11月に入り、オフィスや通勤時の電車内を見渡してみると、せき込んだりマスクを着けたりする人の姿が目立つようになってきた。気温が下がり、空気が乾燥しだすこれからの季節は、さまざまなウイルスが増殖しやすい次期となる。そうなると、注意したいのが各種の感染症だ。
秋・冬シーズンの感染症の代表例であるインフルエンザウイルスやノロウイルスに感染した場合、感染者は出社を控えるのが好ましい。だが、自身がウイルスに感染している事実に気づかず、知らず知らずのうちに周囲に感染を拡大させてしまっている人がいるのが現状だ。
自分自身がこれらの「ウイルス禍」の加害者および被害者にならないためには、各種感染症を引き起こすウイルスについて正しく理解しておく必要がある。そこで本特集では、秋・冬シーズンに流行しやすい感染症の特徴や対策を紹介していく。今回はRSウイルスについて、小児科医の竹中美恵子医師にうかがった。
RSウイルス感染症の症状
RSウイルスは、主に秋から冬に流行する風邪のウイルスの一種。RSウイルスは世界中に分布しており、国立感染症研究所によると生後1歳までに半数以上が、同2歳までにほぼ100%の子どもが感染すると言われている。それほどありふれた病原体ではあるが、免疫が得られないため、風邪と同じように何度も罹患する可能性がある。
「RSウイルスは秋から冬場にかけて流行が見られ、毎年11月頃から1月頃にピークを迎え、3月まで続きます。ただ、2018年は夏でも感染者がいましたし、実際、近年は季節に関係なく流行する傾向があります」
ウイルスに感染すると、個人差はあるものの、典型的には4~6日間の潜伏期間を経て鼻水や発熱、咳などの一般的な風邪と同じ症状を呈するようになる。だが、RSウイルスが下気道に入り込むと、細気管支炎や肺炎に至るケースも出てくる。
「喘息のような『ゼイゼイ』とした咳が特徴的ですが、初めて感染した乳幼児は重症化しやすく、症状によっては入院が必要なこともあります」
「呼吸が苦しそう」「息をする際に胸やおなかがぺこぺことへこむ呼吸(陥没呼吸)が見られる」「顔色が悪い」「母乳やミルクの飲みが悪い」などが確認されたら、RSウイルスに感染している可能性がある。
また、上述のように必ずしも秋口以降に流行する感染症でもなくなってきているため、「鼻水が出たり、ゼイゼイする風邪が見られたりする場合は夏でも疑うべきですね」と竹中医師は警鐘を鳴らす。
RSウイルス感染症の感染ルート
RSウイルスは鼻水や、咳・くしゃみ時に飛び散る唾液に多く含まれており、その感染ルートは「接触感染」と「飛沫感染」に大別できる。
接触感染
RSウイルスに感染した人の手指から、非感染者の目やのど、鼻の粘膜にウイルスが付着することで感染する。ウイルスの付着したドアノブやコップ、おもちゃなどを介して感染するケースもある。乳幼児が感染した場合、大人は家庭内の二次感染時を防ぐためにも、子どもが普段触る場所や物には注意を払う必要がある。
飛沫感染
感染者のくしゃみや咳と一緒に飛び出したRSウイルスを吸い込むことにより感染する。これらの飛沫は、目に見えない微細な大きさで広範囲にまき散らされている。感染者には不必要に近づかない方が賢明と言えよう。
「感染力が非常に強いRSウイルスは、保育園、幼稚園、病院の外来や病棟、高齢者施設での流行が見られやすく、注意が必要です。RSウイルスは一度罹(かか)っても免疫ができにくく、何度も罹患してしまうのですが、何度も感染するうちに症状は軽くなり、大人は鼻水や咳など軽い症状ですむと言われています。ただ、高齢者では慢性閉塞性肺疾患、喘息や慢性心不全の悪化、肺炎の合併も報告されています」
RSウイルスには特効薬がないため、感染してしまった際の治療は症状に応じた対症療法を行うのが基本となる。熱が出たら熱冷ましアイテムを、呼吸がつらそうならば、呼吸を手助ける内服薬などを併用する。中耳炎や肺炎を合併するケースがあるため、抗生剤を使用することもあるが、基本的には安静にして、こまめに水分を補給することが肝要となる。家庭での対応が難しければ入院を検討すべきだろう。
治療法は対症療法が基本
感染力が強いRSウイルスには、インフルエンザのようにワクチンがない。それだけに、竹中医師は「RSウイルス感染症に罹らないためには、手洗いやうがいなどの毎日の心がけが大切です。主に接触感染でよくうつりますので、手をよく洗いましょう。また、消毒には次亜塩素酸ナトリウム、消毒用アルコールが有効です」と日々のケアの重要性を説く。
それでも、乳幼児は免疫力が低く、手洗いやうがいもおざなりになりがちなので、感染を100%防ぐことは不可能。万一、自身の子どもがRSウイルスに感染してしまった場合、親は家庭内での感染拡大に配慮せねばならない。
「家庭内感染を防ぐには、『湿度を50~60%に保ち、こまめな水分補給および手洗い、うがいを行う』という点を心がけるとよいでしょう。乳幼児の場合は自分で鼻をかめませんので、親御さんが吸い取ってあげるといいでしょう。家で難しい場合は病院でしてもらえます。感染を広げないためには免疫を上げておく必要がありますので、しっかり休養をとって基礎体力を上げておきましょう」
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 竹中美恵子(タケナカ・ミエコ)
小児科医、小児慢性特定疾患指定医、難病指定医。「女医によるファミリークリニック」院長。
アナウンサーになりたいと将来の夢を描いていた矢先に、小児科医であった最愛の祖父を亡くし、医師を志す。2009年、金沢医科大学医学部医学科を卒業。広島市立広島市民病院小児科などで勤務した後、自らの子育て経験を生かし、「女医によるファミリークリニック」(広島市南区)を開業。産後の女医のみの、タイムシェアワーキングで運営する先進的な取り組みで注目を集める。
日本小児科学会、日本周産期新生児医学会、日本小児神経学会、日本小児リウマチ学会所属。日本周産期新生児医学会認定 新生児蘇生法専門コース認定取得、メディア出演多数。2014年日本助産師学会中国四国支部で特別講演の座長を務める。150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加する「En女医会」に所属。ボランティア活動を通じて、女性として医師としての社会貢献を行っている。