テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、「フリー素材」について解説します。
フリー素材って、使っても大丈夫?
取引先にプレゼンする企画書をパワーポイントで作成したい。その際に、使用したい画像を掲載しているWebサイトに「すべてフリー素材です! ご自由にお使いください」と記載されている場合は、そのまま企画書に使用しても、著作権法上の問題は生じないのでしょうか。
どのような観点を注意すべきなのかを解説します。
そのフリー素材Webサイトは、安心?
インターネット上には、「フリー素材」として、自由に利用できる旨謳われている画像が掲載されていることも多いです。
しかし、「フリー素材」を謳っていても、著作権者から許諾を取得するなどの適切な権利処理が行われていないWebサイトも少なくありません。
したがって、利用しようとするWebサイトが信頼できるWebサイトか、慎重に確認してから利用するべきです。まずは、そのWebサイトの利用規約をみましょう。
例えば、以下のような規定があった場合には、注意が必要です。
写真の使用に必要な権利、承諾およびライセンスがすべて得られていることを確認するのは、利用者および写真をアップロードされる方の責任になります。
弊社は、写真ACに保管されている写真の適法性を保証できません。弊社は写真利用に関するいかなる権利侵害に対しても責任を負いません。
この規定は、会社としては、写真を使うことにより、権利侵害があったとしても、一切の責任を負いませんよというものです。
フリー素材を使って、違反があった場合、どうなるの?
「フリー素材」という表記を信用して、掲載されている画像を使用し、実は権利処理が適切にされておらず、著作権侵害をしてしまったという場合、故意又は過失が認められなければ、民法上の不法行為(民709条)は成立しないため、損害賠償責任は負いません。
ただし、信用性があるとはいえないWebサイトからダウンロードした画像を使用して、著作権侵害をした場合、過失又は未必の故意が認められて損害賠償請求が認められる可能性もあります。
実際に、裁判例では、利用者が、フリーWebサイトからダウンロードした写真を使用したと主張した事案で、裁判所は、ホームページ作成業務を行っていたなどの利用者の経歴等を勘案し、未必の故意を認定しています。
また、著作権法上の差止請求や廃棄請求(著作112条)が認められるためには、故意・過失は必要とされないので、著作権侵害が認められれば、故意・過失の有無にかかわらず差止請求や廃棄請求は認められることになります。
フリー素材の利用が許される場合
「フリー素材」としてWebサイト等に画像等の素材を掲載している者が、当該素材について真に著作権を許諾することのできる者(著作権者又は著作権者から許諾を受けた者)であったとしても、当該素材について、いかなる利用に対しても著作権を行使しないものとしているとは限りません。
そのようなWebサイトに掲載された素材については、その利用について、規約や注記等の形で、利用が許される範囲が限られていたり、利用について条件が付されたりしている場合があります。
例えば、自由に利用してよいのは非営利の個人利用に限られていたり、利用に際して、当該Webサイトから取得した素材であることを明示しなければならないという条件を付したりすることがある場合があります。
このような限度を超えた利用をしたり、条件を守らずに利用したりすると、著作権侵害となってしまうことになります。
したがって、「フリー素材」等として掲載され、自由利用が可能であるように見える著作物を利用する場合には、利用規約などを注意して読み、許諾されている利用の範囲内で、利用条件を遵守して利用するべきです。
フリー素材の扱いは、慎重に
上記のように、フリー素材だからといって、何でも許されるかというと、そんなことはありません。 利用する場合には、利用規約などを確認して、問題ない範囲で使用するようにしましょう。