こんにちは、旅の口コミサイト「トリップアドバイザー」の三橋です。さて今回はタイトルの通り、米国のホテルなどでここ数年流行のきざしがみられる、隠れたトレンドのお話を。といっても、このトレンド、できればこれ以上流行ってほしくない、不快なある集団のブームなのです。今回は、ややショッキングな画像なども掲載しておりますので、食事中の方などは、ここから先の閲覧にはご注意を。かくいう私も、この話題についていろいろ調べていただけで、なにやら体がかゆくなってきたりして……。

トリップアドバイザー 三橋竜二
新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーのトラベルライターに。アジアや太平洋の島々を中心に旅行雑誌やガイドブックなどに記事を執筆。2009年より、トリップアドバイザーで広報を担当。旅の楽しさを伝えるために、日々データと格闘中。いつかイースター島に行くのが夢

Bed BugがNYの最先端スポットに

さて、ワールドカップの決勝トーナメントで世界中が沸いていた頃、NYから驚きのニュースがとどきました。日本でも大人気のファッションブランド「アバクロンビー&フィッチ」と姉妹ブランドの「ホリスター」のニューヨークの店舗が、とある集団に襲われ、一時閉店に追い込まれたというものです。

集団、といっても米国が決勝トーナメントで破れたことに怒ったフーリガンが暴れたわけではありません。両店舗に大挙して襲いかかったのは、"Bed Bug"。つまりトコジラミだったのです。

【画像閲覧注意】旅行者が撮影したトコジラミ。体の大きさの3倍もの血を吸うことができるという ※画像をクリックすると元画像が見られます

日本では南京虫という名でも知られるトコジラミ、シラミという名前がついてはいますが、正確にはカメムシの仲間。体長は成虫で6~8mmで、昼間のうちはベッドや家具の裏側や隙間に潜んでいますが、夜になると人間の発する熱や二酸化炭素などを感知して近づき、腕や足などの肌が出ている部分から血を吸うのです。

このトコジラミ、先進国では70年代にはほとんど姿を消していましたが、2000年代に入って以降、世界各国で再び被害が急増しはじめているのです。特に北米やオーストラリアなどでは、深刻な問題になっており、昨年には米環境保護局が急遽「National Bed Bug Summit(全米南京虫サミット)」を開催し、対応を協議したほど。このサミットでは、トコジラミの被害は急速に拡大しており、住宅はもちろんのこと、ホテルやレストランなど、あらゆる種類の公共の建物・空間で確認されていると報告しています。

そして、その被害者でもあり、また拡大の原因ともなっているのが、世界各国を飛び回る旅行者の存在だといわれているのです。

トコジラミの被害は?

実際、トリップアドバイザーにも、ホテルでのトコジラミ被害に関する口コミを多数見ることができます。トリップアドバイザーでは、毎年「世界の汚いホテルランキング」を発表していますが、やはりここ数年、アメリカやカナダのランキングで上位に入ったホテルやモーテルの口コミに、Bed Bugの被害に関するものが、他のエリアのランキングに比べて目立つようになっています。

例えば今年発表したランキングで、米国の1位に選ばれたサンフランシスコの「ヘリテージ マリーナ ホテル」には、寝ている間に100カ所以上刺され、旅行から帰ってから急遽症状が悪化して、2日間入院したというユーザーの口コミも。

【画像閲覧注意】咬まれたところは赤く腫れ上がり、数日から数週間消えないことも ※画像をクリックすると元画像が見られます

またカナダの1位に選ばれた「アルコーナ モーター イン」にも、500カ所以上刺され、アレルギー症状のために同じく2日間入院した、というユーザーの口コミがありました。

もちろんこれらはかなり極端な事例で、トコジラミによる被害は、多くの場合それほど深刻なものではありません。またマラリアのような、伝染病の媒介も報告されていません。しかし、蚊とは比べ物にならないほど激しいかゆみが、場合によっては数週間残ることもあり、また人によっては、不眠症になったり、アレルギー反応で発熱やリンパ腺の炎症を引き起こす場合もあるようで、ムシできないのも事実です。

そしてさらに恐ろしいのが、このように旅先で遭遇したトコジラミがスーツケースなどに忍び込み、知らぬ間に別のホテルや自宅へと持ち運ばれていまうことです。実際、米国やカナダなどで大発生した原因も、中東やアジア方面への旅行者が持ち帰ったという説が有力です。トコジラミは飢えに強く、血を吸わなくても半年近く生きていることがあるとされ、繁殖力もかなり強力。こんな迷惑なお土産だけは、かんべんしてほしいものです。

被害に遭わないためには?

では、旅先でトコジラミの被害に遭わない、また自分が被害を広めないためにはどうすればいいでしょう。もはや5つ星の高級ホテルであっても絶対安心とは言えないのが現状ですが、いくつかのポイントに気をつけることで、自衛することも可能です。

以下は、予約時や部屋に入った際のチェックポイントです。

1)トリップアドバイザーなどの口コミサイトで、建物の状態や清潔感に関する項目をチェック
トコジラミは「暗い・温かい・狭いすき間」を好むため、明るく風通しがよく(もしくはエアコンがしっかり効いている)、建物がよくメンテナンスされ(隙間やひび割れなどの少ない)、毎日の清掃がしっかりされているホテルでは、トコジラミ被害のリスクを大きく減らすことができます。これらのポイントを念頭に置いてホテルの口コミをチェックしてみましょう。また、直近の口コミで、複数のトコジラミ被害に関するものがあった場合などは、やはり要注意です。米国ではユーザーがトコジラミの被害を地図上に記録して報告する「The Bedbug Registry」というサイトもあります。こちらもご参考に。

【画像閲覧注意】ベッドに残ったトコジラミのフンによるシミ、シーツの縫い目部分に隠れた成虫 ※画像をクリックすると元画像が見られます

2)チェックインしたら、ベッドの周辺(ベッド下・つなぎ目の隙間・ベッド裏ホチキス打ち部・シーツの裏側や枕カバー)、壁と床板の接合部などをチェック
トコジラミが大量に発生している場合、ごま粒のような濃褐色のフン(血糞)の跡が残ることがあります。このような痕跡を見かけた場合、または実際の成虫などを見かけた場合は、フロントに言って部屋を変えてもらいましょう(トコジラミは部屋単位で発生しているので、部屋を替えることで多くの場合被害が防げます)。

3)スーツケースなどの荷物や着替えを床に置かない
迷惑なお土産を自宅に持ち帰らないためにも、スーツケースや衣服などは床の上に置かず、できるだけ荷物置きなどの上に。カバンの折り目の間や肩掛け、ベルトのすき間などに潜むこともあるので、被害にあった際などは、入念にチェックを。パラジクロロベンゼンの防虫剤を嫌うといわれており、若干匂いがありますが、スーツケースに一つ忍ばせておくのも有効のようです。

さて、今回は夏の旅行を計画している皆様には、ちょっと不安な話だったかもしれませんが、備えあれば憂い無しです。トコジラミの被害は、中東やアジアへのバックパック旅行だけでなく、アメリカやヨーロッパの大手ホテル滞在でも起こりえるリスクと考えて、準備をすすめていただきたいと思います。