「先輩に相談したのですが、人によって言うことが違うんです……」
「課長と部長が違うことを言ってきて……」

若手のビジネスパーソンが困ってしまう場面の1つに、昔も今も、「人によって言うことが違う」というのが挙げられます。

  • 人により答えが違って困ったことはありますか?(写真:マイナビニュース)

    人により答えが違って困ったことはありますか?

今回は、このような場面でかつての私のような「しなくていい努力」をしないために、なぜこのようなことが起きるのか、そしてどのように対応していけば良いのかを考えていきたいと思います。

営業で初めて浴びた洗礼

私が新卒の営業として配属され、実地研修を兼ねたデビュー早々の商談でした。覚えたばかりの商品説明をお客様に一所懸命伝え、「商品単価は100円になります」と提案すると、「80円でどう?」と逆に提案されました。

とっさに「社に戻って、検討してお答えします」と言いましたが、結果的には、これが「しなくていい努力」のスタートでした。

会社で上司に相談したら、なんと、答えを教えてくれるどころか、「君はどうしたいの?」「20%も値引きできるの?」と逆に質問されてしまったのです。笑顔で答えを教えてくれるものだと信じて疑っていなかった私は、上司の想定外の対応にショックを受け、今度は先輩に相談します。

先輩に相談して更に困惑

A先輩「俺なら、土下座してでも100円で買ってもらう」

俺なら? その言葉に少し引っかかりを感じた私は他の先輩にも聞きにいきます。

B先輩「俺は上司にお願いして80円でいくよ。だって関係が大事だし」
C先輩「私は90円。その代わり量を増やしてもらうよう提案するな」
D先輩「俺だったら、こうなりゃ70円かな(笑顔で)」

そうです。先輩によって、まったく違う答えを言われてしまったのです。

「なんで、みんな違うことを言うんだ!」「みんなで俺をからかっているのか!」「この会社は、統一した答えすら出せないのか!」。

私は困ってしまいました。せっかく相談したのに、より大きな混乱を生じ、イライラ、怒り、ストレスも自分の中に込み上げてきました。

仕事における正解とは?

上司や先輩はなぜ違うことを言ったのでしょうか? その出来事に対する私の対応(思考・行動・感情)はそれで良かったのでしょうか? その点をもう少し掘り下げて考えてみましょう。

まず、そもそも、人によって言うことが違ってはいけないのでしょうか? 学校の勉強は、「1つの正解」がある種目です。テストで4択のマークシートがあれば、「正解が1つ、間違いが3つ」となるのが通常です。ですから、分からない問題があって、先生に聞けば、どの先生も同じ答えを教えてくれます。

では、「仕事」は勉強のような1つの正解がある種目なのでしょうか? 100円のものを80円にしてくれと言われた時の対応、ジーンズのデザイン、車の次のモデルチェンジの方向性、自社のCMに起用すべきタレント……。

そうです、そもそも仕事という種目には、1つの正解など存在しないのです。上司にも先輩にも、「正解」などというものは、はなから"無い"のです。ですから、「人によって答えが違って当たり前」なのです。

20代の私は、仕事を勉強のようにとらえ、上司や先輩をまるで学校の先生のように思っていました。

だから問題が発生すると「会社には正解があるはず」「だからその正解を(上司・先輩に)聞いてから答えよう」と何の疑いもなく考え、実際に聞きにいき、人によって違う答えを聞いては、困り、イライラや怒り、ストレスを感じていたのです。

これこそがまさに、仕事という種目での典型的なしなくていい努力だったのです。

「自分の答え」を持って相談する

正解のない種目である仕事で、実際にどのように答えを出していけば良いのかというと、すべて「交渉」していくことになります。100円で売りたかったらお客様を説得し、80円で売りたかったら上司を説得します。

90円はお客様も上司も説得することになります(70円だったら何が起きるか、考えてみると面白いと思います。実は、D先輩はトップセールスでした)。

上司に相談にいくと、逆に「君はどうしたいのか?」と聞かれることがよくあります。なぜ多くの上司がそう言うのか、もうお分かりですよね。

正解がない仕事という種目では、人に「答え」を聞くなら、先に「自分の答え」を言うのがある種礼儀なのです。また、仕事ができる人は、「違った答え」をぶつけあった方が、更により良い答えに磨き上げることができると考えています。

そして、本質的なことをいえば、「その仕事の主体者は誰なのか?」ということです。上司に教えてもらった答えをお客様に伝えればいい、とどこかで考えていた私は、「営業担当」というその仕事の主体者ではなく、先輩の厳しい言葉を借りれば、「伝書鳩」や「伝言係」にすぎなかったのです。

執筆者プロフィール

堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役

1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。