割とシリアスな映画が続いたので、今回は楽しい映画をチョイスして『お買いもの中毒な私! 』をご紹介します。原作はソフィー・キンセラが書いたベストセラーシリーズ「レベッカのお買い物日記」。原題の『CONFESSIONS OF A SHOPAHOLIC(買い物中毒の告白)』が表すとおり、"お買い物"が止められない止まらない主人公・レベッカの生活を赤裸々に綴ったハッピーコメディです。

素敵なお姉さんが買い物の支払いをカードで済ませる姿に目をキラキラさせる少女時代の主人公。時は過ぎ17年後。大人になりゴージャスな衣装に身を包んだ主人公が登場します。

25歳のレベッカは幸せになりたい、ごく普通の女の子。そんな彼女が好きなもの、それは……・お買い物!

大きく「お買い物」と書かれたプライスタグが横切ります。

だって、女の子がお買い物をする理由は沢山あるのです。 素敵な出会いがあったから 仕事で嫌なことがあったから 自分へのご褒美だから それから……

カードが無効だと告げられるレベッカ。気軽にお買い物をした後に訪れる恐怖……そう、それは、請求書の山!! 束になった請求書に悲鳴を上げるレベッカですが、ついさっき、失業したばかり。呆れた親友が一言。

「マジで"お買いもの中毒"ね」

親友に節約を誓い、特技を「フィンランド語」と書いたウソの履歴書で転職活動に奔走し、就職した先は、なんと………

「経済誌の記者?破産寸前のあなたがお金のアドバイス?」

そう、ファッション誌の記者を目指したはずが、どういうわけか、経済誌の編集部に就職することになってしまったのです!! 本当に、世界一ありえない転職です! バーゲン会場に行けば、「あ、グッチのブーツだわ!」「向こうにバーバリーが!」「渡さないわ!」「私だって!」と、醜~い女の争いを繰り広げ、家では強いお酒を飲みながら、親友と請求書会議。

セール会場は女の戦場!

友達に「下着に10万円!? 」とツッコまれたレベッカ。、ブハッとテキーラを吐き出しながら何を言うかと思えば「だって、お店の人の話が泣けるのよ」。この理由を聞いて、思わず口あんぐりな親友。"お買いもの中毒"なレベッカにとっては、どんな事もお買い物の理由になってしまうのです。

レベッカの弱点が今……一番の武器になる!!

そう、"好きこそものの上手なれ"。ちょっと違う視点から見てみれば

「バーゲンの靴で経済を語るなんて…すごいアイデアだ! 」

なんて、経済誌ではありえなかった画期的なコラムとして絶賛されたり、レベッカの"お買いもの中毒"は彼女自身に仕事を舞い込ませることになります。文字通り、クレジットカードを冷凍庫に入れて"凍結"させていたレベッカは晴れてカードたちを解凍し、歓声を上げます。フィンランド語が得意と嘘をついたために、フィンランド人男性をなんとかあしらったり…ハチャメチャな彼女に観客は釘付けです。 そしてラスト、

幸せ検索中のあなたに贈ります。

という言葉で予告編終了!! 予告だけで思わず笑いがこぼれてしまう様な本作。この映画が作られたアメリカのバージョンでは、レベッカ自身の独白で前半が進みますが、日本バージョンは、第三者の目線から観客である女の子すべてに向けた女性のナレーションで進められます。このナレーションの存在が、"レベッカ自身"だけの物語から、観客それぞれが感じる"私"の物語へと感情移入するのに功を奏しています。

予告編で現れる「こんな私でも、幸せになれるかしら?」という問いかけは、レベッカの問いかけであり、観客である私たちの問いかけでもあります。誰もが完璧ではなくて、ちょっとくらいはダメなところも持っている、そんな自分でも大丈夫!! と元気が出るような本編を予感させる、ハッピーな予告編です。

平均的な家庭では約8枚のクレジットカードを使っているという、カード社会・アメリカならではの題材をライトに盛り込みつつもユーモアを散りばめた本作、経済誌の編集者たちの黒やグレーの地味なスーツの中に、ただ一人カラフルないでたちで登場するレベッカのファッションは、まるで現代の暗い経済状況と、誰もが望んでいる一筋の光明を現しているよう。世界的な金融危機の中での本作公開は、ちょっとした皮肉も感じてしまう、まさに絶好の(!?)タイミングとも言えるでしょう。

その場では懐の痛まないカードでの支払い。月末には阿鼻叫喚の支払い地獄が待っているのに…やめられない…

セールやバーゲンと聞くとウズウズしてしまう気持ちは女性には痛いほどわかるものの、レベッカの場合はかなり重症。"お買いもの中毒"と言えば可愛らしいけれど"買い物依存症"となるとちょっと笑えない。普通に考えたら同情心や反発心を持たれそうな主人公のキャラクターですが、アイラ・フィッシャーが見事に"愛すべきおバカさん" を熱演しています。クリステン・リッター演じる親友スーズもいい味を出していて、「こんな親友がいたら心強いなぁ」なんて羨ましくなってしまいます。彼女もきっと、「しょうがないなあ」と思いながらも憎めないレベッカのためにいろいろと世話を焼いてしまうのでしょうね。

予告でも「レベッカは個性的で……刺激的で……目が離せないんだ」と、経済誌の編集長・ルークが言うように、キュートで目が離せないヒロインに思わず声援を送りたくなるはず。可愛らしいのに笑わずにはいられないダンスシーンは特に必見です!!

オカネも愛も手に入れちゃう?

本編の中で印象的なのが「値段と価値は違う」という台詞。判ってはいるつもりでも、忘れがちなことのような気がします。恋も仕事も頑張る、すべての女性たちへと銘打ってあるように、"仕事で嫌なことがあったから""デートだから""旅行に行くから""ご褒美だから"そんな理由でお買いものをしたこと、女の子なら誰もが一度ならず経験したことがあるでしょう。本作はそんな気持ちに「ある! ある! 」と思わず頷いてしまう女の子すべてに贈りたい、そんな作品です。さて、あなたのいちばん最近の"お買いもの"は何ですか?

かつらの予告編★ジャッジ

内容バレバレ度 ☆☆
本編との共鳴度 ☆☆☆
ウキウキハッピー度 ☆☆☆☆☆

『お買いもの中毒な私!』

一流ファッション誌の記者になることを夢見る25歳のレベッカは重度の "お買いもの中毒"で、月末になると届く請求書の山と支払い催促の電話に悩まされる日々。こんな自分を変えたいと、一念発起で転職活動を開始、憧れのファッション誌編集部に入るため、同じ出版社のお堅い経済雑誌の編集者として働き始めることになるが…。

監督: P・J・ホーガン
出演:アイラ・フィッシャー、ヒュー・ダンシー、クリステン・リッター、ジョン・グッドマンほか

5月30日(土)より全国ロードショー


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春錵かつら(はるにえ・かつら)

映画予告編評論家 / ライター

CMのデータ会社にて年間15,000本を超える東京キー5局で放送される全てのCMの編集業務に3年ほど携わる傍ら、映画のTVCMについてのコラムを某有名メールマガジンにて連載。2004年よりフリーライターとして映画評論や取材記事を主とした様々なテーマを執筆しながらも大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務めたのち、ライター業に専念、現在に至る