テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第83回は、10日に放送されたNHKの単発バラエティ番組『大悟道~これが千鳥の生芝居~』をピックアップする。

飛ぶ鳥を落とす勢いの千鳥・大悟が「脚本を書き、演出を手がけ、主演を務める」というが、生放送で内容も出演者もすべてシークレット。しかも大悟いわく、「(相方の)ノブは出さない。何もするな」らしい。

「新しい景色を見てみたいんや」という大悟は、どんなものを考えているのか。何が起こるのか、まったくわからない生放送の50分間は間違いなく刺激的だ。


■最初のセリフで噛む女優・吉岡里帆

千鳥の大悟

番組冒頭、1人で登場したノブは、「大悟に『NHKに来い』と言われまして。何も知らないんです。たぶん失敗すると思います」と困惑気味に話した。

さらに、観客の前に登場すると、「本当に信じられないでしょうけど、僕お客さんと同じ心境なんです。『何がはじまるんだ』と…この土曜日の大事なNHKで。大悟が芝居を考えたんです」「失敗すると思うんですよ。キャストも何も発表されていないんで。僕も楽しみは10、不安は100あるんですけど、ライブだと思って楽しんでください」「僕はお客さんと一緒にあそこで見ますから。どっかで見たことある演芸番組みたいに」とコメント。

ただ何となく話しているだけに見えるが、番組の主旨と自分の立ち位置をそつなく説明していた。生放送である以上、やはりこの番組のキーマンは、説明・ツッコミ・フォローのすべてをテンポよくこなせるノブなのだろう。

その内容はノブの「まさかの西部劇?」「『荒野のディーゴ』。タイトル、ダサッ!」というツッコミにもあった通りだが、ダイアンの津田篤宏とユースケ、天津の向清太朗、ネゴシックス、吉岡里帆、劇団青年座の豊田茂と高松潤、渡辺直美、間宮祥太朗が次々に登場した。

「女優・吉岡里帆が最初のセリフで噛んでしまう」「セリフを忘れて沈黙が生まれ、スタッフがあわてて出したカンペを見て話しはじめる」「抱き合うシーンで大悟の手が吉岡の顔にあたってしまう」などのハプニングから、演技ヤバい芸人として知られるネゴシックスの長ゼリフ、誰も知らない青年座の2人だけで芝居を進めはじめる、一同がとうもろこしを無言で食べるなどのハラハラまで、生放送の醍醐味が随所に感じられた。

舞台は、大悟の「この物語は『ユースケがタコだった』という話です。これにてジ・エンド」というセリフで終了。意味不明のオチに失笑が漏れる中、全員でDA PUMPの「U.S.A.」を踊り、幕は下りた。

客席からツッコミを入れ続けていたノブは、まず「お客さん、先に謝っておきます。すみませんでした」と平謝り。さらに、幕の中に入って「何やコレ?」と大悟に詰め寄り、それを受けた大悟の「こんな大成功ってあるんやな。来年また会いましょう」の言葉で番組は終了した。

■志村けんへのリスペクトがふんだんに

笑いとしては、最先端の考え抜かれたものではなく、時計の針を戻したような古典的なタイプだった。実際、大悟の「だいじょうぶだ~」というセリフにもあったように、「志村けんの番組に近い」と感じた人は少なくないだろう。もう少し広くとらえれば、生放送のシンプルな喜劇という意味では『8時だョ!全員集合』(TBS)に近いのかもしれない。

好き嫌いはあれど、徐々に視聴者を笑う態勢にさせていったのは、ノブのツッコミだろう。「(ダイアン・津田に)めちゃくちゃアジア顔やん」「吉岡里帆はこれに出ちゃダメ」「(青年座の俳優に)知らない人」「間宮(祥太朗)のムダづかい」「(天津・向に)こんなところで新ネタをおろすな」「間宮とネゴのシーン、二度とない」「モニターが丸映りやねん」「吉岡の手をさわりたいだけやろ?」「何でミュージカル?」「(ニセ平泉成の登場に)シンプルなウソ? 3人目の知らない人」「ダメな作品で~す!」。次々に飛び交うボケに「どんなフレーズでツッコむのか?」という期待感が増していったのは間違いない。

