この連載では、2020年の東京、これからの都市と生活についての記事を「PLANETSチャンネル」から抜粋してご紹介しています。"東京2020"がテーマの文化批評誌『PLANETS vol.9』(編集長: 宇野常寛)は今秋発売予定。

「『パーティーの後のごみを拾っている感じ』しか想像できない」……そう語る安藤美冬氏。今回は、彼女が2020年にアピールすべきと考える"成熟都市"のライフスタイルを聞いたインタビューです。【聞き手: 宇野常寛/構成: ミヤウチマキ】

安藤美冬(あんどう・みふゆ) スプリー代表。1980年生まれ、東京育ち。慶応義塾大学卒業後、集英社を経て現職。ソーシャルメディアでの発信を駆使し、肩書や専門領域にとらわれずに多種多様な仕事を手がける独自のノマドワーク&ライフスタイル実践者。多摩大学経営情報学部専任講師、講談社『ミスiD(アイドル)2015』選考委員、雑誌『DRESS』の「女の内閣」働き方担当相などを務めるほか、商品企画、コラム執筆、イベント出演など幅広く活動中。TBS系列『情熱大陸』、NHK Eテレ『ニッポンのジレンマ』などメディア出演多数。著書に『冒険に出よう』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

パーティーの後に、ゴミを拾っている姿しか想像できない

――安藤さんは、2020年の東京とオリンピックについて、いまどんなことを考えていますか。

安藤 自分が話せるところからいうと、オリンピックとパラリンピックってそこまで興味のある分野ではないのね(笑)。ただ、2020年っていう、今から6年後の「ちょっと先の未来」には興味があります。なぜかというと、2020年って色々な部分で日本の転換点になっている気がしているんです。

たとえば、安倍政権の掲げている「女性の管理職の割合を3割に引き上げる」という目標のタイムリミットは2020年ですよね。あるいは、2012年にベストセラーになったリンダ・グラットンの『ワーク・シフト――孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』という本の中では、2025年っていう今から10年先の未来を話しているんだけど、そこでは「雇われサラリーマンもインターネットを使ってプチ起業やマイクロ起業をする」といわれています。そういう意味では、宇野さんもよくおっしゃっている「日本のOSをアップデートする」ための、最後のチャンスがこれからの6年間かなと思いますね。

今から6-7年前を考えてみると、たとえば、一部のオタクと言われる人たちのものだったインターネットが私たちにとって身近なものになった、というような変化は起こったけれど、そこまで大きく変わったというわけではないかもしれないですよね。でも、今は未来に向かって加速度的に変化が速くなっている感じがあって、もしかしたら6年後には今の日本のOSが壊されて新しい価値観や世界が広がっているかもしれない。

そういう期待と同時に、「お祭り騒ぎをした後の、宴の後のような徒労感に襲われるんじゃないか」という不安もありますよね。今はちょうど、どちらに行くかの分岐点になるタイミングなんじゃないかな、と感じています。

――その「宴の後の徒労感」に対する不安というのは、どういったところから感じるんですか?

安藤 64年の東京オリンピックは「より高く、大きく成長していく」ということが美徳だった時代だと思うんです。2020年に関しても、たとえば秋元康さんを理事に据えた組織委員会というのも、64年とあまり変わらない「より高く、大きく」という世界観に添ったものですよね。それと同時に、日本の多くの企業が2020年のオリンピックに対して「どれだけたくさん稼ぐか」という視点でしか捉えていないんじゃないか。だから「パーティーの後のゴミを拾っている感じ」しか想像できないんですよね(笑)。

もし、たとえば猪子寿之さんのような、一見すると奇天烈にも見える面白いアイデアを持っている、才能のある若い人たちが活躍できるようになってくれば、東京にもまだチャンスがあると思えます。でも、今の感じだと、そういう人たちは2020年のオリンピックの中枢にはいないんじゃないかな。

なぜ、いま、東京なのか?

――安藤さんは、「2020年になったら、もう日本には住んでいないかもしれない」とおっしゃっていますけど、逆に2020年に世界にアピールすべき日本の姿があるとしたら、どんなことだと思いますか?

安藤 アピールするのは東京に限らなくていいと思っています。たとえば福岡は色んな起業家を育てたり、若い人や企業に積極的に投資したりしていて、今一番注目されているアジアの都市のひとつです。こういう都市がアジアの玄関口として開いていく、そこでオリンピックが開かれる――というのであればもっと期待感があったはず。でも東京って、もう既に成熟しきってしまった都市なんですよね。だから「そもそもなぜ、いま東京なのか?」というところには最初から疑問があります。

ただ、今の日本って、よくも悪くも超高齢化社会で、他のアジア諸国と比べるとライフスタイル的にもすごく成熟化・多様化していますよね。たとえば、「ロハス」とか「オーガニック」とかそういった健康志向の生活ひとつとっても、ファーマーズマーケットで身体にいいものを買って調理するということ以外にも、色んなスタイルが発達して浸透している。これだけバリエーションのある雑誌が読めて、これだけのファッションの選択肢があるのはやっぱりすごいですよ。

特に都市部で、暮らし方や住まい方は異常なほど細分化して発達しています。都市空間にしても、1つ駅を飛ばせばまったく違うカルチャーが存在していたりするバリエーションはすごいですよね。超高齢化社会に合ったコーポラティブハウスやシェアハウスをうまく使った都市生活も生まれつつあります。ほかにも東京R不動産の馬場正尊さんが提唱しているような「二拠点居住」(平日は都心のマンションにこじんまりと住み、休日は郊外の別宅で広々と暮らす)のようなライフスタイルもあります。だから、「東京だけで完結する」というふうになってしまうと、すごく古い感じがするんだけども、地方と東京のライフスタイルの発信拠点として東京が使えるようになればいい。

――日本って、欧米と比べると労働環境とか家庭環境のハード面では多様性が少ないけど、着るものや食べるもの、読むものといったコンテンツとしてのライフスタイルの面ではすごく豊かですよね。

安藤 やっぱり、日本のライフスタイルにおけるソフト面は、アジアのなかでは突出していると思います。結婚にしても、日本には「婚活」っていう言葉があったり、お見合いや婚活パーティーから出会い系のようなものまで、すごく多様化・細分化されていますよね。欧米のようなカップル文化を持たないがゆえに、恋愛文化が面白い発達の仕方をしていて、そういうところもこれからいろんな国にとって参考になるんじゃないかな、と。

2020年の東京オリンピックを機に、日本の「成熟した多様なライフスタイル」に世界中から注目が集まることで、そういった成熟社会のモデルケースを世界に向けて提案できるのではないでしょうか。(了)