テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第1回は『芸能人格付けチェック!2018大予選会』(ABC・テレビ朝日系、1月1日16:00~17:30)をピックアップする。
「数ある正月番組の中でこの番組?」「なぜ本選(『芸能人格付けチェック』)ではなく予選?」と思うかもしれないが、とにかく面白い。お笑いファンにとっては、『爆笑ヒットパレード』(フジテレビ系)とともに、「これを見ないと元日を迎えた感じがしない」と言われる番組になりつつある。
夜に放送された本選は、YOSHIKI&GACKTコンビの活躍もあって視聴率19.6%を記録(ビデオリサーチ調べ・関東地区)したが、5.8%だった『大予選会』も、笑いの数とインパクトでは負けていなかった。
罰ゲームのために作られた番組
同番組のコンセプトは、「『芸能人格付けチェック』の出場権を賭けて芸人たちが競い合う」。ダチョウ倶楽部、FUJIWARAらベテラン・中堅から尼神インター、ガンバレルーヤら若手まで12組24人の芸人が集結したが、今年もその理不尽さは健在だった。そもそもこの大予選会は「本選の出場枠を選ぶ気なんてない」どころか、「番組内容も本選と一切関係ない」まったくの別番組。同じなのは、MCの浜田雅功とヒロド歩美アナだけだ。
番組の第一声は、浜田の「今年も救急車に乗るぞ~!」。そもそもロケ地が「栃木県岩舟町」という山間の田舎町であるのは、「壮絶なロケをやるから」にほかならない。というより、すべて出題は単なる前振りに過ぎず、罰ゲームをするための番組なのだ。
1問目の罰ゲームは、白・赤・黒の粉が順番に浴びせられる「格付け歌舞伎タイフーン」。3色で歌舞伎の隈取(くまどり)になるという意図なのだが、芸人たちは息ができないほどの粉まみれにされたあげく、全身真っ赤になっただけだった。
2問目の罰ゲームは、"冷え冷え衣地獄"と"アツアツ油地獄"に襲われる「格付け天ぷら」。しかし、不正解者だけでなく、正解者も地獄に落とされてしまった。
3問目の罰ゲームは、不正者にミサイルが発射され、大爆発が起きる「格付けミサイル」。正解発表前にデモンストレーションで、人物パネルをこっぱみじんにするお約束もあり、芸人たちを恐怖に陥れた。
4問目の罰ゲームは、不正解者を張り付けにした壁が、泥水に勢いよく倒される「格付け張り付け」。ここでも息ができず、脱出不可能の芸人たちが悲鳴をあげた。不正解者・藤本敏史が「正解のほうもやれよ! いつものパターンで」と捨てゼリフをあげると、浜田は「(不正解者を)もう1回行こうかな」でお仕置き。
元気とカラ元気の間で生きる芸人魂
ここまで書いておわかりと思うが、罰ゲームのレベルが他番組とは2ランクくらい違うのだ。本気で嫌がり、本気で怖がるリアルさが、「芸人としてオイシイ」と言えるレベルではないことを証明している。
罰ゲームの過激さは、「現在では絶対に放送不可能」と言われる『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』(日本テレビ系)と同等レベル。だから、「希少価値が高い」のは間違いなく、「古典的な笑い」でもあり、「理屈抜きで笑える正月らしさ」もある。
決勝戦には、バイきんぐと尼神インターが進出したが、その基準は不明。言わば「最後の罰ゲーム『格付けハイジ』要員」であり、それ以上の意味合いはないだろう。クレーンで地上30mに吊り上げられた誠子は絶叫、渚は目を閉じて「無理無理」、西村瑞樹は恐怖で震え、小峠英二は「これヤバイよ」だけを連呼。不正解者はブランコのようにアルプスの景色が描かれた巨大絵に激突させられるのだ。しかし、ここでもお約束で、両コンビとも巨大絵に激突させられてしまった。
爆破にしろ、4台のクレーンにしろ、そのスケールは芸人冥利に尽きる罰ゲームばかり。本来喜んでしかるべきものなのだが、「それでも怖すぎる」とビビりまくる芸人たちの矛盾が、レアな笑いを生んでいる。最後は芸人たち全員で、「格付け!格付け!」の大合唱。妙な一体感と言うべきか、年に一度のキツイ仕事が終わった安堵感なのか。元気とカラ元気の間で生きる芸人魂が見えた。
ところが、これほど怖い思いをして本選出場を勝ち取った尼神インターは、最終問題で「映す価値なし」に転落し、画面から消えてしまう…。この展開も大予選会出演者のお約束であり、重要な仕事と言えるだろう。とかく「最近のバラエティ番組は予定調和ばかりでつまらない」と言われるが、同番組には予定調和の美学があるのだ。
来週の"贔屓"は…テレビマンの夢も詰まった正月の超定番
来週に放送される"贔屓"の番組は『さんま・玉緒のお年玉 あんたの夢をかなえたろかスペシャル』(TBS系、1月8日21:00~22:54)。こちらも24回目を数える正月番組の超定番だが、今年も幼児から高齢者まで約1万人に夢を尋ね、実現するまでの様子を追いかけている。
スケールの大きなもの、かわいらしいもの、バカバカしいもの……。夢の種類は多彩だが、この番組には「テレビの力で夢をかなえてあげたい」というテレビマンたちの夢も詰まっているだけに、業界内の注目度も高い。
『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)、『ドキュメント72時間』『ノーナレ』(NHK)などでドキュメンタリー番組の人気が上がり、それ以外でも一般人を追いかける番組が増える中、老舗番組としてどんな違いを見せるのか。近年、番宣絡みの夢実現が増えているだけに、アッと驚かされるようなものを期待している。
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。