■1問目は厳しく、2本目は厳しめ

一方、「イケメンタル」は入場シーンからじっくり見せ、JOY、武田真治、声優・木村昴、NORD・島太星、高橋克典、山田孝之の順で登場……さらに松本が現れ、高橋と山田に「なぜここに?」と視聴者の疑問をきっちり尋ねるシーンを最初に見せた。

この構成を見て感じたのは、「いかに面白いメンバーをそろえたか」というスタッフサイドの揺るぎない自信。視聴者の興味を引き出した登場の段階で、高橋と山田にアドバンテージが生まれ、優勝候補筆頭に浮上したのは間違いない。

最初のネタは島。「一番知名度が低いので」という理由から自己紹介で徳永英明の歌を披露するが「徳永英ノリ」と名前を言い間違えて笑いを誘った。この音楽ネタに呼応したJOYがカバーCDを見せて歌いはじめ、木村がコーラスに入ってハモると克典が笑い出し、1人目のイエローカードを食らってしまう。

さらに、木村がラップを歌いはじめてJOYが呼応し、「お前も入ってこい」と振られた克典が「プッ」と吹いてしまい審議されたが、松本は「驚いただけ」という本人の主張を受け入れて「次は軽くでも退場」と判断して事なきを得た。これは勇気を持って参戦し、未披露のネタが残っていた克典への忖度ではないか。ただ九死に一生を得たからこそ克典のネタに期待できるはずだ。

再びラップを始めた木村とJOYにタキシード姿で現れた山田も呼応し、「SPICY MUSTARD」のコスプレをした克典も乱入。続いて武田がヘリウムを吸った上で得意のサックスを披露したが、ボウリングピンのコスプレにチョビヒゲをつけた克典がここにも乱入。さらに克典がヘリウムを吸って話したことで、山田がわずかに笑ってイエローカードを食らってしまった。山田は「今ぐらいならいけると思ったんだけどダメなんだ……」と意気消沈したが、「1枚目のジャッジは厳しく、2枚目は甘め」がこの企画を盛り上げる上でのジャッジ基準なのだろう。

ここから、島が「人とお尻の位置が違うから見てほしい」と尻を出してポラロイドを撮り、局部写真を目の前で見せる。JOY考案の「JOY・ユージゲーム」からのラップでJOYが克典を狙う。木村昴のフォトブックに谷村新司の「昴」が入っているなど、それぞれがネタを披露。

ただ、場の空気を一気に変えたのは克典。『特命係長 只野仁』(テレビ朝日系)のコスプレで登場した上に、くまだまさしのサングラス芸という斜め上をいくネタを見せた。さらに克典は、チョビヒゲ+ガタガタの付け歯で武田を追い込むなど、最年長の主演級俳優がここまでやると他のメンバーは必然的にかすんでしまう。

■『全裸監督』『WATER BOYS』の複合技

その後、JOYが口いっぱいにマシュマロを詰め込むネタに挑むが、むせながら笑ってしまい自爆のイエローカード。さらに克典から「最近太ったのでミット打ちをつき合ってほしい」と言われた武田が応じるが、まさかのクリンチばかりで、島が笑ってしまいイエローカード。

イエローカードが連発したところで山田が動き出す。まずは「エンヤの曲に合わせて爪を切っていき、情感たっぷりに手を見上げ、克典の手を取って踊り出す」というミュージカル的なシュールネタを見せ、続けざまに『全裸監督』(Netflix)の村西とおるで登場。しかし、なぜか「シンクロやらない?」と主演ドラマ『WATER BOYS』(フジ系)にかぶせて全員にやらせていった。真逆の主演ドラマをミックスさせられるところに山田のすごさが凝縮されている。

山田は「島だけをスルー」という小ボケを見せたあと、「シンクロやりません!」「お前らナメてただろ?」「私はずっとナメてますよ。いくらでもナメてきましたよ」「お前はもう帰れ! バカみたいな顔しやがって!」と突然キレ始め、JOYの「ナメられたらナメ返す」に「ナメ返し」と返すアドリブの強さを見せた。さらに、山田は横笛でスキャットマン・ジョンを吹き始めた武田の笛を「ナメてんのか」と叩き落とすキレ芸をたたみかけて笑いを連鎖させていく。

ただ、動きが出たのは木村とJOYのラップバトル。再び巻き込まれた克典が笑ってしまい、ついに退場者となってしまった。また、島がメイク前の自撮り写真にIKKOの写真を混ぜ、その下に再び尻穴の写真を映して木村が思い切り笑ってしまいイエローカード。これも一発レッド級の爆笑だった。

