電車と電気機関車はよく似ていると思う。どちらも外部から電気を取り込み、モーターを回し、その回転を車輪に伝えて動き出す。とくに路面電車の場合、電気機関車と同じく1両だけでも走行できるから、構造はほとんど同じではないか?

ところが、電車の車両内部は客室で、乗客がいなければ"空っぽ"。一方、電気機関車は中に乗客や荷物を積めない。一体、電気機関車の中には何が入っているのだろう? 巨大なモーターだろうか? まさか空洞ではないだろうし、きっと機械が詰まっているのだろう。

電気機関車と路面電車は、似ているようで人が乗れたり乗れなかったり……

そういえば、蒸気機関車の車体の大部分は円筒型で、それは水を蒸気に変えるボイラーだ。ディーゼル機関車の車体には巨大なエンジンが入っている。どちらも主要な動力部分だ。そう考えると、電気機関車の車体の中には巨大なモーターが入っているのかも……。しかし、電気機関車の中にモーターは存在しない。電車と同じで、台車に組み込まれているか、台車のすぐ上に載せられている。

中身はモーターを制御する機械や安全装置など

たしかに古いタイプの電気機関車の中には、車体に大きなモーターを積んでいたものもあったらしい。しかし最近の電気機関車の多くは床の下、車輪の近くにモーターがあるという。その点は電車とほぼ同じだが、電気機関車の車両内部は、四角い機器が整然と並んでいるだけ。人が通れる通路が1本または2本あり、前後の運転台を行き来できる。

電気機関車に積まれる機械は、大きく分けて2つある。主回路用と副回路用だ。主回路はモーターを回すための制御装置だ。大きなものでは制御器。外部から取り込んだ電気の電圧を変化させて、モーターへ向かう電流の量を調節する。他に断流器や遮断器、フィルタリアクトルなどがあり、これらは走行中に不要な電気をモーターに送らないため、また、電気が発生するノイズを低減して、電気回路や信号回路を守るために使われる。

副回路用としては、客車や貨車の空気ブレーキに使う空気を送り出すコンプレッサー、客車に電気を供給するための発電機または電圧変換装置などがある。さらに、これらの機器や高出力のモーターが発生する熱を冷ますための冷却装置がある。外部から空気を取り込んで、熱を持った空気を外に逃がす。要するに巨大な換気扇だ。これも大きい。

たとえるなら「電車1編成分の機器が詰まっている」

電気機関車も電車も、車輪のそばにモーターがある。電気機関車と電車の走るしくみはほぼ同じだから、電気機関車とほぼ同じ機器を電車も積んでいるはず。ではなぜ、電気機関車の車体は機械だらけなのだろうか? それは、電気機関車のモーターの出力が大きく、周辺装置も大きくなるからだ。

電気機関車には電車1編成分の機器が詰まっているといえる

たとえば、JR貨物の電気機関車EF210形の定格出力は565kWで、これを6基搭載している。これに対し、JR東日本のE231系電車のモーターの定格出力は95kWで、電動車に4基搭載している。電気機関車のモーターのほうが、電車のモーターより強力で大きい。ではなぜ、どちらも床下(台車)に設置できるかというと、電気機関車の車輪のほうが大きく、床下の空間が広いからだ。ただし、電気機関車の床下は車輪とモーターで埋め尽くされてしまうため、電車のように制御機器などは床下に吊るせない。そこで車内に設置するのだという。

電気機関車は、コンテナ貨車で20両、客車も10両以上を引っ張る。そのためにモーターの出力が大きくなる。一方、電車の場合は、路面電車のように自車を動かすだけか、2~3両程度のモーターなし車両を引っ張る力があればいい。長編成の電車の場合は、モーター付き車両とモーターなし車両をいくつも組み合わせて使う。

こうして考えると、電気機関車の中には、「電車1編成分の機器が詰まっている」ということもできそうだ。