日経BPは、このほど『若手はどう言えば動くのか? ~相手を「腹落ち」させたいときの伝え方~』(1,980円/ひきたよしあき著)を発売した。本書は、若手の成長を促し、チームの貴重な戦力になってもらうための「伝え方」を詰め込んだ一冊である。
著者は、大阪芸術大学放送学科客員教授、早稲田大学招聘講師であり、SmileWords代表取締役のひきたよしあき氏。同氏は、コミュニケーションコンサルタントとして上場企業や行政機関などでコミュニケーションスキルの指導を行っているほか、政治、行政、大手企業のスピーチライターとしても活動している。
今回は、本書の中から若手との距離を縮める話題について紹介。「昔の話はするな」「プライベートは聞くな」と言われ、何を話せばいいのか悩んでしまう……。そんなあなたは、"失敗談"を話してみよう! そのワケとは?
■若手との距離を縮める言葉の選び方
【case2】
「昔の話はするな」「プライベートは聞くな」…では何を話せば?
【お悩みへのAnswer】
先輩の「失敗談」に、若手は安心する。10個用意しよう
■「説教、昔話、自慢話をやっちゃダメ」
若手との距離を縮めるために大切なのは、相手に「 いろいろ教えてほしい 」と頭を下げること。その上で、「相手が気持ち良さそうに話しているポイント」を深掘りすることです。
しかし、これだけだと「自分がどんな人間か」を開示することができないので、信頼関係を築くのに時間がかかります。相手に近づくには「自分自身の話」もしてみましょう。
自分自身の話。ここには、最大の注意ポイントがあります。タレントの高田純次さんが、その注意点を明確にしています。
「年を取ったら、説教、昔話、自慢話をやっちゃダメ」
名言ですね。まさに若い世代に嫌われる「三大噺」です。
私も若い頃は、上の人の「三大噺」が嫌で嫌で仕方ありませんでした。当時は宴席で聞くことが多かったもので、酔った上司が同じ話を何度もします。うんざりした顔をしていると機嫌が悪くなるので、タメになったふりをする。「なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」と日々鬱憤がたまっていました。
自分が部長になったとき、「絶対に自慢話はすまい」と誓いました。にもかかわらず、ある宴席で「ひきたさん、またその話ですか」と部下に言われてハッとしました。自分では自慢話をしている意識はない。過去の経験のなかから、みんなのためになると思う話をしているつもりです。
しかし、考えてみればこれが「自慢話」なんですね。説教も昔話も、よかれと思って話している。これが受け手にとってはいい迷惑。カラオケで、自分1人がマイクを握って歌い続けるオッサンの迷惑さです。
では、いったい、どんな話をすればいいのでしょう。
■今の若手は「失敗談」に飢えている
若手と接点をつくる話題。その1つに「失敗談」があります。これに気づいたのは2018年のことでした。この前年、『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)が漫画化されてリバイバルし、空前のブームになりました。
私は、この本についての読書会などを高校生や大学生、一般の人に対して行っていました。そこで気づいたのは、小説のなかではさほど重要とも思えない「母親の失敗談」を息子に語るシーンに、多くの若者が共感していたことです。
「うちの母親の失敗談なんて聞いたことがない」「母親の失敗談を読んで、ほっとした」そんな声を学校や地域を問わず聞いたのです。インターネットが興隆していくなか、誰も彼もが、キラキラとした自分、成功した私を拡散しようとする。「私には、人に誇る部分がない」と自己肯定感が下がっていた人たちが「親の失敗談」に共感するのを目の当たりにしました。
「もしかすると、今の人は失敗談に飢えているのかも」
そう考えた私は、常に10個の失敗談をネタとして持っておけと、さまざまな企業・団体のリーダーに教えました。
- 今日の失敗談
- ここ最近の失敗談
- 人生最大の失敗談
- 子どもの頃の失敗談
- 学生時代の失敗談
- 新人の頃の失敗談
- 親子関係での失敗談
- 友人関係での失敗談
- 旅における失敗談
- 大きなイベントにおける失敗談
10個の失敗談を、自分の体験から選び出し、物語化しておく。新しいネタができたら入れ替える。そして大切なことは、「失敗談から学んだ教訓も語れるようにしておく」ということです。
失敗談だけだとプライベートな話で終わりますが、そこに教訓がプラスされれば「私に教えてくれたいい話」となる。若手と話のネタに困ったら、説教、昔話、自慢話と思われないように注意しながら、失敗談を語ってみてください。
■リーダーが「ポンコツぶり」をアピールすべき理由
リーダー向けの企業研修のなかで、参加者からこんなエピソードが出てきました。
「真夏の頃です。朝、忙しくしていて、干していた洗濯物のなかから何気なくポロシャツを選んで会社に出かけました。満員電車の中、誰かの汗の匂いかなと思っていたら、どうやら私らしい。
ポロシャツが生乾きだったんです。周囲の人が迷惑そうな顔をしている。その日、得意先に行く用事があったので、すぐにユニクロで新しいポロシャツを買って着替えました。夏の匂い、自分で発していないかを気づくいい機会にはなりました。洗濯物の生乾きに注意してください」
失敗談に見えますが、部下の立場で聞いていると「この上司、清潔感を出すことに気を使っているんだな 」と気づきます。そうすると、真っ白いポロシャツがとても似合う人に見えてきました。
もう1つ、紹介しましょう。
「実は私、落ち込んでるんです。昨日、ちょっと上司と居酒屋でケンカして、『辞めてやる!』と言っちゃったんですよね。朝からダウンスパイラルです。お酒はほどほどに。親しき中にも礼儀ありですね」
というような話。この失敗談には、ミソがあります。部下は、上司が、その上の上司とどういう関係なのかをとても気にします。自分のやった仕事に対して、上司がその上の上司を説得できるのか。
ただのいいなりで、とばっちりが下の自分にまで回ってこないか。そんなことまで考えています。この話は失敗談ですが、若手から見ると、上司とその上の上司が、ケンカができるくらい仲がいいことを示しています。失敗談を通して、上司の性格や人間関係を伝えることができるのです。
ソツなくなんでもこなして、非の打ちどころがない上司は疲れます。人間味を感じさせることもできないでしょう。リモートワークが増えて、自らのキャラクターまで伝えるのが難しい時代だからこそ、自分の「ポンコツぶり」を少しでもアピールすることが肝心。
失敗する自分を見せること。これも若手とのコミュニケーションにとって大切なことなのです。
まとめ:過去の話も「失敗談」なら嫌みにならない
書籍『若手はどう言えば動くのか? ~相手を「腹落ち」させたいときの伝え方~』(1,980円/ひきたよしあき著)|
ここで伝えた内容以外にも、本書では若手への具体的な接し方を多数紹介している。若手とのやりとりに悩んでいる人は、ぜひ本書を参考にしてほしい。
イラスト/こつじゆい