIPOは企業にとっては非常に魅力的なものです。

もっとも、株式上場により、金融商品取引法に基づく企業情報の開示情報義務や上場維持のためにコストがかかることには留意が必要です。

IPOのための審査事項(法律面)

IPOのメリットを確認しましたが、IPOを目指す企業にとって気になる点は、証券会社や証券取引所による審査といったところです。では、どのような点を中心に審査されるのでしょうか。

法的手続きの遵守

まず、会社の設立手続きや総会決議や取締役会決議、株式の移転や発行など、会社法等の諸手続きを遵守していることが求められます。これらの事項は会社の創業当初から関連する事項なので、あとから巻き返すことが難しい点でもあります。

IPOを視野に入れている場合、早い段階から弁護士等の専門家を入れて法的手続きを遵守することが重要となってきます。

ビジネスモデルの適法性

企業のビジネスモデルの適法性が判断されます。場合によっては弁護士からの意見書の提出を求められるケースも。そのためIPOを考えているならば、審査の前に弁護士等の専門家に確認を取っておくことが重要となります。

契約関連事項

企業が締結した契約について、その契約内容、契約書をチェックされます。契約の内容自体はもちろんのこと、その契約に沿った企業活動を実施しているかの実態調査も行われます。

また、その契約内容が企業にとって今後損害を与えうるリスクがあるもの(契約内容に、企業にとって不利な条項が入っているか等)ではないか、といった点などもチェックされます。自社の締結している契約内容を、いま一度見直す必要があります。

労務関連事項

企業にとって重要な関心事項のひとつは、労務に関する事項です。やはり労務関連事項も審査の対象となり、労働基準等の諸法令を遵守しているかをチェックされます。特に、残業時間の管理や、未払い残業代は重要項目。日頃から社会保険労務士や弁護士などの専門家とともに諸法令を遵守できるような体制を構築しておくことが重要となります。

紛争など

企業が現在抱えている訴訟などの紛争についても、当該訴訟の内容や結果によっては企業に大きな損害を与えるものとなり得るため、チェック項目のひとつとなります。

たとえ、会社としては勝訴の見込みが高いと判断していたとしても、場合によっては弁護士等の専門家が作成した意見書の提出を求められる場合もあるため、IPOを行うに当たっては十分な準備が必要となります。

以上に挙げた部分は、法律面の審査の一部分ですが、企業としては、証券会社や取引所の要求に応じてそれらの資料を提出する必要があります。

まとめ

IPOは企業にとって大きなメリットがあるものです。しかし、その一方で上記のように審査項目は多数にわたり、企業としてしっかりとした準備が必要となります。

また、会社の設立時からの法的手続きの適法性をチェックされるため、IPOを目指すことを視野に入れた段階で、弁護士等の専門家を入れてIPOへの万全な準備を整えることが重要でしょう。