元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな面接は「圧迫面接」です。

ぼくは現在、芸歴10年目です。

10年目にもなると、指名の仕事がたくさんあります。特に、確定申告や消費税増税といったイベントがあると、テレビやラジオの方が、声をかけてくださいます。

そんな中、稀に、オーディションに臨場することがあります。

オーディションは、まず、マネージャーさんからその詳細が送られてきて、条件に該当するようであれば返信し、声がかかれば指定された日時に指定された場所に伺います。当日は、テレビ局や吉本興業本社の会議室で、概ね一組10分ほどの時間を使って、要求されたものを披露し、質問に答えます。

オーディションは、圧倒的な買い手市場です。

オーディションに参加している以上は、芸人たちはその番組に出演したいと考えています。出られるか否かは、目の前のディレクター次第。

多くの芸人が、テレビに出たいという気持ちを強く持っているので、冗談を言われれば愛想笑いをし、多少不快なことを言われても媚びへつらいます。

一般社会だと、面接に似ているかもしれません。

ぼくも、何度かアルバイトの面接を受けたことがあります。その多くが飲食店で、面接を担当したのは主に店長でした。

彼らが、面接に来たぼくに丁寧な対応をすることはなかったように思います。約束の時間に到着しても平気で5分ないし10分待たせるし、待たせても謝罪しません。

でも、若い頃のぼくはそんなことも気にせず、採用してもらいたい一心で、謙(へりくだ)っていました。

昔、大手チェーンの居酒屋の採用面接を受けたことがあります。

電話をすると、3日後の16時に店に来るように言われました。当日、5分前に店に到着すると、まだ入り口の鍵は開いておらず、付近には誰もいません。15分ほど経ってから店長がやってきて、「面接?入って」とぼくを促しました。傷んだ、いや痛みきったテーブルが設置された客席に通され、エントリーシートを記入するように指示されます。5分ほどで書き終わり、待機していると、店長が急に声を荒らげて言いました。

「君を待ってるんだけど!」

書き終わったら、知らせて欲しかったようです。たしかに、知らせるべきだったかもしれません。当時の未熟なぼくは、そのことがわかりませんでした。

ただ、ぼくも、店の前で店長を待っていたのに、エントリーシートの記入で数十秒待たせただけで、そのように言われてしまうのはとても悲しい。

店長って、そんなに偉いんでしょうか。

先日、テレビのオーディションに行きました。

そこでは、事前に提示されていたお題に沿って、いくつかの話をしました。 しかし、目の前に構えるディレクターがところどころ、話を否定してきます。

例えば、ひとつきの医療費を抑えるために、歯医者が「来月来てください」と言う、という話があったとします。なぜそういうかは、ここでは割愛しますが、ディレクターは「それだと、次の月にお金払うんだから、結局一緒じゃん」などと言うのです。

患者がトータルで支払う金額は一緒でも、ひとつき当たりに支払う金額は異なります。でも、そのことが理解できず、深く考えることもせず、他人の用意した話を安易に否定する。ぼくだったら、そんな恐ろしいことはできません。

ぼくが愛してやまない辞書の話もしました。

辞書界では有名な「右」の語釈。古くは、方角で示されていた右の語釈を、岩波国語辞典が「この辞書を開いて読む時、偶数ページのある側をいう」と表記して業界が震撼したという話をしました。

30秒ほど考えてもらい、ディレクターの考えた「右」の語釈を褒めてから、岩波国語辞典のその語釈を紹介しました。すると

「ふーん、でも、右を調べる人は、『偶数』もわからないから、だめでしょ」

などというのです。本質を理解していません。辞書を引いている人の目の前にあるもので右を表す画期的な表現ですし、偶数が分からなければ、引けばいい。なにより、辞書を作っているプロの方々が評価しているもの、さらに目の前のぼくが好むものを、よく考えもせず否定することに、正当性があるのか疑問です。

ディレクターは、その後も、その前も、数々の礼節を欠いた発言をしていました。そういう人は、基本的に仕事で成功することはありません。取引先を自由に選べるこの業界で、失礼で無礼な愚か者と仕事をしようと思う人はいないからです。

そして、これから一緒に仕事をする可能性があるオーディション参加者や面接に来た人に配慮しないような人間が、仕事ができるわけがありません。きっと、そこかしこでミスをするでしょう。意味のない無礼は、その人の得られる利得を下げる要因となります。

みなさんがそういう人に出会ったら、まったく恐縮する必要はありません。年上や買い手に対して、必要以上に緊張をすることがありますが、彼らはたまたま、向こう側にいるだけで、あなたより優れているとは限らないからです。ただ、ぼくはこう思います。こういう人は反面教師としては優れているので、出会いそのものには感謝したいな、と。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。

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