羽田空港の新国際線ターミナルが開業した。羽田空港へのアクセス路線としては、京急電鉄と東京モノレールがある。「モノレール vs. 鉄道」という味方もできるが、実は日本の法律上ではどちらも「鉄道」だ。跨座式モノレールの線路は鉄ではなくコンクリート。それなら「鉄道」ではなく「石道」ではないか。
技術上の「鉄道」と法律上の「鉄道」は微妙に違う
鉄道とは文字通り「鉄の道」である。本来は鉄でできた線路を示すはずだ。なので、技術上の鉄道といえば、JRや私鉄の各鉄道路線はもちろん、遊園地の遊覧列車、老舗の造り酒屋などに見られる、倉庫と店先を結ぶトロッコ用の線路も鉄道だ。学校の門にも鉄のレールを敷いて車輪付きの扉を開閉するタイプがある。さすがにあれを鉄道と呼ぶ人はいないだろうが、技術的には「重い物に車輪をつけ、鉄の線路にのせれば軽い力で動く」という仕組みである。
遊園地の遊覧列車や店先のトロッコは、鉄道として扱われない。逆にコンクリート線路のモノレールを「鉄道」として扱う。その根拠は、「鉄道事業法」による。鉄道事業法による「鉄道事業」の定義は、「他人の需要に応じ、鉄道による旅客又は貨物の運送を行う事業」である。「鉄道」そのものが何かという定義はされていない。そこで「自分の線路を使って、お金をもらって運んであげます」が鉄道事業だと解釈される。バス会社は、一般道路を使っているから鉄道事業として扱われない。航空会社も船会社も、自前の線路を持たない、というか持てないので鉄道事業ではない。「自分の線路を持つ」が鉄道事業か否かの境目だ。
また、「他人のために輸送する」という意味で考えると、遊園地の列車は遊園地の敷地内から出ないので「輸送」にならず、鉄道事業ではなくなる。店先のトロッコは自分のために作っただけなので、鉄道事業にならない。ただし、工場の敷地の線路は、敷地外に出して他社の鉄道に接続した場合は鉄道事業となる。
鉄道事業法と姉妹的な関係にある法律として「軌道法」があり、軌道も鉄道に準ずる物として扱われている。軌道とは、自治体が管理する道路上に敷設された鉄道を指す。鉄道事業法では道路上の鉄道建設を禁じているため、軌道法という法律を作ったという経緯がある。
跨座式モノレールはコンクリート製といえども「自分の線路」を持ち、「他人のために輸送」を行っている。それゆえに鉄道事業法で扱われる。また、バスのうちトロリーバスは鉄道事業になる。なぜなら、電力を供給される架線が「事業のための線路」と見なされるからだ。立山黒部アルペンルートのトロリーバスは専用の道路を持っているため、鉄道事業扱い。かつて横浜市などで導入されたトロリーバスは公道上を走るため軌道法扱いだった。
同じように、鉄の線路を使わない鉄道事業には「ロープウェー」や「リフト」などがある。ただし、これらの「架空した索条に搬器をつるして運送する設備」は、鉄道事業法の中でも「索道」として項目が作られ、「鉄道」とは区別されている。
ケーブルカーも遊園地の列車も、遊技性の高い乗り物だ。しかしケーブルカーは鉄道事業であり、遊園地の列車は鉄道事業ではない。モノレールも同様で、遊園地内のアトラクションとして設置されていれば鉄道事業ではない。
鉄道趣味の分野では、「鉄道事業法で扱われる事業のうち、索道を除いた事業」を鉄道と解釈する人が多いようだ。鉄道ファンの中には「将来、庭付きの家を買って小さな線路を敷き、思う存分列車を運転したい」と夢見る人も多い。しかしそれが鉄道事業ではないとなると、複雑な心境ではないだろうか。