注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、ABCテレビで数々のバラエティ番組を演出・プロデュースしてきた芝聡氏だ。

在阪準キー局の制作者として東京で仕事をする中で、「何か魅力が必要なんじゃないか」と強く意識してきたと語る同氏。そこでは、ABCの伝統だという“演者との密な距離感”が武器の1つになっているようだ――。


■ハイヒール・リンゴの一言に「この仕事やってて良かった」

ABCテレビの芝聡氏

芝聡
1983年生まれ、兵庫県出身。京都大学を卒業後、06年に朝日放送入社。大阪で『クイズ!紳助くん』『きになるオセロ』『上沼恵美子のおしゃべりクッキング』『今ちゃんの「実は…」』『ビーバップ!ハイヒール』『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』、東京で『Oh!どや顔サミット』『世界の村で発見!こんなところに日本人』『名医とつながる!たけしの家庭の医学』『これって私だけ?』『ポツンと一軒家』『志村&所の戦うお正月』『M-1グランプリ』『DRAGON CHEF』などを担当。『東西芸人いきなり二人旅(特番)』『明石家さんまのコンプレッくすっ杯』『ハッキリ5~そんなに好かれていない5人が世界を救う~』では企画・総合演出、『これって私だけ?』ではチーフプロデューサー、NON STYLE・石田明脚本の映画『クソみたいな映画』では監督を務めた。6月20日まで放送中の『支配人やってみませんか?』ではチーフプロデューサーを担当し、6月1日付で東京制作部からコンテンツクリエイト部に異動。

――当連載に前回登場したテレビ朝日の近藤正紀さんが、芝さんについて「『楽しそうに番組を作っているなー』と思うプロデューサー・ディレクターの1人で、大阪から上京してきて完全に東京に染まった1人でもあります。早く結婚すればいいのに(笑)」とおっしゃっていました(笑)

僕より田舎からきて金髪にしてる男に言われたくないですが(笑)。でも、単純に大阪から東京に出てきて、色んな方と仕事できるのは楽しいです。僕、基本ミーハーなので、いまだに「あ、芸能人や」と思ってしまうぐらいなので、それが楽しそうに映ってるんですかね。

――「楽しく番組を作る」というのは意識されている部分ですか?

バラエティなので、やっぱり現場の空気感はOAに出るものという意識があるかもしれません。『正義のミカタ』っていう大阪の番組で、本番の前に全員で顔を合わせて流れを確認するんですが、そのときにMCの東野(幸治)さんが専門家の先生とかを和ませたりして、その空気感が生放送にスゴい出るなと思いましたから。会議でも、どこかでひと笑い欲しいっていう意識もありますし、それはうちの社風かもしれないです。

あと、個人的に「大阪の局が東京で仕事する」という部分も意識にあると思います。基本的に、演者さんもスタッフさんも、同じように仕事するなら、うちよりもテレ朝さんとか日テレさんとか、東京キー局と仕事をしたほうが「おいしい」と思うんです。正直、予算の面などから言っても。ただ、東京で色んな方とお仕事したいと思っている自分としては、せめて「ABCと仕事すると面白い」とか「芝との仕事は何か楽しい」と思ってもらいたいなと意識して日々やっています。大阪の局が生き残っていくために、演者さんスタッフさんに“選んで”もらうために、何か魅力が必要なんじゃないかというのは、強く思っていることではありますね。

――これまで、どのような番組をご担当されてきたのですか?

最初は『クイズ!紳助くん』と『きになるオセロ』という「ナイトinナイト」枠のAD・Dですね。そこから『今ちゃんの「実は…」』で下っ端のロケディレクターをやらせてもらって、『上沼恵美子のおしゃべりクッキング』『ビーバップ!ハイヒール』などあって、その後、1回東京に来て、『Oh!どや顔サミット』『世界の村で発見!こんなところに日本人』を担当しました。

――東京に来て、キー局の番組の作り方を聞く機会も多くなったと思うのですが、大阪との違いはどのようなことがあるのでしょうか?

これは『きになるオセロ』の演出もされていた、大先輩の『ナイトスクープ』の名物ディレクターさんが昔言っていた言葉で、「大阪はラグビーで東京はアメフトや」と。最初に聞いたときは「何言ってるんだ?」という感じだったんですけど、東京に来てしばらくしたら、多少意味が分かってきました。東京は単純にディレクターの数が多いし、チーフプロデューサー、総合演出、演出、さらにチーフディレクターもいたりして、作戦を多くの人に伝達していく組織になっているなと。逆に大阪は『ナイトスクープ』や『相席食堂』もそうだと思うんですけど、ロケディレクター1人の裁量でかなり番組のテイストが決まると思います。それを、「ラグビーは1人で走り回ってなんとかなる」ということで例えたのかなと気付きました。

あと印象に残っているのは『ビーバップ!ハイヒール』のディレクターをやってたとき、ハイヒールのリンゴさんは、演出とかプロデューサーと打ち合わせするときに「今日のこのネタのディレクター、誰?」と言って、「どんなネタやんの?」とか「スタジオどんな構成なの?」とか、ロケDである僕に直接いろいろ聞いてくれたんです。僕が東京に異動するのが決まって最後の収録回のOA後にも、直接メールで「最後の回も数字も中身も良かったです。最後までありがとう」と言ってくださって、そのときは、この仕事やってて良かったなあと思いましたね。

――距離感が近いんですね。

そうですね。MCの方にもよりますが、『ビーバップ』のMC打ちはこっちもだいぶ緊張感がありましたね。それで言うと、スタッフをイジるのが好きな人も多いです。OAで使わなくても、「あのプロデューサーがこんなこと言ってた」とか。『過ぎるTV』の岡村(隆史)さんも、うちのアナウンサーとかスタッフと結構近い距離で認識してくださっているのを感じます。そこは、大阪と東京の違いかもしれないですね。

■ABCの黄金パターン

――その中でもABCさんの特徴を挙げるとすると、どんな点でしょうか?

これは学生時代、ABCの内定が決まってるときに、作家のそーたにさんがどこかで書いていたのを見たんですけど、大先輩の井口(毅)というプロデューサーが「『笑って・笑って・笑って・泣いて』みたいな番組をやりたい」と言っていたと。確かに、その言葉にABCの特徴が集約されてるなとは思いました。

いわゆるフジテレビさん的なおしゃれでカッコよくて面白く見せるというより、例えば『相席食堂』って、すごいバカバカしくてとんでもないお笑い回もあるけど、ちょっとホッとできる回もあるじゃないですか。その振れ幅っていうのが、ABCっぽいのかなって思います。あとで本人に聞いたら「そんなん言うたかなあ」って感じでしたけど(笑)

――たしかに、どこか人情味を感じる番組が多い印象があります。

あと、これも半分先輩の受け売りなんですけど、『必殺仕事人』…困ってる人がいる→仕事人が来る→解決する。『ナイトスクープ』…困ってる依頼人がいる→探偵が来る→解決する。『ビフォーアフター』…家で困ってる人がいる→匠が来る→解決するっていう、1個の黄金パターンみたいなのがあるなって。ドラマとバラエティでも違うのに、脈々と流れている何かがあるんだろうな、って気がしますね。だから、初めての作家さんと企画の打ち合わせをするときに、「ABCってどんな企画が通りやすいですか?」と聞かれたら、そういう「1行で言えるフォーマットがある企画が好きな局です」と答えてる時期がありました。