電車は線路を走る。バスは道路を走る。これは子どもでもわかる常識だ。ところが世の中には例外がつきもので、名古屋には専用軌道を走るバスがある。外観は路線バスそのもの。ディーゼルエンジンを搭載し、舗装された路面をタイヤで走る。しかし、法規上は軌道、つまり路面電車扱いだ。鉄道のフリをしたバス路線、いや、バスの姿をした鉄道だ。一体、他のバスとどう違うのだろうか。

路面電車扱いのバス「ゆとりーとライン」写真は名鉄所属時代

他のバスとの違いはここ

専用区間を走るから軌道扱い、つまり鉄道の仲間なのだ

鉄道のような扱いを受けるバス路線とは、名古屋ガイドウェイバスが運営する「ガイドウェイバス志段味線」だ。区間は大曽根駅(JR中央本線・名古屋鉄道・名古屋市営地下鉄)から名古屋市守山区の小幡緑地駅まで。ここは一般道路ではなく、このバスのための専用区間になっている。この連載の第72回でも説明したように「専用の軌道設備を有し、他人のために輸送を行う」という鉄道の定義に合致する形態だ。

ただし、ほとんどのバスは小幡緑地駅から先、一般道路を走行して高蔵寺駅(JR中央本線・愛知環状鉄道)や志段味スポーツランドなどへ向かう。これらのバス路線を総称して「ゆとりーとライン」という愛称が与えられている。開業当初は名鉄バス、ジェイアール東海バス、名古屋市交通局のバスが運行していた。しかし現在は名古屋市交通局のみが運行している。

ガイドウェイバスの専用軌道

ガイドウェイバスの「駅」

「ガイドウェイバス志段味線」の軌道はバス専用道路のように見える。ただし、この区間は専用の車両しか入れない。「ガイドウェイバス」の名の通り、案内軌条が設置されている。軌道の両側にレールがあって、バスには走行用のタイヤの他に、案内軌条に従うための車輪がついている。玩具の「ミニ四駆」のような仕掛けである。この専用設備を持っているため、バス車両は無軌条電車(トロリーバス)の法律が適用される。ディーゼルエンジンで動くのに、法律上は電車と呼ばれる。こんな珍しい車両も日本ではここだけだ。

ガイドウェイバスの専用区間は、都心部の道路渋滞を避けるために、公道上に路線バス専用の高架区間を作った。つまり、法律的には軌道法に基づいている。路面電車と同じ扱いである。ただし、郊外の道路が空いている区間は通常のバスとして運行する。鉄道の定時性と、バスの路線設定の弾力性、そして1両あたりの運行コストの低さというメリットをもつ形態、鉄道とバスのハイブリッドとも言える画期的なシステムだ。