15日に中国1-3月期GDP実質成長率が前年同期比7%と、6年ぶりの低い水準まで落ち込んだことが発表されました。でも、日本から見れば7%成長なんて、夢のまた夢みたいな良い数字ですよね。ところが、現地の空気を吸っていると、その衝撃の大きさが実感できるのです。

私は、2002年から、上海の金取引所や現地の大手商業銀行のアドバイザーとして招へいされてきました。その間、中国経済成長の実態を内部から見てきました。

あたかも経済が止まっているかのごとき錯覚に…

そこで感じる7%を例えていえば、高速道路から一般道路に降りたときのスピード感覚とでもいいましょうか。それまで120キロでぶっ飛ばしてきたのが、スピード制限60キロの道に入ると、あたかも止まっているかのごとき錯覚に襲われます。同じように、年率10%成長に慣れきった中国人たちは、7%まで減速するだけで、生活実感としては、あたかも成長が止まったかのような感覚に陥ってしまうものなのです。

そこで怖いのが消費者心理。「先行きがやばい!」と感じると、途端に財布の紐が締まってしまいます。ただでさえ、中国には年金制度などあってないも同然ですから、将来への不安で、稼いだおカネは使わずにとっておく傾向が強い。

うっかり病気もできません。病院の診察券がプレミアムつきで闇取引される社会ですから。そこに輪をかけて「景気が悪い」と考えると、貝みたいに閉じこもり症候群になってしまうわけです。 中国経済に限っては、コツコツ成長というシナリオは考えられません。バブルになるか、破たんするか、二者択一です。

中国人は銀行に預けずに「金」を買う

皆さんが、もし、そんな状況におかれたら、どうします?多少なりとも蓄えがあれば、とにかく消費せず貯めておこうと考えるのではないでしょうか。

中国最大の貴金属店「菜百」(北京)の店頭で金を買う人々

そこで、中国人は、どのような行動にでるのか。答えは「金を買う」のですよ。これは調査や統計でも実証されています。

日本人であれば、まずは銀行に預けることを考えますよね。「銀行に預けておけば安心だ」と。ところが、中国人は、銀行より金のほうが安全と答える人が多いのです。

これ、実際に私が中国で最大の貴金属店「菜百」(北京)の店頭で金を買う人たちに聞いたことです。日本と比べると民族のDNAの違いとしかいいようがありません。

中国は3千年の歴史の中で、支配民族・政権が変われば通貨の呼称も変わるということを繰り返し経験してきました。その過程で、価値が変わらなかったのは何かといえば、ずばり「金」。現在流通している「人民元」といっても通貨の世界では歴史はたかだか60年ほど。3000年の歴史と実績を持つ金から見れば「新参者」です。

ですから、「金」は「おカネ」という感覚が沁みついているのです。北京で出稼ぎで働く地方から来た労働者たちも、故郷の仕送りに、金のジュエリーを買い込みます。

中国人の自己防衛は「金」を買うこと

その結果、金の需給統計を見ても、2014年中国経済の減速が加速した年でさえ、中国一か国で世界の年間金生産量3000トンほどのなかから800トン以上を買い込んでいたことが確認されているのです。ちなみに、インドも同じく800トン以上を買いました。この二か国で年間金生産量の55%を買い占めた勘定になります。

経済が減速して不安な状況の中国の場合は、バブルになったり、はじけたりすると人民元という紙幣の価値など、どうなるか分からない、という気持ちが強いのでしょう。金を貯めて自己防衛することを無意識の中で実践しているのが中国人ということです。

著者プロフィール

●豊島逸夫
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。2011年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。 三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく独立系の立場からポジショントーク無しで金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。またツイッターでも情報発信している。

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25歳。仕事や私生活それぞれに悩み不安を抱える年齢ではないだろうか。そんな25歳のあなたへ、日本を代表するアナリスト・豊島逸夫ウーマノミクスの旗手・治部れんげがタッグを組んだ。経済と金融の最新動向をはじめ、キャリア・育児といった幅広い情報をお届けする特別連載。こちらから。