注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、TBS系クイズ番組『東大王』(毎週水曜19:00~)、6月に放送されたコント特番『キングオブコントの会』、そして10月からレギュラー化されるネタ番組『ザ・ベストワン』(毎週金曜20:00~)などの演出を担当する同局の浜田諒介氏だ。

『リンカーン』『キングオブコント』『ザ・ドリームマッチ』『お笑いの日』など、お笑い番組を数多く担当してきた一方で、日本最高峰の頭脳が集結するクイズ番組『東大王』も手がける同氏。一見遠いジャンルに思えるが、「芸人さんに対する姿勢と、東大王に対する姿勢は、根本のところではそんなに変わらないと思うんです」と語る――。


■1組1組がある意味演出家になった『キングオブコントの会』

『東大王』『キングオブコントの会』『ザ・ベストワン』演出のTBS浜田諒介氏

浜田諒介
1987年生まれ、神奈川県出身。立教大学卒業後、10年にTBSテレビ入社。『リンカーン』『キングオブコント』『史上空前!! 笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ』『笑いの王者が大集結! ドリーム東西ネタ合戦』『炎の体育会TV』『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』『クレイジージャーニー』『ザ・ベストワン』『お笑いの日』『キングオブコントの会』などを担当し、現在レギュラー番組では『東大王』で総合演出。10月からは『ザ・ベストワン』がレギュラー番組でスタートする。

――当連載に前回登場した小松純也さんが、浜田さんについて「『キングオブコントの会』でお仕事したのですが、見ていて優秀だなあと思いました」「後輩の皆さんのほうが今を感じてテレビの未来は切実に考えてると思うので、僕らはこれからどうしていけばいいのか教えてほしいです。その尻馬に乗っかってあと3年食っていけたらと願います」とおっしゃっていました。

ありがとうございます、おそれ多いです(笑)。TBSは『キングオブコント』でステージコントのノウハウはあるんですが、スタジオコントの文化があまりなくて、今回の制作チームでは撮ったことのある人がいなかったんです。演者さんが損しないための撮り方を知ってる人がいたほうがいいと思って、松本(人志)さんのコントを撮るのと、全体の監修を小松さんにお願いしました。子供の頃に散々見てきたコント番組を作ってこられた方なのでビクビクしていたのですが、ある程度自由にやらせていただいて、こんな年下のガキのわがままも聞いていただきまして(笑)

――たくさんの芸人さんが登場しましたが、やはりそれぞれコントの作り方は違いましたか?

そうですね。東京03さんやバナナマンの設楽さんは何日も前から稽古されて完璧な状態にして入られるし、ロバートの秋山さんが書かれたコントは14人も出演するコントだったのですが、ご自身と山本さん以外の12人全員に「芸歴」「事務所」など細かい設定を作られていて、事前の稽古ではその設定を1人1人に細かくお伝えして、大きな流れだけ確認して「後はキャラになりきってお願いします」という感じでしたし。そういった形で1組1組がある意味演出家になっていただいた結果、3時間という枠で毛色の違う色々なコントを見せられる番組になったのかなと思います。

――秋山さんのコントは「お昼もゴリ生!」(※)ですよね。最高でした(笑)

あのコントは30分弱回していたのですが、コント収録が終わった後に、どんな感じで編集するかは秋山さんと確認して、テロップの細かいタイミングなどを話したりしました。こちらとしては、産んでくれたお子さんを預かるようなものなので、丁寧に扱わせていただいて、皆さんが「また気持ちよく出たい」と思ってもらえるようにしつつ、とはいってもテレビ番組なので視聴率というものを目指せるところを探すという作業でした。

(※)…架空の帯バラエティ番組『お昼もゴリ生!』で、各曜日レギュラーが全員集合するスペシャル版が生放送される日の様子を描いたコント。

――最適な尺も含めて(笑)

そうですね(笑)

――TBSの編成さんは、第2弾も前向きに検討するとおっしゃっていました。

もともと、秋に『キングオブコント』をやっている中で、何とか『M-1グランプリ』に負けないような大会にしたいと思ったときに、年に1回のところをもうワンプッシュできたらいいなというのが企画のきっかけだったんです。『M-1』にできないことをしようとなると、漫才は2人がメインだけど、コントは3人でも十何人でもできるので、こういう番組ができるなと考えました。

それで、『キングオブコント』の裏側ということで、『キングオブコントの会』はコンテストの緊張感とは対照的にラフな感じにして、テロップも手書き風にしたんです。だから、みんなでコントを見るときのセットも、ステージ裏のたまりのイメージにしました。

――それで皆さん、衣装がジャージだったんですね!

