テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第11回は、12日に放送された『NEO決戦バラエティ キングちゃん』(テレビ東京系、毎週月曜24:12~)をピックアップする。

同番組は「芸人たちが芸能界で生き抜くスキルをオリジナル競技で競い、新たな王者="キングちゃん"を生み出そう」という自由度の高いバラエティ。一昨年7~12月の第1シーズン、昨年4月~6月の第2シーズン、今年1~3月の第3シーズンと、"準・通年放送"のような状態で推移しているのは、コアな視聴者を持ち、出演者とスタッフに愛されているからだろう。

今回のテーマは、「ささやいて面白くしろ! 第4回エキストラプロデュース王」。千鳥・大悟と銀シャリ・橋本直が、三四郎・相田周二、バイキング・西村瑞樹、マテンロウ・アントニー、平嶋夏海、黒澤ゆりからを遠隔操作で操り、「そのことを知らないターゲットの女性タレントをどれだけ笑わせられるか」を競い合った。

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    『NEO決戦バラエティキングちゃん』MCの千鳥

ドッキリ常連の西村瑞樹とアントニーが仕掛け人に

1stステージは、「新番組オーディションに挑む3人のうち2名を大悟と橋本が操り、何も知らないもう1人のアイドル・古橋舞悠を笑わせる」というシチュエーション。

操られるのは、1月23日放送の「今ヤリにいけるアイドルGP」(どんな仕事にもハマりにいく強い気持ちを持ったアイドルをドッキリ形式で探す)で見事な"ヤリドル"となった黒澤ゆりかと、元AKB48の25歳で「何でもヤリに来ました!」と意気込む平嶋夏海。

さっそく橋本は、平嶋に応援団風で「フレーフレー平嶋!」と応援させ、大悟は黒澤に「足立区でチンピラやってます。電線泥棒とか質の悪いタイプ。名前はホタルイカゆで美です」とボケさせる。

さらに橋本は、平嶋にTIMの「炎」「命」をやらせたあげく、「あ、今おっぱい見たでしょ!」と激キレを指示。平嶋はそんなムチャ振りに応え、ザ ツネハッチャンの「右乳(ヒジ)左乳(ヒジ)交互に見て」もヤリ切った。一方の大悟も黒澤に斉藤ディレクターとの愛人関係をにおわせたほか、死んだフリをさせたり、相撲を取らせたりと負けていない。ちなみに、ネタばらしのあと、「どちらが面白かったのか」、古橋が選んだのは平嶋だった。

続く2ndステージのシチュエーションは、「偽番組収録前の打ち合わせでアイドル・岡田彩花を笑わせる」。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などで何度となくドッキリのターゲットとなってきたアントニーと西村瑞樹が、ここでは仕掛け人側に回るのが面白い。

橋本の指示で露骨に眠そうな顔をし、「アントゥニー」と呼ぶことを要求するアントニー。大悟の指示で「今ハマってるのはアメリカの陰謀」「トランプ(大統領)はロボット」「1回電池切れたよね。確実に止まった」「渡辺謙から聞いた」とたたみかける西村。自分で考えたネタではない無責任さからか、伸び伸びとやり切っている様子がダイレクトに伝わる。

その後、アントニーから相田周二にしれっと交替したのだが、岡田は「誰ですか?」とキョトン。三四郎と小宮は知っているが、相田のことは知らなかったのだ。しかし、めげない相田は、西村の「相田を小宮にする"秘孔"を突いてあげる」というフリを受けて、小宮のモノマネを披露。笑いを誘うほどソックリな声だったのだが、岡田は小宮の顔だけで声を知らなかった。最後は、相田による「相田と小宮が交互に出てきてせめぎ合う」地獄のような1人芝居。そこに福山雅治が加わり、相田、小宮、相田、小宮、福山……という1人3役芝居が見られた。

しかし、オチはそこではない。岡田が相田を勝者に選んだ理由として、「一般人(の相田)が頑張っていたから」という二段オチで締めくくったのが、いかにも芸人を骨の髄までしゃぶり尽くすこの番組らしい。

苦しいけどウケたときの快感が忘れられない

放送終了後、「相田ってこんなに面白かった?」「西村がめちゃくちゃ生き生きとしてた」。番組を見た私の知人たちから、そんな声が届いた。その通り、こんなに楽しそうな芸人たちの姿はなかなか見られないし、彼らの心境は「笑いを取れたらもうけもの。スベらさせられて本望」。操る側の大悟と橋本も含め、笑いが止まらない企画なのだ。

時間をかけて練られた漫才やコントは素晴らしい。しかし、芸人たちのスキルやキャラを引き出すのは、形を整えたものだけではないだろう。即興力、アドリブ力……火事場のクソ力と言うべきか。芸人たちはデビュー直後から、劇場の控室、移動中の車内、仕事後の居酒屋などで、先輩たちから当番組のようなムチャ振りを受け、火事場のクソ力を要求されている。

「苦しいけど、ウケたときの快感が忘れられない」という感覚、「台本では作れない爆発的な笑いを生み出したい」という本能。台本を細かく書き込んだバラエティが増え、セリフのようなやり取りを要求されがちな中、芸人たちは当番組に出ることで、そんな感覚と本能を蘇らせているようにも見える。

そもそも、消費スピードの速さや制作費の削減が進む一方の今、ネタを作り込む番組をレギュラーで続けるのは難しくなっている。ならば当番組のような火事場のクソ力を引き出す企画をやればいいのではないか。

このままでは、「台本通りのことしか言えないイエスマン的な芸人ばかりになってしまう……」。一人よがりかもしれないが、「台本を細かく書き込んだバラエティがゴールデンタイムを独占し、当番組が深夜帯でしか放送されない」という現実が、そんな心配を抱かせる。

ただ、今シーズンの放送は、来週3月20日で終了。知人の雑誌・新聞・ウェブ記者たちは、「取材していてこんなに楽しい番組はない」と口をそろえる。そんな自由奔放が許され、予測不可能な空間に私も足を踏み入れてみたい。私も「第4シーズンでは、ぜひ取材させてもらおう」とたくらんでいる。

来週の贔屓は…まさかのゴールデン進出!『10周年だよ! にじいろジーン 世界で大変身SP!!』

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桃井かおり(左)と山口智充=『10周年だよ! にじいろジーン 世界で大変身SP!!』より(カンテレ提供)

来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、20日(21:00~)に放送される『10周年だよ! にじいろジーン 世界で大変身SP!!』 (カンテレ・フジテレビ系)。同番組は土曜朝の定番情報バラエティだが、放送10周年のお祝いとしてゴールデンタイムに初進出するという。

その内容は、「ロス在住8年 桃井かおりの豪邸をぐっさんが訪問」「アンガールズ・田中卓志といとうあさこが奇跡の最新美容で大変身」「かたせ梨乃、中村昌也ら闇を抱えた芸能人が心の大変身」「日本じゃありえない! 世界各地のびっくリフォーム」「もう一度見てみたい! ミラクルチェンジBEST3」と、かなりのボリューム。"カンテレ開局60周年特別番組"という、とびっきりのゴージャス版だけに見逃せない。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。