ここで山田がおばたのお兄さん風の花沢類コスプレで登場し、「まーきの。もしかしてお前も花沢類か?」と振られた島が笑ってしまい退場。さらに山田は、高田純次のモノマネ+足下はフィギュアスケートシューズという微妙なネタを見せた武田に、「どういうつもり? 何をやってるんすか?」と迫りつつ、武田が再び横笛スキャットマン・ジョンを吹くと山田がたたき落とす。山田はそのまま曲に合わせてヌンチャクで武田の頭を叩き続ける大暴れを見せた。

ちなみにこのとき、JOYと木村は現場にいなかった。着替えていると思いきや、笑いをこらえるためにJOYは逃げただけでそのまま戻り、木村はフワちゃんに扮して登場するも、山田のヌンチャクがさく裂。最後も山田が「試してみたい。SかMか知りたい」とケツバットをしてもらうが、そのままみんなでケツバットし合うというカオスなムードで終了した。

■次回は芸人の意地が見られるか

終了音が鳴り響いたとたん、山田が「ふつうになんか疲れちゃった」とつぶやき、他のメンバーは声が出ない状態まで追い込まれていた。後半は山田の独壇場であり、誰がどう選んでも優勝だろう。

松本も「攻撃がすごかった」と語っていたように、爪切りエンヤ、全裸監督、笛とヌンチャク、花沢類など、大型のネタをたたみかける圧勝劇。「女子メンタル」8人に対して「イケメンタル」6人と少数精鋭だったが、笑いの爆発力と密度の濃さは大きく上回っていた。

やはりその立役者は山田孝之と高橋克典で、主演俳優としての格と、そこからネタへのギャップが大きい分、他のタレントよりも笑いの強度があり、「本家『ドキュメンタル』に出演していたとしても優勝争いに食い込めたかも」という可能性を感じさせた。

そして2人の姿を見て思い出したのは、1970~80年代の昭和期に放送されていたバラエティ。トップアイドルや俳優たちがコントやモノマネに全力投球していたころのような華やかさと王道感を感じてしまったのだ。それこそテレビならではの魅力であり、企画次第では、まだまだあのころに近い熱気を取り戻せるのかもしれない。

松本はエンドトークで、「すごくみなさん、いろんな方に出ていただけて、これだけ一生懸命やっていただいてうれしいんですが、もう芸人の境界線を乗り越えて来やがったな」「これはうれしい悲鳴ではあるんですが、我々も、というか芸人もうかうかしていられんなという革命的な番組になったんじゃないですかね。今日はみんな全員で大きい布団で寝たいね」と満足げに語っていた。

もちろん人選は重要だが、『ドキュメンタル』の派生企画は次回も間違いなく放送されるだろう。番組は松たか子による「お笑いの可能性を探究するまっちゃんの実験はまだまだ続く」というナレーションで幕を閉じたが、今回はその実質的な実験はなかったのではないか。

実際、昨秋に放送されたコーナーの「大喜利警察」と「コーデ寄席」は続行されなかったが、これに代わる別アングルの実験企画はなし。くしくも松本が今回のオープニングで、「第1弾の評判がよすぎたので、誰も『まっちゃんねる』と(いう番組名を)言わなくなって『女子メンタル』って言われる」と話していた言葉が示唆に富んでいた。

「女子メンタル」「イケメンタル」と並び立つ企画が生まれない限り、放送しづらいし、それができなければ、『まっちゃんねる』という番組名である必要性はないのだろう。だからこそ松本の「芸人の境界線を越えてきやがった」というコメントには、「次は見てろよ」「芸人の力を見せてやる」という思いを感じてしまった。

次回の『まっちゃんねる』は、8月28日・29日に2夜連続で生放送され、松本人志も出演し、同じ中嶋優一チーフプロデューサーが手掛ける『ラフ&ミュージック~歌と笑いの祭典~』の中で見られるのなら楽しみだ。

■次の“贔屓”は…あえてアーティスト1組に絞った効果は?『MUSIC BLOOD』

田中圭(左)と千葉雄大

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、25日に放送される日本テレビ系音楽番組『MUSIC BLOOD』(毎週金曜23:00~)。

田中圭と千葉雄大がMCを務める今春スタートの音楽番組で、「毎週1組のアーティストを迎え、今も血液として自分に流れるエモい話をトークとライブでひも解く」というコンセプトで放送されている。

「前日発表」されるゲストには、ここまでsumika、マカロニえんぴつ、東京スカパラダイスオーケストラ、Novelbright、森山直太朗、MAN WITH A MISSION、OMI(登坂広臣)、日向坂46、DISH//、緑黄色社会、乃木坂46、BTSが出演。ネットの発達で誰でもスターになるチャンスが広がる中、「あえてたった1組の人気アーティストにフィーチャーする」という時代に逆行するようなコンセプトは成功を収めているのか。