毎週同じ映画のCMを見ているような、そんな錯覚を起こした方もいらっしゃるかもしれない。日本テレビ『金曜ロードSHOW!』が、3週連続でジブリアニメを放送したのだ。今年は戦後75年なので『火垂るの墓』が放送されるのかなと思ったのだが、その予想は見事に裏切られ、『となりのトトロ』⇒『コクリコ坂から』⇒『借りぐらしのアリエッティ』というラインナップ。ロスジェネ世代には『となりのトトロ』以外、あまりなじみのない作品であるものの、それも狙いだったのだろう。とにかくファミリーで見られるもので視聴率を取ろうということではないのか。
編成マンの端くれの筆者としては、この『金曜ロードSHOW!』(以下、金ロー)のラインナップが気になってしようがない。この枠が、他局のドラマから名指しで批判された"珍事件"があったためだ。
遡ること18年前。2002年1月クールでテレビ朝日は、金曜夜のドラマとして『TRICK2』を放送した。仲間由紀恵演じる自称天才マジシャンと、阿部寛演じる物理学教授の凸凹コンビが、奇怪な事件などを解決していくこのドラマは好評を博し、パート2が決定。放送時間は午後11時15分だから、通常時午後11時前に終わる金ローの影響は受けないと思われるだろうが、そこが違った。何とこの日、金ローは拡大編成。ソフトは『風の谷のナウシカ』だったのだ。1984年公開で、説明不要のアニメ映画の金字塔。その作品を日テレは『TRICK2』にぶつける形で編成したのだ。
華々しく迎えるはずだった初回放送と、その出鼻を挫くナウシカ。しかし、『TRICK2』がすごいのは、その逆境を利用する演出。仲間の母親役を演じる野際陽子の書道教室で子どもたちに書かせた言葉が、何と「なんどめだナウシカ」だったのだ。その際の野際のセリフがさらに秀逸。「力強くね。ちょっと怒った感じで」と子どもに指導しているのだ。そんなところからも分かると思うが、金ローのラインナップは裏の局のコンテンツ、特にドラマの初回を意識していると言わざるを得ない。そんな昔の話、まだ続いているのと思われるかもしれないが、それが令和になっても、えぐいくらいに続いている。
金ロー vs 『MIU404』
最近の例を挙げよう。6月に金ローは、視聴者リクエスト企画を展開している。コロナ禍で新しい映画の封切りも見送られる中で、最新映画に関連づけるソフトを流せないのであれば、視聴者のリクエストを募って、昔の作品で数字の見込める映画を流せばいいのではという非常に分かりやすい企画。そこで白羽の矢が立った、いや、視聴者がリクエストしたのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下、『バック~』)だった。それを単純に裏局の新ドラマにぶつけるのでは芸が無い。何せ『バック~』は3部作で、3回も放送できる……というわけで、3週連続で放送したのだ。
次に考えなければいけないのは、3部作のうちの何回目を新ドラマにぶつけるかだ。今クールで言うと、TBSの金曜ドラマ「MIU404」がその対象だが、日テレ側が初回放送日を把握していたかは定かではない(実際、コロナ禍でドラマ制作が難しくなり、4月始まりのはずが大幅にずれ込んでいた)。であれば、「ええい、3部作のどれかに当たって、視聴率をもぎ取ってくれ」と、初回が予想される前後の週に編成するよう動くであろう。しかし、今回の場合、その編成の順番からは事前に把握できていたような印象を受ける。何故か。3部作の最終話『バック~PART3』を、「MIU404」初回にぶつけたのだ。金ローのページにはご丁寧に「いよいよ完結! リルタイムで見よう!」と題して、PART3に至るまでのあらすじを紹介し、10倍楽しく見てほしいと呼びかけている(ホームページは直前に更新できるので、把握したタイミングはここからは分からないが)。PART1、PART2と見て、PART3を見逃すわけにはいかない。連続ドラマのように、連続して映画を放送し、そのクライマックスを見事に当ててきた形だ。
さて、そんなこんなで金ローの猛攻を受けた「MIU404」だが、何とか持ちこたえて高視聴率を獲得。最終回も拡大スペシャルとなった。筆者も見ていたが、星野源に綾野剛、菅田将暉ときたら、若い層はどうにもこうにも見てしまうだろう。ってことは、金ローは必ずしもここだけを意識したわけではない? そう、実は金曜夜のテレビ視聴の動きが大きく変わってきていることもラインナップに影響を与えている可能性がある。この部分についてはまた別途。
ちなみにきょう9月11日にスタートするドラマ『キワドい2人』(TBS系)の裏で、金ローは『名探偵コナン』のテレビスペシャル(2016年放送)。来週も『コナン』なので、やはり令和もぶれぬ戦略だ。