テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、インドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、ブロックチェーンカンパニーのAvacus代表・松田航氏とアスリートのセカンドキャリアを支援する猿田公彦氏、元ラグビー日本代表の長江有祐選手にインタビューを行いました。

  • 左から:長江氏、猿田氏、松田氏(リモート取材のため取材日とは別日の写真)

■取材協力  

松田航氏:ブロックチェーンをコアリテラシーとする、自社サービス運営・イノベーション創出カンパニー Avacusの代表。

猿田公彦氏:アスリートのセカンドキャリア支援や働き方改革推進支援などの活動を行う。

長江有祐氏:SBS代表。近鉄ライナーズに所属するプロラグビープレイヤー。元ラグビー日本代表。

仮想通貨やブロックチェーンにリアリティを

中島宏明(以下、中島)――「Avacus(アバカス)は、仮想通貨関連企業としてはユニークなサービスを展開していますよね。松田さんは、どんなことがきっかけでAvacusを始めたんですか?」

松田航氏_(以下、松田)――「仮想通貨を使うこと・持つことに対してリアリティを持ってもらうために始めました。仮想通貨のもともとの思想って、投資や投機ではないじゃないですか。国を問わず世界中の人に送金できることや、人の手を借りない証明手段であるブロックチェーン。そういったところが特徴であったはずなのですが、いつの間にかギャンブルの道具になってしまった。これでは飛躍できないと思ったんです」

中島――「ビットコインを始めとする仮想通貨は、もともとは自由思想から来ていますよね(詳しくは、別稿『仮想通貨の哲学』を参照)。2016年頃から日本でもブームっぽくなって、それからは投資や投機、詐欺の印象が強くなってしまいました。今でもそこから脱せていないと思います。普及したと言うにはほど遠い……」

松田――「そうなんです。飛躍するためには、出口を与えないといけないと思いました。わかりやすいのは買い物です。決済で仮想通貨を利用することで、仮想通貨のリアリティが増すと考えたわけです。

海外には、アバカスでいうshop(後述)の機能を持っているサービスは既にあって、ビットコインやビットコインキャッシュなどの仮想通貨で、アマゾンの商品を購入することができました。"仮想通貨を使って商品を購入したい人"と"アマゾンギフトカードを仮想通貨に交換したい人"をマッチングさせるサービスです。それが、アバカスのアイディアの基になっています」

中島――「確かに、決済などに使わないと持っている実感もないですよね。私もときどき持っていることを忘れます(笑)。具体的には、アバカスにはどんなサービスがあるのですか?」

松田――「機能は4つあります。1つ目は、仮想通貨を一瞬で送れて、メッセージのやりとりもできる送金機能付きSNSアプリの"Avacus Pay"。2つ目は、仮想通貨を使って買い物がしたい人と仮想通貨がほしい人をマッチングする"Avacus Shop"。3つ目は、仮想通貨でモノを販売するフリマサービス"Avacus Bazaar"。4つ目は、仮想通貨で仕事の受発注ができるクラウドソーシング"Avacus Ask"です。それに加えて、アスリートにファンが直接仮想通貨を送って支援できる"Avacus Sports"というサービスも始めました。Avacus PayとAvacus Shopの仕組みを使った、サードパーティ的な取り組みのひとつです。

Avacus Shopはパースを模して作ったサービスですが、最近はAvacus BazaarやAvacus Ask、Avacus Sportsを活用してくれるユーザーさんも増えてきました。Avacus Bazaarは、メルカリのようにフリマ感覚で自分のお店を持てるだけでなく、販売で得た売上をAvacus Shopの機能で利用できるので、わざわざ仮想通貨取引所に送金して換金する手間をかけずに済むんです。

例えば、自作のキャラクターグッズや作品などを販売して、その売上で新しい商品の資材をアマゾンで購入する、といった仕入れ・販売のサイクルを取り入れているユーザーさんもいますよ」

中島――「それは面白いですね。アバカスプラットフォーム内で生活できちゃう」

猿田公彦氏(以下、猿田)――「ユーザーの動きに応じて機能を追加していくのが、アバカスの特徴かもしれませんね。Avacus Sportsは、長江選手との出会いが影響していますし」

松田――「ユーザーの方が使っているうちに、開発側が意図しない使い方を思いついてくれたりするので、『こんな機能がほしい』という声が高まったらそれを開発するというスタンスですね。ウィキペディアみたいに、どんどん拡大していくのが面白いと思います」

企業やフリーランスが仕事の発注・受注をできるプラットフォーム

中島――「Avacus Askでは、いろいろな頼み事ができるので、フリーランスの方が仕事を受注することもできるわけですね」

松田――「パワポで資料を作ってほしいとか、看板のデザインをしてほしいとか、そういった単発の仕事を受注できます。ユーザーさんの中には、収入の半分くらいをAvacus Askで得ているという人もいるみたいです」

中島――「今後、ユーザーにどんな風に利用してもらいたいですか?」

松田――「合法の範囲で、好き勝手やってほしいですね。こんな風にも使える! というアイディアがあれば、どんどん出してほしいです。規格外の野菜を販売している人もいますし、クラウドファンディングのように利用している人もいます。ユーザーさんがやりたいことを整備するのが自分の役割だと思っているので、今後もそうしたいですね」

中島――「今、松田さんが注力しているのは開発でしょうか?」

松田――「最近は、海外からの問い合わせが増えています。アバカスの文化は日本国内のユーザーさんが作ってきたので、同じことを海外ユーザーのみなさんにもやってほしいと思っています。今は、その対応に追われていますね。

