今年も大井川鐵道にSL列車「きかんしゃトーマス号」がやって来た。しかも今年は赤い機関車「ジェームス号」も走るとあって、さらに人気が高まっている。7月11日のデビューに先立ち、7月9日に「トーマス号」「ジェームス号」の重連運転も行われた。
しかし、この日の天候はあいにくの雨……。報道陣は傘をさしたり、雨合羽を着たり、あるいはずぶ濡れになっての取材となった。沿線にも、この日限りの重連運転を撮ろうと多くの「撮り鉄」たちが集まっていた。
新金谷駅を出発するときは土砂降りのようだったが、終点の千頭駅では雨がやみ、ときどき小雨が降る程度に。大井川鐵道の広報担当、山本さんも、「どうなることかと思いましたけど、ほっとしました」と安堵の様子だった。そのとき、近くにいたソニー・クリエイティブプロダクツ(『きかんしゃトーマス』シリーズのマスターライセンスを保有)の広報宣伝課チーフ、徳永さんから衝撃のひと言が。
「でも雨の日のほうが、機関車の迫力があって良いですよね」
そう。すっかり忘れていた。蒸気機関車の撮影は雨の日も「好日」。徳永さんは『きかんしゃトーマス』シリーズの日本展開を担当しており、それだけに蒸気機関車の特徴をよくわかっていらっしゃる。さすがだ。
なぜ、蒸気機関車は雨になると迫力が増すかというと、煙がたくさん出るから。最近の蒸気機関車は公害対策の意味合いもあって、燃料や装置を工夫することで煙が少なくなっているという。だから全国で蒸気機関車が現役だった時代に比べて煙は少ない。まるで蚊取り線香の煙のような……というと大げさだけど、細くたなびく煙は迫力に欠ける。
でも、雨の日は煙が増える。その理由は白い煙が増えるからだ。
蒸気機関車が出す煙には黒と白の2種類がある。ひとつは「排気煙」。石炭などを燃やすときに出る煙で、煤(すす)が混じっているから黒い。黒い煙が窓から客車に入り込むと、顔などが汚れてしまう。目に煤が入って痛くなることもある。蒸気機関車に乗るときは目薬持参をおすすめする。
もうひとつの白い煙は「水蒸気」だ。本来は無色透明だけど、冷えると水滴になり、白い煙のように見える。蒸気機関車はボイラーでお湯を沸かし、水蒸気の圧力で車輪を回す。水蒸気は正確には「湯気」で、科学的には「煙」とはいわないけれど、湖に立ちこめる霧やモーターボートが上げるしぶきを「みずけむり」というように、蒸気機関車の水蒸気も煙のように見える。動力に使われなかった水蒸気は煙突から排出されるし、動力に使われた後、役目を終えた水蒸気は動輪のそばのシリンダーから排出される。
雨の日に増える煙は、「水蒸気が冷えた」白い煙だ。晴れた日や冬は空気が乾燥しているため、水蒸気は水滴にならずに空気中に霧散してしまう。でも雨の日や湿度の高い日は、水蒸気が空気中に溶け込めず、水の粒となって白い煙のように見える。どんな天気でも蒸気機関車が排出する気体の量は同じだけど、湿度の高い雨の日は水蒸気が白い煙のようになり、これによって蒸気機関車の迫力も増すというわけだ。
もちろん雨の量にも程度があって、視界を遮るほどの大雨だと機関車そのものを撮影できない。小雨くらいがちょうど良い。「蒸気機関車を撮影しに行こうと思ったけど、雨が降りそうだからやめた」は、じつは絶好のチャンスを逃しているかもしれない。
※鉄道撮影において、危険をともなう行為、鉄道係員や近隣住民などに迷惑をかける行為はおやめください。マナーを守っての撮影を心がけましょう