元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな商品は「金融商品」です。
個人事業者として仕事をしていると、値引き交渉をされることがあります。値引きなんて、大阪とこち亀の両さんだけの文化かと思っていました。しかも、自分が値引き交渉をするのではなく、される日が来るなんて!(ぼくは値引きしてほしい、何て言ったことがない)
例えば、ぼくが講演会をするとします。15万円+消費税が通常の取引価格だとします(この金額は、2018年下半期現在の価格です)。
知り合いの紹介であれば、こちらから値引くこともあるかもしれませんが、依頼が来れば、この金額を相手に提示します。基本的には、こちらから提案した金額で話がまとまりますが、「継続的に、お願いしますので、7万円でお願いできませんでしょうか」と値引き交渉をされることがあります。
ぼくとしても、一回15万円をもらうよりは、7万円を10回とか20回でもらえる方が、収入も安定して望ましい、と考えて了承します。気をつけていただきたいのは、「それでは、第1回はいついつにしましょう」と日程を決めて、講演をし、次回はどうなるのかな、と待っていては、次の取引はない、ということです。相手は、値引きを納得させるためだけに、「継続的な取引をする」と言っただけで、実際は、1回でやめるつもりだからです。
一般的に、人的サービスでは商品の売買より気軽に、値引き交渉をされてしまいます。スーパーで商品を買うときに、値引きをしてくれと言う人はいません。仕入れのある商品には定められた価値があると感じているからです(それでもスーパーで値引き交渉をする人がいるとしたら、それは危ない人です)。
しかし、仕入れがなく、人が一人で役務を提供するようなもの、講演、指導、イラスト、執筆などは、働く人の日当を下げるだけなので、値引きをしても原価を割ることがなく、本人が良ければ、価格を下げることができます。
そのような考え方や経験から、値下げを提案してくる依頼主が散見されます。しかし、恣意的な値下げは、同業他社の不利益にもなりますので芳しくありません。
複数回、反復・継続して取引がある場合に、価格を下げることは、通常の取引ではよくあることです。みなさんも、まとめ買いで安く買い物ができた経験があると思います。ただ、契約書も交わさず、サービスを提供してから支払いがあるような個人事業者と法人の取引の場合、そのような約束は反故にされることがあります。はじめの7万円だけ支払い、次の取引はしない。これは、以前書いた囚人のジレンマと似ています。
囚人のジレンマは、ゲーム理論と呼ばれる考え方のひとつですが、今回の取引の場合、二人とも裏切なかった場合より、依頼主が裏切った方が、利得が高くなります。本来は15万円で提供されるものを7万円で提供されるのですから、1回で逃げるインセンティブが働くのは仕方のないことです。
ただ、そういう誘惑があったとしても、実際には行わないのが、正しいビジネスの在り方です。それでも、カイジの周りで起こるような騙し合いが現実世界でも行われてしまう。
では、それを防止するにはどうしたらいいかと言うと、あらかじめ取引回数を決めて、依頼主のトータルの支払金額を、予算に合わせるということです。
「依頼主は7万円の取引を継続する」と言っていますから、何回取引するつもりなのか確認し、例えばそれが4回ならば、第1回は15万円で、第2回は7万円、第3回は5万円、第4回は1万円と、平均が7万円になるように少しずつ金額を下げると良いと思います。そうすると、依頼主は「第一回でやめたら損だ」と考えて、取引を継続せざるを得ません。
初めての取引では、社会的信用のない会社は、個人事業者を騙したり、蔑ろにしたりしても良い、と考えることがあります。あなた自身が知識と疑心を持って、役務の提供を行うことが大切です。
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