テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、前回に引き続き中小ベンチャーの「組織設計」について語ります。
CFO8マトリックスで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO®、高森厚太郎です。
今回は、本連載テーマ「中小ベンチャーの成長マネジメント」、前回の「中小ベンチャーCFO業務のその1(全体管理)」の「組織設計(前編)」の続き、「組織設計(後編)」です。
各組織体系のメリット・デメリット
前編でも触れた、機能別組織、事業部別組織などの組織体系には、それぞれメリット・デメリットがあります。
1.機能別組織
機能別組織とは、業務を研究開発、調達、製造、営業、財務、経理といった機能別に分けた組織体系です。
メリットとして、従業員が高い専門性を獲得しやすくなります。デメリットとしては、利益責任が不明確になること。利益が思うように上がらなくても、営業部の売上が伸びないせいなのか、製造部門のコストカットが不十分なのか、そうした責任の所在が見えづらい仕組みになっています。またこうした機能別組織では、部門間にコンフリクトが起きやすかったり、部門を超えての調整や全社的な意志決定に時間がかかったりする場合があります。稀に顧客ケアが薄くなる場合もあります。
中小ベンチャーは単一ビジネスに特化していることが多いため、機能別組織制を採っている企業が多いのですが、その場合、全体を見る人間が経営者しかいなくなるため、トップマネジメントに意思決定権限が集中しがちです。従業員は機能別の専門性は高められますが、全体が見えづらく、全社的な管理能力を持った人材が育ちにくいという側面があります。そのため、事業承継の際に適格な後継者が育っておらず苦労する中小企業は多いです。
2.事業部別組織
事業部別組織は、業務を製品、市場、顧客、地域など組織のアウトプットあるいはターゲット別で分けた組織体系です。たとえばパナソニックは家電、住宅設備、電気、さらに個人用の他に産業用まであるように事業が驚くほど多岐に渡っており、事業部それぞれのなかに開発や営業の機能を持つ事業部別組織を採用しています。
メリットとしては、各事業部のトップに事業部長が立ち、権限移譲もなされている傾向が強いので、意思決定のスピードが速いことが挙げられます。事業部長が担当事業の開発・製造から営業までのすべてを一貫して管理しているので、利益責任も明確です。事業の全体を見渡せる能力を持つ人材も育成できます。事業部長はひとつの中小企業の社長のようなものです。
デメリットとしては、事業部制が高じると事業部ごとに完結してしまい、全社的な協力が難しくなる可能性があることです。また、経営資源を各事業部に配分する際に資源の取り合いになってしまうことなども考えられます。
3.マトリクス型組織
マトリクス型組織は、事業別と機能別のいいとこ取りをしようとする組織体系で、外資系企業で見かけることが多いです。事業を地域別(外資系の場合はカントリー別)に分けて、それを機能別に運営していくやり方です。
メリットとしては、うまくいけば事業別と機能別の両方の長所が出るのですが、デメリットとしては、2人以上の上司がいるために、意思決定の権限や責任の範囲が不明確になりがちな点が挙げられます。日本の外資系企業で典型的なのが、国内にローカルマネージャーがいつつも海外本社にレポーティングライン上の上司がいるためにダブルスタンダードが存在し、業務に遅れや混乱をきたしているようなケースです。マトリクス型で運営している純粋な日本企業はあまりないような気がします。
4.プロジェクトチーム型組織
プロジェクトチーム型組織は、コンサルティング会社によくあるように、プロジェクト単位でチーム編成していくような組織体系です。一時期ゲーム開発会社などにもよく見られました。
この体系には、変化に対応しやすい、プロジェクトマネージャーが全体を見渡せる人材になり得る(将来の経営者候補を育てることができる)などのメリットがあります。
こうした各体系のメリット・デメリットをCFOが説明しながら、自社にはどの形式が合っているかを経営陣や現場マネージャーと見極めていくのがよいでしょう。