もちろんタイミングや事情は人それぞれですが、おおむね30歳前後で「新しい家族が1人増える=子どもが生まれる」となる人は多いかもしれません。その際は、300万円くらい出して新車のミニバンやSUVを買うケースが多いのでしょうが、中古車に目を向けてみれば、その半額以下の予算でまかなえるだけでなく、「運転そのものも十分に楽しめる車」を見つけることができると中古車ジャーナリストの伊達軍曹さんは言います。家族が増えても「運転の楽しさ」はあきらめたくないという人におすすめの、お手頃価格な3モデルを紹介してもらいましょう。

  • スズキ「ソリオ」

    子育てにもってこいで、なおかつ運転が楽しい。そんな車ってある?

親になるなら「ドライビングプレジャー」はあきらめるべし?

その昔、「男と女のあいだには 深くて暗い 河がある」という歌い出しの歌謡曲があった。

たしかにそのとおりだなぁと思うわけだが、男と女のあいだには「子ども」が生まれることもある。愛の結晶であり、生命の奇跡である。

だが……結晶も奇跡もいいのだが、子どもが生まれて困るのは「車」についてである。

いや、貴殿が「車を楽しく操縦すること」について1ミリも興味がないタイプの人間であるならば、愛の結晶が誕生するとわかった瞬間に何らかのミニバン(3列シートの箱型の車)を注文すれば、万事解決する。何の問題もない。

だが、もしも貴殿が「運転好き」であった場合に、大問題が発生するのだ。

ごく希に例外もあるが、基本的にミニバンというのは、運転が本当につまらないと感じる乗り物だ。運転そのものを愛好する人間にとっては、あれを運転するというのは「ほぼ拷問」である。

しかし、生まれてくる愛の奇跡のためには、ドライビングプレジャーうんぬんよりも利便性=子育てのしやすさをこそ優先させるべきなのは明白。そのため、車好きとしての自我と、パパあるいはママとしての自我が引き裂かれることになり、けっこう大変なことになってしまうのだ。

子育てに使えて、なおかつ「運転自体が楽しい」という車も存在する

そしてたいていの人は、「まぁ仕方ない」ということで車方面の自我を(とりあえず)封印し、パパあるいはママとしての自我を優先させる。つまり、拷問的にまでに運転がつまらないミニバンを購入するわけだ。

筆者は、それについて責めようとは微塵も思わない。

はっきりいってしまえば、自動車趣味なんぞよりも「生命の奇跡」を無事に育て上げることのほうが、おそらくは100億倍ほど重要だからだ。

しかし、ひとつだけ言いたいのは、「もちろんミニバンを買うのもご自由ですが、その前に、この3車種についてもちょっとご検討されてみてはどうですか?」ということだ。

至れり尽くせりの子育てスペシャルである3列シートミニバンや軽スーパーハイトワゴンほどではないが、それなり以上に子育て活動に向いていて(スライドドアで、後席と荷室もまあまあ広くて)、それでいて、パパあるいはママの「運転好きとしての自我」も満足させられる車は、実は存在しているのである。

今回は、そんな特徴を備えている稀有な車をご紹介しよう。自動車記者生活25年の筆者が自信をもってすすめる「運転が楽しいファミリーカー」3車種だ。

子育ても運転も楽しめる車その1|スズキ「ソリオ」(現行型)

「コンパクトハイトワゴン」と呼ばれるジャンルに属する1台で、日本語で言うなら「背の高い小型乗用車」である。後部ドアはヒンジ式ではなくスライド式であるため、駐車場で、いわゆる「ドアパンチ」を隣の車に食らわせてしまうリスクもない。

  • スズキ「ソリオ」

    スズキのコンパクトハイトワゴン「ソリオ」(写真は「ソリオ バンディット」)

「背の高い小型乗用車(しかもスライドドア)」というと、そのほとんどの場合で「運転は拷問並みにつまらない」となるわけだが、ソリオは違う。スポーツカー並み……とはさすがに言わないが、それなり以上のキビキビ感としっかり感でもって痛快に走ることもできる、非常に稀有な箱型スライドドア車なのである。

パワーユニットは1.2Lのガソリンエンジンにモーターとバッテリーを合わせたマイルドハイブリッド(簡易的なハイブリッドシステム)で、普通にパワフル&スムーズ。そして今どきの車らしく、先進安全装備の類も充実している。

これの前の世代も走りはかなり良かったが、オーナーからすると「車内がちょっと狭い」「荷室もやや狭い」みたいな欠点もあったようだ。現行型ではボディを少々大きくすることで、そのあたりの欠点を解消し、だがそれでいて「かなり小回りが利く」「そもそも小ぶりなので、狭い道での取り回しもラク」という美点はまったく失っていない。