海外には、ほとんど仮想通貨だけで生活している人も多くいます。日本にいるとわかりにくいのですが、自国の通貨や政府、金融機関を信用していない国ってあるじゃないですか。そういう背景があると、海外ユーザーの使い方って日本とは全然違う。日本では日本円がとても信頼されているので、仮想通貨はプラスアルファの存在として使われているのですが、ブラジルとか自国の通貨が不安定な国ではビットコインの方を信頼するって人も多くて、まさにビットコインで生活しているユーザーはたくさんいます」

中島――「確かに、キプロスショックのときのキプロスもそうでしたね。新興国でもそういった国は多いですよね。それと、海外では、家賃や買い物、公共料金の支払い、納税にまで仮想通貨を使える地域もあります。日本はその点遅れていますね」

松田氏――「そうなんですよね。仮想通貨を、生活の"足し"ではなく"基盤"にしていきたいというのがあります。海外の仮想通貨生活者たちを、どんどんAvacus Askに引きこみたいですね。仕事の報酬は仮想通貨で受け取れますから、それをそのまま支払いに使ってもらえれば良いので」

仮想通貨でアスリートの応援が可能に

  • 元ラグビー日本代表:長江有祐氏(左)

  • キッズラグビー体験イベントの様子

中島――「Avacus Sportsは、長江選手も利用されているとか。実際に使ってみてどうでしたか?」

長江有祐氏(以下、長江)――「私は、地域密着型のラグビークラブチームをつくりたいと思って猿田さんに相談していたんです。それで松田さんとアバカスを紹介されて。

スポンサーを集めて、夢を追いかける場所をつくりたいと思っていました。プロになれなかった人を集めて、もう一回プロに挑戦する機会を得られるとか。あとは、子どもたちへのラグビーの普及もしたいと思っていました。2019年のワールドカップの影響もあって、一気に広まった感じはあるのですが、まだまだ裾野を広げないといけないと思っています。そういう活動ができる組織をつくりたかったんです」

中島――「猿田さんに紹介されて松田さんと会ってみて、最初はどんな印象でしたか?」

長江――「仮想通貨のことは全然知らなくて、自分とは関係ない世界のことだと思っていました。カフェでホワイトボードに書いてもらって説明を受けたんです(笑)。

アバカスを使えば、今までにない応援の形が実現すると感じました。試合を観たり、SNSの投稿にいいねを押したりするだけではない応援の形がある。一人ひとりがスポンサーになれる。そう感じたんです」

中島――「具体的には、どんな風にAvacus Sportsを利用しているのでしょうか?」

長江――「子どもたち向けにラグビーの体験イベントを開催しようと思ったときに、アマゾンで売っている空気入れやマーカー、事務用品、コーンなどの備品を購入するために、アバカスで投げ銭をお願いしたことがあります。他には、クラブチームのロゴをAvacus Askで依頼しました。すごく良いデザインでとても気に入っています。投げ銭していただいた分から、デザイナーさんへの報酬をお支払いすることもできました。あと、イベントなどを手伝ってくれた人にはAvacus Payで送金したりもしています」

中島――「すごく活用されていますね」

長江氏――「そうなんです。アバカスプラットフォームにはいろいろなユーザーの方がいるので、情報発信しただけで投げ銭という応援をしていただけました。本当に助かっています。ユーザーの方が増えれば増えるほど、いろいろな依頼や応援の形が増えると思います。これからも、ラグビーの普及などの活動を通じて、子どもたちの笑顔を増やしたいですし、プロ挑戦のチャンスを広げたり、猿田さんのように選手のセカンドキャリアの支援などもしていきたいですね」

猿田――「開業したいと思ったら、アバカスのプラットフォームでクラウドファンディングができたり、協力者を探したり、スタッフを探したり。そんな可能性があるのが楽しいですよね。使い方はユーザーそれぞれですし、どんどんアップデートされていく。アイディアを出せば、それが採用されるかもしれない。そういう無限の可能性があるのが良いですね」

アバカスで証明したいものとは

中島――「長江選手のようなユーザーが増えてくれると、新しい働き方や生き方ができる人やアスリートの方が増えるかもしれませんね」

松田――「仕事に行って給与をもらって生活するという日本的な働き方や生き方とは違うライフスタイルを作っていきたいです。

クラウドソーシングで仕事を受注するとき、現実での肩書きがジャマになることがあると思うんです。本業が事務スタッフだとしても、実はデザインが得意だったり、文章を書くのが得意だったり。そういう人っているじゃないですか。デザイナーになりたかったけど、理由があって違う道に進んだ人とか。本業と副業という考え方自体が古くなると思いますが、クラウドソーシングで仕事をするときに事務スタッフという肩書きはいらない。肩書きがジャマになって、仕事に対する正当な評価がされないことになるからです。

Avacus Askの場合、過去の仕事の実績だけが残り、それによって信用創造がされます。ひとつしか生きる道がないわけではない。別の生きる道もあるんだということを、アバカスで証明したいです」

中島――「セカンドライフという仮想空間がありましたけど、それのリアル版という感じですね」

松田――「そうですね。もっと現実的で実利的なセカンドライフ。実際に生活ができて、現実社会で息苦しさを感じている人は、それを解消できるような。アバカスが、そんな人たちのオアシスになれれば良いなと思います」

次回以降も、実体験をベースに、起業や副業・複業、海外進出、テレワークなどをテーマに役立つ情報をご紹介します。

執筆者プロフィール : 中島 宏明

1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solution(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。