閑散とした観客席にコロナ対策の数々。東京シティ競馬(TCK、大井競馬場)内の雰囲気は、以前と比べて明らかに異なっていた。なんともいえない思いを抱きながらレースを見守っていたその時、賞典台前に人が集まっているのに気がついた。これは何かあるに違いない。さっそく向かってみた。
大井のレジェンド・的場文男騎手が快挙達成!
賞典台前に到着すると、そこでは今秋の褒章において黄綬褒章を受章した的場文男騎手のセレモニーが行われていた。
的場騎手といえば、歴代最多の地方通算7,316勝(11月3日現在)を挙げたレジェンドジョッキーだ。大井競馬はもちろん、日本競馬界を代表する騎手の1人である。47年間の騎手生活で達成した数々の偉業や若手騎手の模範となる姿勢などが評価され、今回の受章にいたったという。
セレモニーで的場騎手は「もういい年齢なので、体力的にそろそろ限界を感じることもあります」と思わずドキっとする発言。しかし、続けて「ただ、もう少し大井競馬場にファンが戻ってくるまで、頑張らなければいけないと考えております。大井競馬場はこれからもずっと続いていきます。大井競馬場は不滅です」と語った。
的場騎手の熱い思いが込められたこの言葉を聞き、1人の競馬ファンとして胸に熱いものがこみ上げてきた。
競馬場の新たな縁起物アイテムを発見
セレモニーを見届けた後は再び「L-WING」に入り、1階にあるグッズショップ「Champions TCK」に向かった。JBC(ジャパンブリーディングファームズカップデー)ならではのアイテムはないかチェックしようという魂胆だ。
すると、JBCっぽくはないが店頭に「騎手印」なるアイテムを発見。さっそく店員さんに話を聞いた。
――すいません。あそこにある「騎手印」ってなんですか?
店員さん:11月1日に販売を始めたばかりのいわゆる御朱印ですね。印影は各ジョッキーの勝負服がモチーフになっています。
――それぞれ書いてある言葉が違いますね?
店員さん:それは各ジョッキーの好きな言葉になっています。的場さんだと“根性”ですが、いかにも的場さんらしいチョイスですよね。
――なるほど。これはここだけで販売されているものなんですか?
店員さん:そうです。と、いいたいところですが、実はイトーヨーカドー大井町店やオンラインショップでも販売しています。
――そうなんですね。ところで、今日はJBCにちなんだアイテムってあるんですか?
店員さん:通常であれば準備するんですが、今回はコロナ禍での開催で、来場できるお客さんが限られていることもあって、JBC限定グッズというのは用意していないんですよ。
こんなところにもコロナの影響はあるらしい。とはいえ、せっかくなので的場騎手の「騎手印」(330円)とTCKオリジナルの「御朱印帳」(2,200円)を購入することにした。
TCK所属馬が快挙を達成!
「Champions TCK」での買い物を済ませ、あたりが夕闇に包まれ始めた頃、いよいよ本日のメインイベントとなるJBC競走の時間となった。1日でJpn1競走3レースが行われるダート競馬の祭典「JBC」も、今回が節目の20回目。TCKでの開催は2017年以来8度目となる。また、今年は北海道・門別競馬場に「JBC2歳優駿」(Jpn3)が新設され、史上初の2場開催としても注目を集めていた。
最初に行われたのが、ダート女王決定戦となる「JBCレディスクラシック」だ。全15頭が出走する中、前哨戦を快勝しているマルシュロレーヌに人気が集中。最終的なオッズは単勝1.3倍と圧倒的な支持を集めた。ついで、過去2年の同レースではいずれも3着に敗れているファッショニスタが8.2倍と離れて2番人気につけ、船橋競馬所属の森泰斗騎手を背に挑むマドラスチェックが8.6倍で続く。ここまでが一桁人気となっていた。
レースは好スタートからすんなり2番手につけたファッショニスタを内からマークするようにマドラスチェックが3番手を追走。マルシュロレーヌは7番手から徐々に外めを押し上げ、先を行く2頭を視界にとらえて4コーナーを回っていく。
最後の直線に入るとファッショニスタとマドラスチェックが抜け出し、勝負は2頭のマッチレースに。互いに譲らぬ激しい叩き合いの行方は、アタマ差でファッショニスタに軍配が上がった。マルシュロレーヌは追い上げるも、さらに3馬身離れた3着だった。
まだ余韻が残る中、続いて行われたのがダート短距離王を決める「JBCスプリント」だ。「JBCレディスクラシック」とは一転して人気が割れ、3.8倍から5.9倍のオッズ間に4頭がひしめき合う混戦模様。そして、このレースはTCK開催のJBCのハイライトともいえる結末を迎えることになる。
有力馬の1頭である浦和競馬所属のブルドックボスが出遅れる中、主導権を握ったのは今年の「高松宮記念」(G1・芝1,200m)を制しているJRA(中央競馬会)所属のモズスーパーフレア。
激しい先頭争いを制すとそのまま軽快に飛ばし、逃げ切りも頭をよぎった瞬間、8番人気のサブノジュニアがものすごい脚で追い上げ、ラスト50m手前あたりで逆転。そのまま一気に突き抜けた。
勝ったサブノジュニアはTCK生え抜きの競走馬で、鞍上の矢野騎手とともにこれが嬉しいJpn1初勝利。この快挙に喜びを隠せないファンの姿も確認できた。また、サブノジュニアの父・サウスヴィグラスは第3回の同レースを制しており、親子制覇のおまけもついた。
そして、メインとなる「JBCクラシック」には、6月の「帝王賞」(Jpn1)で国内無敗記録を7に伸ばしたクリソベリルが登場。ほかにも大井巧者のオメガパフュームや昨年覇者のチュウワウィザードなどダートの強豪が顔をそろえ、さながらオールスター戦といった様相を呈していた。
注目のレースはというと、終始3番手でレースを進めていたクリソベリルが最後の直線でギアを上げると一気の伸び脚で先頭へ。後はそのまま突き抜けるという横綱相撲で完勝。国内無敗記録を8に伸ばした。
さまざまな制限が敷かれる中での開催となった今年の「JBC」。何よりの収穫は、ルールを守って競馬を楽しむファンの姿だったように思える。ちなみに、この日の来場者数は777人であったとのこと。この数字が競馬界の明るい未来を指し示すものであってほしいと願わずにはいられない。
明るいといえば、大井競馬場では現在「東京メガイルミ2020-2021」が開催中だ。コロナ禍において不安を抱える日常の中、数少ない癒しの場として、広大な敷地を使った大規模イルミネーションをぜひ楽しんでほしい。