  • スズキ「ソリオ」

    現行型「ソリオ」のボディサイズは全長3,790mm、全幅1,645mm、全高1,745mm。フルモデルチェンジで全長が80mm伸びて、車内の居住性が向上した。後席は電動スライドドアだ

デザインは内外装ともさほどイケてるとは思えないが(※個人の感想です)、まぁ、車の内外装ではなく「愛の結晶=我が子」の顔を眺めていれば、デザインなどさほど気にはならないはず。かなりのおすすめである。

新車で買う場合は「ハイブリッドMX」という中間グレードが185万200円~だが、ほぼ新車の中古車(登録済み未使用車)なら、160万円くらいで探すことができる。

子育ても運転も楽しめる車その2|スズキ「ソリオ」(先代)

現行型のソリオは本当にすばらしいが(デザインがちょっと違う「ソリオ バンディット」もすばらしい)、中古車でも車両価格160万円~というのは「ちょっと高いかも」と感じるご夫婦もいらっしゃろう。何かとカネのかかる時期ゆえ、その気持ちはよくわかる。

ならば、2015年から2020年まで販売された「先代のソリオ」でどうだろうか? 先代であれば、走行5万キロ以下の「ハイブリッドMX デュアルカメラブレーキサポート装着車」がだいたい100万円くらいからである。これならば、かなり家計にやさしい。

  • スズキ「ソリオ」(先代)

    こちらは先代の「ソリオ」

まぁ、家計にやさしい分だけ、現行モデルと比べれば後席や荷室がちょい狭いわけだが、あくまで「ちょい狭い」というだけの話である。愛の結晶が2人、3人と増殖していった場合は別だが、結晶が1人であれば、さほどの問題はない。

これまた内外装デザインは決しておしゃれではないが(※個人の感想です)、まぁ、いいじゃないか。走りが良くて、なおかつ子育てにも向いているという稀有な美点だけに注目し、デザインについては「見なかったこと」にしておけば。

子育ても運転も楽しめる車その3|ルノー「カングー」(先代)

郵便局やお花屋さんが使っていそうな「フルゴネット」というボディ形状のフランス製乗用車。現在、フランス本国では3代目の新型がすでに発売されているが、これは2002年から2009年まで販売された初代カングーである。

  • ルノーの初代「カングー」

    ルノーの初代「カングー」の2世代目

これの後継モデルとして2009年9月に発売された2代目(日本では現行型)はけっこう大柄なボディになったのだが、こちら初代のボディは比較的小ぶり(全長4,035mm×全幅1,675mm×全高1,810mm)。だが、そこに無理やり3列シートを押し込むのではなく、2列のシートを余裕をもって配置しているため、手狭な感じはいっさいない。後部ドアがスライド式である点と合わせ、この車のけっこう広い後部座席と荷室は、子育てにもレジャーにもうってつけといえるだろう。

それでいて、初代カングーは「速い車」でもある。

いやもちろん、たかだか1.6L(最初期型は1.4L)のノンターボエンジンを積む箱型の車なので、加速や最高速度がどうのこうのという類の車ではない。

しかしそのフットワークは妙に軽快で、なおかつしっかりしており、癒やし系のカタチだと思ってナメた態度をとってくるスポーティーな車を、コーナーで軽くぶっちぎることもできるくらいだ(※相手が下手クソだった場合)。

だがもちろん、そんな運転はするべきではないし、愛する我が子や配偶者が同乗している際にはとりわけ、やるべきではない。

とはいえ自分ひとりで乗っているときに、ちょっと軽快かつ痛快に走って楽しんでみる――なんて使い方をする分には、かなり最高の1台なのだ。

現在の中古車相場は30万円~170万円といったニュアンスで、上下に幅広い。30万円くらいのやつはさすがにボロい場合が多く、逆に170万円級の個体は、走行3万キロ台くらいのコレクターズアイテム系である場合が多い。

もちろんケース・バイ・ケースではあるのだが、だいたいのイメージとして「車両130万円前後くらい」のゾーンで探せば、好バランスな1台と巡り会える可能性は高いだろう。

このほかにも三菱自動車工業「デリカD:5」という「箱型なのに運転自体が楽しめる車」もあるのだが、やや大ぶりなデリカD:5ゆえ、そちらは愛の結晶が2名以上になる際に検討すればよいのではないかと思う。

  • 三菱自動車「デリカD:5」

    箱型なのに運転自体が楽しい稀有なクルマ「デリカD:5」(写真は現行型)。家族がもっと増えたら検討してみたい1台だ

とにかく、結晶がまだ1名の段階で、早まって「つまらない車」を「仕方ないから」みたいな感じで買わないでいただきたい――というのが、本稿の趣旨である。

ぜひぜひ、よろしくよろしくである。