そうですそうです。ステージまでつながる階段を入れていたり、実は周りを囲むセットの壁も全部コントで使った後のものなんですよ。

――3時間の放送でどんどんコントが出てきて、すごい本数でしたよね。

2日間で撮りきったんですが、ワクワクしましたね。スタジオに入るとセットだらけで、「あー、これこれ!」と思って(笑)

  • 『キングオブコントの会』(Paraviで配信中) (C)TBS

■浜田雅功が教えてくれた「芸人と同じ緊張感」の意識

――もともとコントやお笑い番組の制作志望だったのですか?

本当はフジテレビに入りたかったんです(笑)。お笑いと言えばフジテレビみたいのがあったじゃないですか。なのでTBSに入って2つやりたいことがあって、1つが『27時間テレビ』みたいな長時間のお笑いの生放送。もう1つが『ごっつ』『笑う犬』とか『ワンナイ』を見て育ってきたので、スタジオコントだったんです。この2つはどうしてもやりたかったので、『お笑いの日』と『キングオブコントの会』で、1つずつかなえていけて良かったなというのがあります。

――最初から志望通りにお笑いの番組を担当していたのですか?

はい、『リンカーン』のADからスタートしました。浜田(雅功)さんにはいろいろ教えていただいて、とにかく出演者ファーストなんですよ。1年目からフロアをやらせていただいていたのですが、段取りをミスると、手をクイクイクイってされるので浜田さんの真横まで行くんですけど、「お前リハしたんか?」「はい」「何のためのリハやねん」「本番のためです」「できてへんやないかい」「はい、すみません」「いいか、ここにいる芸人は、この収録で売れるかもしれないし、逆にダメになるかもしれない。その緊張感で来てるのに、お前らスタッフが同じ緊張感を持ってなくてどうすんねん」とおっしゃっていただきまして。耳打ちレベルのゼロ距離なんで、めちゃくちゃ怖いなと思いましたけど(笑)、その言葉は今でも収録に臨む際には常に心に留めていますね。

  • 『ザ・ベストワン』(10月から毎週金曜20:00~) (C)TBS

――ここに来て『キングオブコントの会』『お笑いの日』、それにレギュラー化も決まった『ザ・ベストワン』と、TBSさんでお笑い番組が盛り上がっている感じが伝わってきます。

今お笑いブームになってくれたので、ようやくやりたい番組がやれる風潮になってきたなと、幸運だなと思います。もちろんサラリーマンなので、自分のやりたいことだけをやるのではなく、視聴者に向けて番組は作らないといけないのですが、今のうちにやりたいことをやれるだけやれたらなと思ってます(笑)

――『キングオブコントの会』では小松純也さん、『ザ・ベストワン』では藪木健太郎さんと、いずれも志望だったフジテレビ出身の方たちから教えを請う形になってますね。

本当にラッキーでした。そこはプライドを捨てて、恥も捨てて教わって、盗めるものは盗んでいこうという感じです。本当にかわいがっていただいて、いろんなことを教えてもらってます。こっちがそう思ってるだけかもしれませんが(笑)、藪木さんはどうやって“芸人ファースト”にしていくか、その空気の作り方もいろいろ教えていただいて、ネタ番組をずっとやられているフジテレビがこうやって信頼を得て次につなげてきたんだなと、いろいろ勉強になります。TBSでもお笑いの班というのを作っていって、「笑いと言えばTBS」みたいな感じになっていけばいいなと思います。