前回は車輪数38個の巨大機関車「ビッグボーイ」を紹介した。しかし、車輪数を基準にすると、アメリカにはもっと大物がいる。なんと車軸数36、車輪数72。横から見るとムカデのごとく車輪だらけ。それは機関車ではなく、電車でも客車でもない。貨車だ。大重量の大物を運ぶ貨車。アメリカでは「シュナベル車(Schnabel Cars)」と呼ばれている。「シュナベル」はドイツ語で「くちばし」という意味。重量物を支えるフレームが鳥のくちばしに見えるからだ。

中央のブルーシートが積み荷の原子炉。両側の赤いフレームと黒い台車が巨大重量貨物輸送車「WECX800」。画像出典 : アメリカ合衆国原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission)

おそらく世界最大と思われる貨車は、米国ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーが保有する「WECX800」だろう。車軸数36、車輪数は72。全長は約70m(約231フィート)。「WECX800」の輸送限界重量は1,779,260ポンド(約807トン)。最大積載長は345フィート(約105m)である。

ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーは、最近の東芝の巨額損失報道でも登場する原子力関連会社。その会社が保有する巨大貨車が運ぶもの。それはずばり「原子炉」関連部品だ。原子炉容器は小さいサイズでも約200トン。最大級で約1,000トンに届く。

「WECX800」は、1982年に西ドイツのクルップ社(現・ティッセンクルップ)が製造し、米国の発電装置企業、コンバッション・エンジニアリングに納品された。当時の車両名は「CEBX 800」だった。コンバッション・エンジニアリングの原子力発電事業がウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーに売却されたため、「WECX800」となった。

「WECX800」の構造略図

2012年にウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーは新たなシュナベル車「WECX801」を導入した。同社のAP1200形という最新型原子炉を輸送するためだ。米国で鉄道車両製造などを手がけるカスグロ(Kasgro Rail Corporation)社が製造した。「WECX800」と同じく車軸数36、車輪数72。全長は約70m(約231フィート)で、「WECX800」より8インチほど短いため、「WECX800」の大きさの記録を更新できなかった。しかし輸送総重量は「WECX801」のほうが大きい。輸送限界重量は2,035,800ポンド(約923トン)とのこと。

シュナベル車の車輪が多い理由は、重量を分散させて線路の負担を減らすためだ。鉄道の線路は、幹線、ローカル線、旅客線、貨物線など、用途によって軸重や最高速度が定められている。重い機関車や貨物列車が走る線路は頑丈に作られている。ディーゼルカーや電車しか走らないローカル線は、低コストで保守も簡単な線路規格だ。

しかし、どんなに高規格な線路とは言え、800トンの重さには耐えられない。2軸ボギー貨車に800トンの荷物を載せると、車軸あたり200トンの負荷がかかる。線路はゆがむし、車輪も持たない。そこで車軸を増やして重量を分散させる。800トンの荷物を36本の車軸で支えれば、単純に計算して22トン程度に収まるというわけだ。

「WECX800」「WECX801」は貨物の長さ対策も行っている。100mもある貨物は、そのままではカーブを曲がれない。そこで貨物を載せる枠を前後のクレーンで吊して、カーブ区間ではクレーンを左右に動かして貨物の動きを制御している。

シキ610形の車軸配置位置略図。3軸ボギー台車を8台使用する。輸送する変圧器も車体の梁を兼ねる

ちなみに、日本にも大型貨物輸送貨車がある。国鉄の貨車記号では「シキ」。シは重量物(ジュウリョウブツ)のシ、キは積載重量25トン以上という意味だ。おもに大型変圧器の輸送用として使われている。このうち、日本最大の貨車はシキ610形で、車軸数24、車輪数48。最大で235トンの貨物を輸送できる。1962~1976年にかけて5両が製造された。そのうち4両は廃車され、シキ611のみ現役だという。