元国税職員さんきゅう倉田です。好きな減価償却資産は「牛」です。

いよいよ最終回となりました。2017年から始まったこの連載は280回を超え、お金をテーマに様々な話を書きました。

始まった当初は代官山駅徒歩4分家賃5万4,000円の2畳のアパートに住んでいて、この連載が決まったときにその報酬をすべて家賃に注ぐと決めて引っ越しました。

その頃とはぼくの芸人としての活動は大きく変わり、なんだかんだすったもんだあってお笑い業界全体も大きな変化を促されました。芸人が仕事に特技や趣味を活かすことは、この7年くらいで一般化されました。「なんでもあり」の働きやすい時代になりました。

ぼく個人の変化では、この連載を読んでくださった方から執筆や出版の依頼が来るようになり、ぼくの収入の柱である講演会をするようになり、劇場に立つことを辞め、税金やお金の勉強に時間を使うようになっていきました。

学びの楽しさを知ったことで、東大に入り、また勉強ばかりしています。会社員だったらこれほど勉強をしなかったかもしれません。芸人という職業が自分の学びを仕事につなげやすかったから、仕事のために勉強し続けています。

直接仕事につながらない学びであっても、教養という土台が思考を豊かに正確にしてくれます。ヒトには「限定合理性」があるからです。つまり、その人がどんなに賢くとも、持っている知識の中でしか正しい判断ができない。よって、知識を増やすことが重要です。素晴らしく賢い人が騙されたり簡単なことを間違えたりする理由の一つとして、知識不足で正しい判断ができないことが挙げられます。

前回の「法を学ぶことの意義」とも関連しますが、韓国の主要な大学では学部で法律を学ばせることを止め、法科大学院で学ばせます。また、アメリカの大学も学部では法律を学ばせません。では法曹に進みたい学生は学部で何を学ぶのか。

思うに、他分野を教養として広く学ぶのではないでしょうか。そして、それが後の法の学習や法曹での就労に役立つ。

そういえば、日本の公務員試験では30以上の分野から出題されます。公務員になりたい受験生は幅広く知識を習得することになります。社会常識として様々なことを学んだうえで、採用されてから専門的な知識を身につけることで、より速やかで合理的な判断ができるのだと思います。

この連載では公務員の良さを伝えたこともあったように思います。仕事ができてもできなくても、大卒の平均くらいの給与が支給されるという点でいつの時代も魅力的です。とくに、試験の倍率が大幅に下がっているため、ちゃんと勉強すれば誰でも公務員になれるという点で、費用対効果が優れています。

例えば、ぼくが受けた当時の国税専門官試験の倍率は13倍でしたが、現在は3倍強となっています。公務員試験は基本的に併願するので、4つは受験します。倍率3倍程度の試験を4つ受けられるのなら、真面目にやっている人は合格しそうです。

少し前に芸人さんのYouTubeを見ていたら(自分たちの職業なのに敬称をつけるようになったのもここ数年の変化の一つです)、東京吉本の主戦場である渋谷無限大ホールの芸人さんたちが、どの程度の報酬を得ているか知ることができました。

M−1の決勝に行くくらいの実力があっても、最も高い人で月額60万円。30代中盤という年齢を考えると決して恵まれているとはいえません。

毎日劇場の仕事がある芸人さんだと毎月20〜30万円の収入がありますが、年齢を重ねれば増えるわけではなく、むしろ減っていく可能性もあるため、将来のことを考えると不安が過ぎるかもしれません。だから、我々芸人は将来のことを考えないように生きています。

この20万円以上稼ぐ芸人さんが、社会一般にどのくらいの能力があるかというと、大企業の部長程度であると感じています。

そのくらい卓越した能力がないと、お笑いで20万円も稼げない。だから彼らはもっと稼いでもいい。月収を聞くたびに、お笑いがお金にならない職業だとつくづく感じます。

一方で、ぼくのようにお笑いの能力が高くなくとも、自分の得意なことを見つければ生き抜くことができる。この連載はその契機になりました。すべての皆さんに感謝して、筆を置きます。ありがとうございました。

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