クリスマスの時期になると思い出す懐かしいCMのひとつに、JR東海が制作した『クリスマス・エクスプレス』がある。「遠距離恋愛の恋人同士が、クリスマスに新幹線の駅で待ち合わせる。はたして恋人は来るだろうか……」という場面を描いて共感を誘った。CMソングに起用された山下達郎の『クリスマス・イブ』もリバイバルヒットとなった。
このCMの前編ともいうべき作品が『シンデレラ・エクスプレス』だ。遠距離恋愛の恋人たちが新幹線の駅で再会し、別れていく様子を描いた。このCMが前述の『クリスマス・エクスプレス』をはじめ、『○○エクスプレス』というシリーズの原点ともなっている。
ところで、新幹線に限らず、列車で旅立つ人を見送るとき「発車時刻になってもなかなか扉が閉まらず、扉が閉まっても列車が動かず、気まずい思いをした」という経験をお持ちの方も多いと思う。恋人たちの別れの悲しみも、新天地へ向かって応援する気持ちも、ちょっと醒めてしまって、最後にはちょっと笑ってしまったりする。
○時○分発は、実際は「○時○分45秒発」の場合がある
「なんだ、列車が遅れているのか、しょうがないな」と思うかもしれない。しかし、これは列車の遅れではなく、正確さ故に起きること。あの何とも言えない「間」には、ちゃんと理由があるのだ。
実は、列車の運行計画を定めている「ダイヤグラム」は、分単位ではなく秒単位で作られている。閑散としたローカル線の場合は1分単位の設定でも問題はなく、10分単位でも差し支えない。しかし、運行頻度の高い通勤路線や列車の種類が多い幹線では、15秒単位で細かく時刻が定められている。したがって、10時00分発と時刻表や駅の案内板に書かれている列車も、実際には10時00分00秒発、10時00分15秒発、10時00分30秒発、10時00分45秒発の4種類がある。駅や市販の時刻表では秒までの数値を入れるとかえって見づらいため、秒の部分を省いている。
したがって、0秒発のつもりで45秒発の列車を見送ると、なんともいえない45秒が発生してしまう。0秒発の場合はお見送り大成功。15秒発まではなんとか間を保てる。30秒発でやや気まずくなり、さすがに45秒ともなると「アレ? 」という感じになる。しかし、鉄道会社が意地悪をしているわけではないのだ。ただし1分以上になった場合は遅れが、発生したことになる。この場合は鉄道会社に原因があるかもしれないが、たいていは濃厚すぎる別れ方をする別のカップルや駆け込み乗車などが原因だろうから、鉄道会社を恨まないでほしい。
この現象は、通勤電車の不揃いな発車時刻の理由でもある。ある駅で発車時刻が「0 2 5 7 10 12 15 17 20……」と表記されていた場合、列車の運行間隔が2分と3分で不揃いになっているわけではなく、列車は2分30秒の等間隔で運行している。「秒」を省いて「分」の部分だけを抜き出したため、駅の時刻表は不揃いに表示されてしまうのだ。