元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな法律は「所得税法」です。

先日、報酬の不払いが発生しました。

永遠に払わないわけではなく、事前の打ち合わせではすぐに支払われると聞いていて、役務提供の後に請求書を送ったところ、「社内規定で、◯◯が終わってからのお支払いとなります」と通知されたのです。「年末に、また請求書をお送りください」とのことでした。

これに対し、怒ったり不快に感じたりすることはありません。ただ、「困ったな」とはお思います。

下請法の禁止行為と義務

再度、請求書を送るということは、「日付を変えてくれ」ということだと思います。法人の税務調査をしていると、請求書の日付に敏感になります。稀にですが、決算期をまたぐような取引では、日付をずらして所得を圧縮する行為があるからです。

ぼくが請求書を送った相手は経理担当者でもないし、社長でもないし、向こうの勘定科目は売上なので、そのようなことはないと思います。

それでも、日付を変えて改めて請求するというのは、望むところではありません。ぼくは迷いました。「それはできません。速やかにお振込みください」とは言いづらい。説明も面倒ですし、悪評が立つかもしれません。だからといって、いただいたメールに対し「承知しました」と送ると、文字通り「承知した」ことになってしまいます。

日付を変えること以外にも問題があります。下請法上の問題です。

下請法では、「親事業者の禁止行為と義務」を定めています。その中には、60日以内の支払い義務や遅れた場合の利息の支払い義務が明記されています(詳しくは、「下請法」で検索を)。

ぼくの今回の取引相手も下請法違反に該当します。ただ、「下請法違反ですよ」などと言ったら「面倒なやつだな」と思われてしまいます。みなさんも、友達に暴言をはかれ、胸ぐらをつかまれても「侮辱罪だ」「暴行罪だ」と警察を呼ばないと思います。それに近い感覚です。

法律に則ると良くないことではあるけれど、細かいことを言っていたら住みにくい世の中になってしまう、自分が我慢すればいいいし、まあいっか、そんな気持ちです。

ただ、見過ごせない下請法違反もあります。それは、「倫理的にも許せない行為」です。

不当な経済上の利益の提供要請(第2項第3号)

昔、ぼくがまだアルバイトをしていたころ(そう、実は、ぼくは売れていないのに今はアルバイトをしていない!)、週に3回、大手の家電量販店で携帯電話を販売していました。

ぼくは、派遣会社から派遣されていましたが、携帯電話コーナーは、その家電量販店の社員が統括していて、ぶいぶい言わせていました。

社員は、スマホケースの陳列など面倒な作業があると、スマホケースのメーカーの人に「すぐ来て、陳列手伝って」と電話をしていました。すると、メーカーの若い社員が30分くらいでやってきて、ひとりで陳列をします。1時間ほどで陳列を終えると、お礼も言われずに帰っていきます。

複数のメーカー社員がいましたが、彼らは月に2,3回は、大した用事もないのに、呼び出されて、軽作業をやらされていました。傍から見ていて、とてつもなく不快な行為でしたが、一介の派遣社員であるぼくには何も言えません。言ったとしても、何も変わらない。自分の無力さも、また不快でした。

そのときは不勉強で知りませんでしたが、家電量販店の社員の行為は、下請法違反です。下請法では、不当な経済上の利益の提供要請を禁止しています。つまり、家電量販店が自分の店に商品を置く下請のメーカーに対して、お金や的無の提供を行わせて、下請メーカーの利益を不当に害すると、下請法違反となります。

「商品置いてやってんだから呼んだらすぐ来いよ、来ないと、お前のところの商品のコー狭くするぞ」とは言わないまでも、そういうことのできる立場の人が、弱い立場の人に対する不当な依頼はあってはならないことです。

要請された人も、そんな仕事たのしいわけがありません。いつか辞めてしまうかもしれない。誰かの軽はずみな行為が、一人の人生を変えてしまうかもしれない。それぞれのお金や労働、取引のリテラシーが高ければ、不当な行為は減っていきます。自分と他人を守るためにも、正しく豊富な知識を身につけてください。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。

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