「大悟のボケにノブがツッコミを入れる」という構成は、千鳥の漫才そのもの。終わってみれば「いつもの千鳥だった」ということではないか。ただ、そもそもの話をすると、千鳥は一昨年、昨年に行われた単独ライブの中で劇団『大悟魂(だいごこん)』による演劇を行っていた。その名前は志村けんの主宰舞台『志村魂(しむらこん)』と同じであり、大悟は志村の許可を得ているという。

また、今回の『大悟道』に出演したメンバーは、青年座の2人も含めて7~8割型、過去の『大悟魂』と同じ顔ぶれだった。NHKの関係者が『大悟魂』を見てオファーをしたのか、それとも千鳥サイドからNHKに働きかけたのか。

いずれにしても、「単独ライブの構成をベースにした」ということは、すなわちプロデューサー、ディレクター、放送作家らが考えた笑いではなく、千鳥の2人が考えたものであるということ。それこそが当企画の肝であり、視聴者にとってレアな番組となった理由。関係者の思い切った仕事ぶりは称えられるべきだろう。

■ハラハラドキドキできない民放バラエティ

『LIFE!~人生に捧げるコント~』を筆頭に、NHKは民放以上にコントやネタ番組の放送に精力的で、当番組もその流れによるものであり、さらに生放送という魅力を備えていた。

これはネットの普及やテレビの立ち位置を考えたときに、「これからは生放送でのチャレンジが重要」というNHKの判断によるものなのだろうか。事実として、『おやすみ日本 眠いいね!』を見ればわかるように、NHKの生放送トライアルは民放各局をはるかにしのぐものがある。

そんなトライアルが実を結んでか、ネット上には『大悟道』への反響があふれていた。その内容は、「いい意味で最高にくだらない」「NHK攻めてるな」「民放バラエティの何倍も面白い」などの称賛と、「NHKがぶっ壊れた」「スクランブル放送にしろ」「受信料の使い方としては許せない」などの酷評で二分されるなど、まさに賛否両論。酷評が「NHKから国民を守る党」絡みのものが多いのは千鳥にとって気の毒だったが、関係者たちは一定の自信を得たのではないか。

民放のバラエティが、「似たものばかりでつまらない」「いつも同じ顔ぶれがお約束のやり取りばかり」と言われ続けているだけに、「ひさびさに笑った」という声の多さは無視できないはず。民放テレビマンたちの「視聴率やスポンサーの絡みがないNHKだからできる」は正論だが、視聴者たちは言い訳にしか聞こえないのがつらいところだ。

生放送は難しかったとしても、まずは「ネットで話題になるバラエティをどう作っていくのか」を突き詰めていかなければならないだろう。作り手が頭の中で作り上げたサプライズではなく、視聴者が生放送のようなハラハラドキドキを味わえるバラエティが求められている。

■次の“贔屓”は…人気芸人が集う日本一豪華なネタ番組!『ENGEIグランドスラム LIVE』

『ENGEIグランドスラム』MCの(左から)矢部浩之、岡村隆史、松岡茉優 (C)フジテレビ

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、17日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『ENGEIグランドスラム LIVE』(19:00~23:10)。

漫才、コント、ピン芸、音楽ネタ、モノマネ、落語など、あらゆるジャンルのネタを披露する演芸特番であり、2015年5月の第1回からすでに12回を放送。大物芸人たちがネタを披露するという希少さに加え、昨秋の前々回から生放送に変わり、ますます視聴者・業界関係者ともに注目度を増している。

さらに今回の放送では、「令和によみがえりたいキャラお化け屋敷」と題して、一世を風靡したお笑いキャラを集め、「視聴者投票で最もよみがえらせたいキャラ」を決めるという。生放送ならではの挑戦的な企画だけに注目していきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。